Fresh Hop Fest. 2018

ひろげよう!ホップの輪

今年収穫した国産ホップでつくったビールを楽しむお祭り

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  • 10.28(Sun.)
  • また今秋乾杯しましょう!

上富良野からの便り~忽布古丹醸造

小泉 進八

フラワーランドかみふらの」のキャットミント。6月末にはラベンダーが咲き始めます(2018年5月24日撮影)

みなさん、富良野という言葉を聞いて思い浮かぶものは何でしょうか。ラベンダー?北の国から?キタキツネ?もしかすると数年後、「ビール」という言葉がそこに加わるかもしれません。その原動力となる忽布古丹醸造(ほっぷこたんじょうぞう)が北海道上富良野町で活動を開始しました。

忽布古丹醸造は、元「ノースアイランドビール」のヘッドブルワーである堤野貴之氏が、道内で唯一ホップを栽培している上富良野町で、地元のホップを使用したビールを醸造したいと2017年1月に立ち上げました。2017年5月に行われたクラウドファンディングでは、18時間で目標金額を達成。最終的には当初の目標の4倍近くの支援金を集め、一大ニュースとなったことは記憶に新しいのではないでしょうか。それから一年。雪も解け、いよいよ本格始動の春です。そこで、上富良野の圃場に堤野貴之氏と、4月から合流した元「うしとらブルワリー」のヘッドブルワーである植竹大海氏を訪ねてきました。

左から植竹氏と堤野氏

忽布古丹醸造向けのホップは、上富良野町のホップ生産者さんが所有する圃場の一部(0.3ha)で栽培されています。忽布古丹醸造として可能な限りホップ栽培も手伝っていきたいと、収穫線や誘導線の設置にも加わりました。誘導線とはホップが巻きつき上へ伸びるための紐で、収穫線はその誘導線を結びつける鉄線です。準備が終わった圃場は、ホップの蔓が延びるのを待つばかりとのことです。栽培品種は4年目になるカスケードと、志賀高原ビールから譲り受けたウィラメットとセンティニアル。カスケードは初めて株分けもしました。新しく植えたホップが十分な収量になるまで育つのに3年かかると言われますが、元株のカスケードと合わせて、今年から上富良野産ホップでの醸造が開始されます。

初めて株分けしたカスケード。まだこれからのようですね。(2018年5月24日撮影)

元気に育つ元株のカスケード(2018年5月24日撮影)

作業をしていたホップ生産者さんに、巻き付ける蔓の選び方や、早く成長しすぎることの影響について質問する堤野氏。なにげない会話なのですが、生産者とそれを使う人が直に交わすところに、化学反応の芽が育っているような気がしました。「新たにホップ農家になるにはどうしたらよいか」という私の質問には、「畑の形状や持っている設備で、それぞれが工夫していかなきゃいけない。ホップを作っている農家で修行してという経験がないと、とてもじゃないがむずかしい。どうやって棚を建てるのかとか、やりたくてもできないでしょ」と、経験に裏打ちされた確かな言葉で答えてくれました。この人の作ったホップが入ったビールを飲みたい。そう思わせられます。

圃場を後にして、工事中の醸造所で忽布古丹醸造の現在の状況を聞きました。醸造所は上富良野町の深山峠アートパークの物産館の一部を利用します。5月中旬に志賀高原ビールから譲り受けた設備がブルーハウスに設置され、6月13日にはクラウドファンディングの支援金で準備した8基のタンクが入ります。そしていよいよ、7月に醸造開始です。同所で月に一度はタップをつないでビール会をする予定とのことなので、観光と合わせて訪れるのも良いのではないでしょうか。

志賀高原ビールから譲り受けた設備

タンクが入る部屋を見回る二人。正面右の扉にタップスペースがあり物産館とつながる

植竹大海氏の合流のニュースに驚いたビアラバーも多いのではないでしょうか。国内トップクラスの2人のブルワーが、どのような体制で醸造していくのか堤野氏に質問してみました。「もちろん僕も醸造するけど、大事なところは二人でやりつつ、知識や経験が豊富な植ちゃんに醸造を引っ張って行ってもらう。その分、僕は営業のほうにも力を入れられる」。上富良野町で栽培するホップは、ほとんどがサッポロビールの契約栽培のため、町全体サッポロビール色が強いという背景があるとのこと。そのような状況で、忽布古丹醸造がどのように地域に愛されるかを考え、サッポロビールと協力して新しいこともしたいと語ります。また、やがてはモルトも上富良野産を使用したいとワクワクを語る堤野氏。その活動を植竹氏が力強く支えるこの体制はとても理想的じゃないでしょうか。

忽布古丹醸造のどこに一番惹かれたのか、地元の埼玉から北海道に来ることに躊躇はなかったのかを植竹氏に聞いてみました。「ブルワーは原料を扱うけれど、それ自体がどうやって造られているのかを見る機会がないんです。それに関われるということに惹かれましたね。北海道は好きで毎年来ていたんです。いつか住みたいと思っていたので、今しかないと。自然の成り行きだと思います」引っ越して2ヵ月。すでに自然に囲まれたのどかな環境に順応し、街に行くと人の多さ驚いてしまうと、上富良野の空のようにすっきりとした笑顔で話してくれました。

北海道だけではないですが、地方の疲弊や過疎は大きな課題となりつつあります。ついつい地方で起業をすると、「人は集まるのか」「採算は取れるのか」ばかりを考えてしまいがちです。私もこの取材をするまで、そうした絡まった思いに捕らわれていたのですが、堤野氏の答えがそれをほどいてくれました。

話題性のためではなくて、うまいものをつくるために地元のものを使う。「地元の材料を使ってビール造ってみました」じゃなくて、うまいビールを造ることが目的!!

忽布古丹醸造の「挑戦」。そんな力んだ言い方よりも、なるべくしてなった自然の成り行きが、上富良野での忽布古丹醸造の始動の背景なのではないでしょうか。そう、まるで忽布(ホップ)が誘導線を駆け上るように。

以上、上富良野からの便りでした。

小泉 進八

2018年、関東から北海道にUターン。これを機に、北海道のビール業界を盛り上げる一助になればとビアジャーナリスト活動を開始。『ひとりひとりのビールに対する思いを大切にする』をモットーに、地域に根ざした活動やそこで生活をする人たちの思いを紹介していきたいです。
趣味は絵画鑑賞とファンラン

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