第2回フレッシュホップフェスト2017

日本のホップ生産者とビールのつくり手、
そして飲む人を繋いでいきたい!

フレッシュホップフェストは、今年収穫した国産ホップでつくったビールを楽しむお祭りです。
2017年は、全国のクラフトブルワリー31社が参加。全国各地のビアパブで順次開催します。

ホップサミット2018春、開催

2018年3月2日(金)@一関市のいわて蔵ビール

2018年3月2日(金)、一関市のいわて蔵ビールにて、「ホップサミット2018春」が開催されました。この日は強風で東北新幹線が大幅遅延。そのため開始時刻を2時間ずらしての開催という事態にも関わらず、風が吹き荒れる一関にホップグロワー、ビールブルワーを中心に参加者約50名が集まりました。

今回のコンテンツは下記の通り。

第一部

  • ホップサミット2018春 開会宣言(日本ビアジャーナリスト協会代表 藤原ヒロユキ)
  • ドイツ・ハラタウ視察報告(キリン株式会社 浅井隆平)
  • アメリカ・ポートランド視察報告(株式会社NextCommons ディレクター、遠野醸造 田村淳一)

第二部

  • ブルワリーよりホップ農家の皆さまへ(いわて蔵ビール 佐藤航)
  • キリン村上博士によるホップ講座(キリン株式会社 村上敦司)
  • ホップ生産者グループディスカッション(座長:スプリングバレーブルワリー株式会社 田山智広)
  • 閉会の挨拶(日本ビアジャーナリスト協会代表 藤原ヒロユキ)
  • 懇親会(フレッシュホップフェスト2018の説明)

本来のスケジュールであれば、いわて蔵ビール佐藤航社長の「ブルワリーよりホップ農家の皆さまへ」の後にいわて蔵ビール醸造所見学だったのですが、開始時刻をずらしたため先に醸造所を見学させていただく流れとなりました。

醸造について説明するのは後藤孝紀工場長。

その説明に耳を傾ける参加者の皆さま。

「フレッシュホップは通常のホップと比べてどう違うんですか?」
「お客さまからはどんな反応があるんですか?」
「一度にホップを何キロ使うんですか?」
といった質問が飛び交いました。

これまではあまり接点がなかったホップグロワーとブルワー。こういったやりとりが、ホップサミットを開催する意義のひとつといえるでしょう。

工場見学の後も情報交換・交流に熱心な様子でした。

そして、予定よりも遅れること2時間、いよいよ開会です!

まずは、日本ビアジャーナリスト協会代表 藤原ヒロユキの開会宣言。2018年の国産ホップの輪を広げていく取り組みが、ここからスタートします!

ドイツ・ハラタウ視察報告

第一部は視察報告です。まずは、キリン株式会社の浅井隆平氏による、ドイツ・ハラタウの視察報告。

ドイツのハラタウは世界的にも知られているホップの産地。ドイツでは、30年ほど前からホップ生産を機械化するようになり、組織体制もしっかりしているそうです。日本もドイツに学べるところがあるのではないかということで、視察の内容を報告してくれました。

報告のすべてを紹介することはできませんが、ホップ栽培で日本との違っていたのは支柱の数。日本では畝に支柱を立て、強風にも耐えられるようにしていますが、機械が入れられない(入れにくい)というデメリットがあります。

ハラタウでは、支柱を減らしつつ強度を保つ方法が取り入れられています。この図にある●が支柱です。

かなり支柱が少なくなっている印象ですね。こうすることで株の個数を増やすことができ、ワイヤー付けなどの作業を機械で行うことができます。収穫もトラクターに1人乗るだけで、人手が少なくても可能になっているとのこと。

なお、YouTubeでもホップ関連の動画がたくさんアップされているので、海外ではどんな作業を行っているのかを見ることができます。ただ、「hop」で検索してしまうと、ヒップホップなどの動画ばかりが出てきてしまうので、ドイツ語の「hopfen」で検索するといいそうです。

「hopfen」で検索してみたのがこちら。
https://www.youtube.com/results?search_query=hopfen

興味深い動画がたくさん出てきます。

アメリカ・ポートランド視察報告

続いては、株式会社Next Commonsチーフディレクター、遠野醸造の田村淳一氏による、アメリカ・ポートランドの視察報告です。

遠野醸造のある岩手県遠野市は日本のホップの一大生産地。しかし、後継者不足などによるホップグロワーの減少もあり、ホップを守るだけでなくビールによるまちづくりを進めています。そのまちづくりの参考にということで、世界一ブルワリーの数が多い街といわれるアメリカ・ポートランドへ。

ポートランドでは、ブルワリーがどうやってコミュニティを広げていくかを考えているようです。

例えば、ブルワリーが廃材センターやヨガ教室などとコラボレーションすることによって、お互いのファンを増やすことができ、コミュニティの拡大に繋がります。

また、お店をオープンする際に、近くの家にずっと25%オフになるカードを配るなど、地域との繋がりも大切にしているブルワリーもあるとか。

さらには、街の中心部は地価が高いため、郊外に造られるブルワリーも多く、「ファミリー&フレンドリー」をコンセプトに、ビールを飲むだけでなく家族で楽しめるようなところも。ブルワリーをベースに人が集まってくるようになっている地域もあるそうです。

ブルワリーはビールを造るだけでなく、その後にどう地域と関わるかが重要なようですね。ただ、田村さんがアメリカで言われたという、こんな言葉にも気づかされることがあります。

「ビジネスモデルを考えすぎず、みんなが楽しいと思うことを」

これは、今後のまちづくりのキーワードになる言葉かもしれません。

ブルワリーよりホップ農家の皆さまへ

休憩を挟んで第二部に入ります。最初は、世嬉の一酒造株式会社(いわて蔵ビール)の佐藤航社長より、ホップ農家の皆さまへのコメント。抜粋してご紹介しましょう。

岩手のホップ生産量が日本一だというのは知っていましたが、これまで使うことはできませんでした。

クラフトビールのブルワリーではひとつのホップが流行ると、その品種がよく使われるようになります。例えば、ニュージーランドのネルソンソーヴィンというホップが人気になると、いろいろなブルワリーでビールが造られるようになる。

確かに、インパクトがあって売れるビールになるんですが、もともと地ビールと言っていた私どもとしては、地元のものを使っておいしいものを造りたいという願いがあります。なので、「IBUKI」を使ってビールを造れるというのがすごくうれしいのです。

もし可能なら、将来的に日本のホップがブランドになればいいと思っています。私どもは小さいクラフトビールブルワリーですが、海外からの引き合いも多く、アメリカ、アジア圏、に輸出が始まっています。その際に、ネルソンソーヴィンやアメリカのホップを使ったビールを輸出したとしても、それほど特徴はありません。私どものビールで一番輸出量が多いのは、山椒を使ったジャパニーズハーブエール山椒なんです。

地ビールができた頃は、大手ビールやドイツ、アメリカの模倣から始まりました。しかし、これから造っていかないといけないと思っているのは、日本らしいビール。私たちは東北らしいビール、酒蔵らしいビール。そのときに、アメリカのホップを日本で作っていて、それでいいのかという疑問もひとつあります。

これから、日本のクラフトビールはジャパニーズスタイルを作っていかないといけないと思っています。外国人の方が飲んで、日本のホップってこういう香りがするんだ、とか日本のクラフトビールはおいしい、と思ってもらえるような世界が作れればと願っています。

キリン村上博士によるホップ講座

続いては、キリン株式会社の村上敦司博士によるホップ講座です。

お話は2部構成になっていて、前半は2017年は国産ホップにとってどんな年だったのか、というお話。

簡単にまとめさせていただくと、2017年は大豊作の年だったようです。早めに収穫したホップは苦味・香成分に若干乏しい部分もあったかもしれませんが、全体的には豊作だったとのこと。

ただ、8月に湿度が高くなり、少し間違えればベト病が大発生し、一転して最悪の結果になりかねない状況。そんな状況でも豊作になったのは、ホップグロワーの皆さんの努力によるものなのでしょう。

後半は、2017年は豊作だったことを受けて、「では、豊作の年とはどんな年なのか」というお話でした。

ホップの収量は、次のような式で表されます。

収量=毬花数×毬花重×蔓数

蔓の数は基本的に変化しないはずですので、つまり豊作の年というのは変数(毬花数と毬花重)が最大化したとき、と考えられます。

そこで、村上博士が2009〜2016年の遠野の平均収量と気象データを組み合わせ、豊作になるのはどんな年かを解析してみました。収量については、「畑のバラつきを考慮し、プラスマイナス5%、プラスマイナス10%を標準偏差とした」とのこと。この5%、10%であれば、信頼できる解析結果が出るということらしいのですが、これが最後の興味深いまとめにつながります。

さて、この膨大なデータを解析すると、気象データと収量の相関関係が見えてきます。計算方法は省きますが、例えば5月上旬の雨量が多くなると収量が増え、一方で6月上旬の最大風速が強いと収量が減るといった関係がわかりました。

このように解析してみると、6月上旬に風速が強くなると蔓の先端が折れるから収量が減る傾向にある、といったように気象と作業との関係がわかり、とてもおもしろい分析に。

そこで、先ほど収量のバラつきを「プラスマイナス5%、プラスマイナス10%」に設定したとのことでしたが、これを「プラスマイナス10%、プラスマイナス20%」にしたとたん、解析結果が信頼できないデータになったそうです。

「プラスマイナス5%、プラスマイナス10%」であれば収量と気象の関係が説明できるけれども、「プラスマイナス10%、プラスマイナス20%」では気象データでは説明できなくなる。

つまり、平均収量よりも10%以上多くなる場合は、気象では説明できない「農家の技」が関連しているのではないか、ということ。プラスマイナス10%までは気象のおかげ(または気象のせい)とも言えますが、それ以上(以下)になるとそこには農家の見えない力があるのだそうです。

データの解析だけでもおもしろい発表でしたが、無機質なデータから「農家の技」を見出すところはさすが村上博士。素晴らしい発表でした。

ホップ生産者グループディスカッション

続いて、スプリングバレーブルワリー株式会社マスターブリュワーの田山智広氏を座長とし、ディスカッションが行われました。

今回も参加者多数でしたので、主にホップグロワーの自己紹介と現状や疑問などについて順番に発表。もう何十年もホップ栽培をされている方から、これからホップ栽培を開始するという方まで、本当に多くの方々に集まっていただきました。

ホップグロワーの疑問に対して村上博士がアドバイスする場面もあれば、

参加者同士で「こちらではこんな対策をしています」といったような情報交換も。

これまではなかった生産者の横のつながりが、こうやって少しずつ増えていくことでしょう。最後は藤原ヒロユキ氏による閉会の挨拶。

そして、最後は懇親会です!

ここからは希望者のみの参加になりましたが、多くの方が残って交流を深めているようでした。用意されたビールは「とれたてホップ一番搾り」。東北では、秋にこのビールが発売されるとケース買いして、翌年までずっと飲んでいる方も多いそうです。

乾杯は佐藤航社長。

3月の東北はまだまだ冷えますが、多くの方が夜まで交流を深めていたようです。

東北新幹線の遅延で一時はどうなることかと思いましたが、皆さまのご協力もあり無事終了。ホップグロワーとブルワーがさらにつながることで、今年はどんなビールが飲めるようになるのでしょうか。いまから楽しみです。


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ビアライター

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富江弘幸

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1975年、東京都生まれ。法政大学社会学部卒業後、出版社でライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。その後、中国に留学し、四川大学海外教育学院修了。帰国後は新聞社で書籍等の編集者に。現在はビアライターとして活動中。ビアジャーナリストアカデミーの講師も勤める。
著書:BEER CALENDAR』(ワイン王国)
連載:あなたのしらない、おいしいビール』(cakes)
執筆:『ビール王国』(ワイン王国)、『厳選世界のビール手帖』(世界文化社)、『日本のクラフトビール図鑑』『ビールの図鑑』(マイナビ)、『極上のクラフトビールが飲める120店』(エンターブレイン)など

Twitter:hiroyukitomie