2018年10月5日(金)にスプリングバレーブルワリー東京にて「ホップサミット2018秋」が開催されました。夏から秋にかけて、猛烈な台風が日本列島を駆けぬけるたびに災害に見舞われた今年、この日もまさに九州地方へ台風25号が迫る中、全国からホップグロワーの皆様が参加いたしました。
今回のコンテンツは下記の通りです。
- ホップサミット2018秋 開会挨拶 2018日本のホップ事情(スプリングバレーブルワリー 田山智広)
- 基調講演
①農業法人"BEER EXPERIENCE"設立の経緯(BEER EXPERIENCE取締役 浅井隆平)
②農業法人"BEER EXPERIENCE"今後の方針(BEER EXPERIENCE代表 吉田敦史) - ホップそよ風通信(全国のホップグロワーの活動報告他)
①ホップジャパンの圃場から2018(株式会社ホップジャパン 代表取締役 本間誠)
②大分県竹田市の圃場から2018(九州竹田市産ホップ研究会 株式会社花公園 社長 塩手 亨)
③和歌山県高野町の圃場から2018(株式会社三つ星ファーム 神野光)
④新潟県ホップ屋の圃場から2018(ホップ屋 代表 山家悠平)
⑤長野県東御市の圃場から2018(株式会社信州東御市振興公社 オラホビール マーケティングマネージャー 戸塚正城)
⑥山梨小林ホップ農家の圃場から2018(小林農園 小林吉倫)
⑦京都府与謝野町の圃場から2018(京都与謝野ホップ組合 好地 史) - 講演 最新!世界のホップ育種情報(キリン株式会社酒類研究所 杉村哲)
- 閉会の挨拶
- 懇親会
第一部
第二部
(敬称略)
第一部
「ホップサミット2018秋」は、ホップを育てるグロワーの皆様が、現状や課題、質問などを情報共有し、問題点はみんなで解決していこうという場です。
3時間という長丁場ながら参加者全員が発表もするため、それぞれ10分の持ち時間で様々な報告を行います。
当日は国産ホップのお祭り「GINZA de FRESH HOP FEST」@銀座ソニーパーク内"BEER TO GO"by SPRING VALLEY BREWERY開催の前日で、その1日前に開催されたメディア向け概要説明会でのスプリングバレーブルワリー(以下、SVB)新社長島村宏子氏の就任抱負に関するメディア掲載、及び、朝日新聞が8月9日に掲載した国産ホップ栽培に関する記事コピーが、SVBマスターブリュワー田山智広氏より配布されました。いずれも国産ホップに大いに着目した記事であること、その期待度の高さを伝え、開会に際して檄を飛ばしました。
基調講演① "BEER EXPERIENCE"設立と今後の展開
日本国内最大のホップの産地である遠野市の今年の生産実績は43t。ピーク時には229t(昭和62年)であったため、これまで公に発表していた実績よりもさらに低いおよそ1/5であったと農業法人"BEER EXPERIENCE"取締役の浅井隆平氏から話がありました。それを盛り返すため2015年に立ち上げた「ホップの里からビールの里へ」という遠野市のまちづくり活動では現在様々な活動が活発に行われています。様々なイベント開催やブルワーやグロワー募集、中でも特に一番注力しているのが「遠野ビアツーリズム」です。ホップの魅力をあらゆる角度から知り、実体験することでビールへの興味がさらに深まりもっとビールがおいしくなる最上の機会「遠野ビアツーリズム」のコンテンツ磨きに注力し、初代ビアツーリズムガイドとなったMJこと美浦純子さんを紹介し、彼女に続くスタッフをどんどん増やしていくとの話がありました。
ブリュワー、グロワーなどの仲間も増え、パワーアップする遠野のプロジェクトの今後の課題は、それぞれが手一杯になった時などにも全体をコントロールするプロデューサーが必要であるということ。そこで立ち上げたのが民間マネジメント組織BrewGood社。この日まさに登記完了したところとのことで、代表取締役となる田村淳一氏より「様々な地方での活用も見据えたビジネスモデルを目指し、活動をスタートさせていく」との追加説明もありました。
基調講演② "BEER EXPERIENCE"今後の方針
ホップ農家として遠野でスタートした吉田敦史氏からは、代表取締役社長としてBEER EXPERIENCE社の今後の展開の説明がありました。
畑は、現状66aの畑にキリン2号の栽培のみですが、今後の目標は、来年度中に面積を8haに広げ、すべてMURAKAMI SEVENの栽培を目指すと話がありました。その面積拡大に伴い、栽培方法をドイツの方式に習う効率的な栽培方法にガラリと変更するとのことで、実際に吉田氏が現地で学んできた効率的な栽培及び収穫方法について紹介がありました。日本で行われてきたやり方とは違い、より作業効率を考えた支柱の立て方、少人数での収穫方法などと併せ、ドイツ・ハラタウ地方のホップ生産農家が小規模であっても導入しているという株ごしらえの機械について紹介がありました。それはかなり慣れない人でもたった1人で2haの広い畑が12日で作業させられるとのこと(遠野での平均的な実績は、70aの畑を手作業で約2週間以上はかかる)。作業効率、そして安定生産を目指すことで、ホップが遠野市民の誇りとなり、地域活性するという50年後の未来を見据えた活動報告に、参加者の興味も集まりました。
ホップそよ風通信① ホップジャパンの圃場から2018
福島のホップジャパンの代表取締役本間誠氏からは、畑での大きな課題となっている高所作業とつる下げの対策についての説明のほか、福島県田村市で進めている"グリーンパーク・ホップ・ブルワリー構想"について説明がありました。ホップはすでに稼働しているビール醸造のために育てるのが通例ですが、ここでの考え方は、ホップを栽培することからスタートし、それを活用するためにビール醸造をスタートする、さらにそれを軸に周辺の産業を活用し盛り立てるという循環型のビジネスモデルです。本間氏は、これは特に地方で有効なビジネスモデルであると熱く語ります。例えば地方には活用しきれていない施設や土地があり、また、ネット環境やコンビニエンスストアの普及による田舎暮らしのハードルが下がり魅力がアップしていることで、場と人が揃い、地方だからこそ生かせるビジネスモデルとして推進できるとのこと。田村市周辺は温泉地もあり、米どころでもあります。また隣町ではワイン醸造も行われており、ワイン樽の再利用なども視野に入れ、魅力を膨らませていくことが可能。「ホップ、ステップ、ジャンプ、ならぬ、ホップ、グレープ、ライス、なんです!」と語ってくれました。
ホップそよ風通信② 大分県竹田市の圃場から2018
大分県竹田市のホップは「くじゅう花公園」を運営する株式会社花公園が中心となる九州竹田産ホップ研究会により2017年からスタート。今年が初収穫となりました。株式会社花公園の社長 塩手 亨氏から、竹田市は大分県内で農業生産量1位、また、滝廉太郎の「荒城の月」の舞台になった岡城址や長湯温泉など人気観光地であるものの、住民の超高齢化、過疎化が大きな問題と説明があり、その対策として農業と観光の両メリットを生かす農作物を探したことがホップにつながったと説明がありました。ヒントは以前から交流のあった遠野市からの情報で、早速研究会をスタート。市内3カ所に圃場を作り、事前の土壌検査で数値に異常が見られた久住圃場の土壌改良を行い栽培をスタートしたものの、久住圃場のみ発芽が遅く、成長しても全く毬花はつかずに全滅という結果になったとのこと。この件は逐次キリン株式会社の村上敦司博士の助言を仰ぎ、村上氏も直接現地に赴いて確認したところ、すべて根腐れを起こしていたことが発覚。土地の高度や水はけなどの問題はないものの、⑴株開き、株揃えのタイミングの遅れ(3圃場のうち一番遅い)⑵土壌改良不足を問題点として捉え、対策を施す予定。他2カ所は順調に育ち、当日はそのホップを使い、宮崎ひでじビールで醸造したフレッシュホップビールがふるまわれました。
(田山氏より)遠野ホップ組合の佐々木組合長に聞いたところ、密植(30cm以内)にすると根に悪い影響があり、さらに株の近くに肥料をやることも悪い影響になったのでは、とのヒントも頂く。
ホップそよ風通信③ 和歌山県高野町の圃場から2018
平成29年度の「わかやま農商工連携ファンド」を採択した、和歌山県の三ツ星ファームと和歌山麦酒醸造所三代目(株式会社吉田)は、高野町富貴地区にて今年4月より「WHOPPER」としてホップの栽培を開始しました。三つ星ファームの神野光氏より、初年度の今年は四苦八苦してなんとか収穫まで至ったとの話がありましたが、実績のある遠野の視察を元にホップ栽培の高所作業と地元農家の高齢化などを考え合わせ、手動で上昇下降する可動式ホップ棚の開発に着手したと報告がありました。支柱を地中に深く打ち込むなどの工夫で300kgの強度を実現し、上部のアルミパイプを滑車で簡単に上下させる仕様で、今年の収穫祭でも大人から子供までハシゴなどに登ることなく安全に収穫を行うことが出来たそうです。それを活用し3年後には高野山に訪れる観光客の皆様を富喜で育てたホップで造るビールでおもてなしする、そして常にみんなのためになる事業を実現していくことを大目標に進めていくと宣言がありました。
ホップそよ風通信④ 新潟県ホップ屋の圃場から2018
新潟県出身の山家氏は地元新潟大学農学部から外資系の会社に勤めた後、アメリカ・オレゴンのポートランド近郊のホップ農家で1年半の研修を体験し帰国しました。現地でブルワリーでの作業体験もしたことからビール醸造スタートを検討していましたが、近隣のブルワリー開業も鑑み、ホップを育てる分野で専門性を持ってやっていこうと決意しました。今年は、17種類のホップを育成し、ホップの地下茎の販売も実施。今後は展望として、一般向けにもホップや苗の販売も検討したいとのこと。
現在の畑は耕作放棄地だった場所を耕し、安価に入手し加工できる竹を使った簡易棚でスタート。特にこの竹の使用は、資金がない、またトライアルでやってみようという場合には、リーズナブルで、うまくいかない場合でもすぐに片付けることもできるメリットがあり、選択肢の一つとして薦めたいと思います。
(藤原氏より)輸入したホップの苗を株分けして育て販売することはいいのかどうか、そこは今後全体で考えていかなければならないと思う。
そよ風通信⑤ 長野県東御市の圃場から2018
長野県東御市は昭和40年ごろまでホップ栽培が盛んだった場所。その地でビールを造るオラホビールは、2009年に試験圃場を作りホップの栽培をスタート。その翌年には本格的な圃場を整備して栽培を始めました。現在4種類のホップを総計175株栽培し、中でもカスケード・チヌーク全量は、乾燥後にアロマホップ(ドライホップ)として『ビエール・ド・雷電 秋仕込みIPA』に使用し、ゴールデンスターは『ケルシュ』に使用しています。2010年からは収穫祭として多くの方にホップ収穫を体験してもらっており、収穫後はお客様と一緒に100席あるレストランでビールを楽しむ交流を実施しています。今回「ビアツーリズム」という実施事例を学ぶことができたので、自分たちもそのような形で実施し、東御全体を盛り上げていきたいと決意を新たにしたとお話しされました。
そよ風通信⑥ 山梨小林ホップ農家の圃場から2018
小林吉倫氏は肥料関係会社で農園整備や肥料実証に携わり、その後、転職先で大型ハウスでの植物管理に従事。ハウス栽培の日照時間や潅水の調整などの実証実験などを行い、それらの実績を活かしてホップ農家を目指して2014年に「かいこがね」の生産地であった北杜市に移住しました。自己資金で始めた畑のため、自ら重機を使いなるべく自力で行ったことで、コストを1/4〜1/5に抑えたとのこと。2016年から本格栽培をスタートし、今年は初年度の2倍を収穫し主に関東甲信越のクラフトビールメーカーや食品会社、料亭他、50件前後を取引先として販売しています。現在は24種類を栽培していますが、育てやすい品種、育てにくい品種があり、またその土地に合う日照や潅水の量やタイミングを突き詰めることで収量を上げることは可能だと考え、さらに研究によって効率の良い栽培方法を見出すことを一つの目標に据えています。今後の展望はホップ栽培からその加工、商品開発、栽培や新規就農に関わるアドバイスなども実施し、さらに育種についても既に研究を重ねており、その成果も近いうちに報告したいとのことです。
そよ風通信⑦ 京都府与謝野町の圃場から2018
与謝野ホップ生産者組合の好地史氏からは、今回、報告ではなく日頃疑問に思っていることを同業の皆様への質問を投げました。第1問は、今年畑でこれまでに見たこともない形状の毬花が付き、これは雄株なのかを知りたいとの画像を掲示しました。これには村上博士が「これは確かに雄花ですが、インターセクシャル(性別を分類できない)なので能力はなく、ついていても問題はありません。ホップの種類にもよりますが、つきやすいものもありそうでないものもあります」と回答しました。その他、1年目の株の管理方法や、生育を揃えるための技術、カリウム、窒素、リンの加え方などについて疑問を投げかけ、出席者による議論が交わされました。
第二部
講演 最新!世界のホップ育種情報
ドイツ・ミュンヘン工科大学の留学から7月末に帰国したばかりのキリン株式会社の杉村哲氏による最新のホップ事情が紹介されました。現在世界には300品種のホップが存在しており、大きく分けるとヨーロッパ、アメリカ、オセアニアに産地があり、それぞれのホップの特徴や育種事情について説明がありました。興味深かったのは、イギリス・カンタベリーにある育種会社Wye Hops Ltd.では長年たった一人のブリーダーが育種を担当しているということ。育種ターゲットは病害耐性と矮性(通常より小型に成長)で、3メートルぐらいしか育たないホップ品種を生み出し、高所作業の負担への対策となっている。近年ではフレーバー品種にも着手し、病害耐性x矮性xフレーバーの品種なども開発されています。
また、滞在中に訪れたホップタウンとして、ドイツ・ハラタウ、チェコ・ジャテツ、スロベニア・ジャレツ、イギリス・カンタベリーの紹介もありました。チェコ・ジャテツとスロベニア・ジャレツのスペルがたった一文字しか違わないことや、そのジャレツには、ホップの原産地として街がプロモーションで作ったという「ビールの噴水」を紹介。6ユーロ(約680円)を払ってマイクロチップ付きのグラスを購入すると、種類の違う8tapから100ミリリットルずつ5回注ぐことができるというビールファンにたまらないスポットだとの紹介もありました。
懇親会
3時間という長い会議も盛り沢山な知識の共有で興奮とともにあっという間に時間がすぎました。懇親会ではフランクに当日の疑問などを話す絶好のチャンスです。 懇親会で提供されたビールは、
- Hop Fest 2018
- 生ホップ超特急2018 IBUKI オブ・ザ・イヤー
- 生ホップ超特急2018 MURAKAMI SEVEN
- 生ホップ超特急2018 国産新品種β
- フレッシュホップ 大分県竹田市産IBUKI
- フレッシュホップ 藤原ヒロユキ手摘みスペシャル
- 大分県竹田市産IBUKI使用ひでじビール
会場にはスプリングバレーブルワリーの代表取締役社長に就任した島村宏子氏も登場し、グロワーの皆様との交流も図りました。
今回4年目を迎えたフレッシュホップフェスト。その主役となるホップを生み出してくれるのがグロワーの皆様です。
日本ビアジャーナリスト協会代表の藤原ヒロユキ氏は「ヨーロッパやアメリカなどの特長あるホップでバラエティ豊かに楽しめるのがビールの魅力。でも、これからは日本らしいビールというものが求められてくると考えています。そのために重要なことは国内でホップをどんどん育てていくこと。日本の土地それぞれの風土がホップに影響を与え既存品種のバラエティさ、さらには国産ホップの育種までも視野に入れつつ、ジャパニーズホップのジャンルの確立を目指したいと考えています。これからも皆様と共に活動を続けていきたいと思います」としめくくった。