Fresh Hop Fest. 2018

ひろげよう!ホップの輪

今年収穫した国産ホップでつくったビールを楽しむお祭り

  • 9.1(Sat.)
  • 10.28(Sun.)
  • また今秋乾杯しましょう!

国産ホップにしかできない
付加価値を付けるには

ホップサミット201710月13日(金)@SVB東京

10月13日(金)、スプリングバレーブルワリー東京で「ホップサミット2017」が開催されました。このサミットには、グロワー(ホップ生産者)やブルワー(ビール醸造家)が約50名集まり、国産ホップを盛り上げていくにはどうしたらよいかについて議論したものです。コンテンツのひとつ「ホップグロワー×ビールブルワー パネルディスカッション」では、今後、グロワーとブルワーが連携していくにあたり、8名のパネラーによって有意義な議論が展開されました。

パネラー

  • 吉田 敦史(岩手県遠野市)
  • 鈴木 喜治(福島県田村市)
  • 好地 史(京都府与謝野町)
  • 片伯部 智之(宮崎ひでじビール)
  • 戸塚 正城(オラホビール)
  • 本間 誠(ホップジャパン)
  • 田山 智広(スプリングバレーブルワリー)
  • 藤原 ヒロユキ(日本ビアジャーナリスト協会)

ファシリテーター

  • 富江 弘幸(ビアライター)

富江皆さん、こんにちは。ビアライターの富江弘幸と申します。今回のディスカッションは、私がファシリテーターとして進めさせてさせていただきます。

ここからは、8名のパネラーを迎えまして、国産ホップを盛り上げていくにはどうしたらよいか、グロワーとブルワーで連携して何ができるのか、ということについて、お話をうかがってみたいと思います。

ここ数年、クラフトビールという言葉がある程度認知されてきたように思いますが、国産のホップにはまだ焦点が当たっていないのではないでしょうか。私も遠野市の取り組みを現地で見てきました。キリンビールと連携し、「ホップづくり」を「まちづくり」にいかしているという素晴らしい取り組みです。これとまったく同じでなくても、ホップによるまちづくりを他の地域でもできるようになると、国産ホップももっと盛り上がるのではないかと思っております。

ホップ生産地が盛り上がり、醸造所もおいしいビールを造ることができ、結果、消費者のメリットにつながるという好循環が構築していく。そのためにはどうしたらいいのか、ということについて、8名のパネラーにお話いただきたいと思います。

では、まず自己紹介からお願いします。

吉田アサヒ農園の吉田と申します。岩手県の遠野市から参りました。もともとは会社員だったのですが、転職して農業を10年やっています。ホップ栽培は2年前から。遠野市の新規就労者の受け入れとして、引退されるホップ農家の畑を使って、ホップ栽培を引き継いでいくということもやっています。

鈴木田村市の鈴木です。生産者としてお呼びいただいたのですが、まだ1年経っていません。田村市でホップを栽培してくれる農家さんがいないため、何人かで実際にやってみようと無謀にも植えてしまったという状態です。そのあたりを頭の片隅に置いて聞いていただければ幸いです。

好地京都の与謝野町から来ました好地です。与謝野町は京都府の北にあり、冬は雪が多く、夏は暑い地域です。私はホップ生産者組合で研修をしていますが、地域おこし協力隊としてビール醸造にも関われたらと思って与謝野町に来ました。与謝野町のホップをもっと盛り上げていきたいと思います。

片伯部宮崎ひでじビールの片伯部と申します。大勢の前で話す機会はあまりないので緊張していますが、ホップ栽培をしているということで、何かしらお伝えできればと思い、参加しました。

戸塚長野県東御市にありますオラホビールの戸塚と申します。2010年からホップ栽培に着手しました。現在は比較的安定的に収量も確保できていますが、いろいろと勉強しなければと思っており、課題もありますので、それらも含めてお話させていただければと思います。

本間ホップジャパンの本間です。ホップとビールを通して、人と人とがつながり、楽しい世の中になればと取り組んでおります。

田山スプリングバレーブルワリーのマスターブルワーの田山です。実行委員としてイベントの企画にも携わらせていただいております。

藤原藤原ヒロユキです。フレッシュホップフェストの実行委員でもあり、与謝野町のホップ栽培アドバイザーでもあります。今年から自分自身もホップ栽培もやっているので、ホップグロワーの立場でもあります。

国産ホップ栽培の課題とは?

富江まずはホップ栽培からお話を聞いてみたいと思います。国産ホップ栽培では、いまどんな課題があるでしょうか?

吉田遠野はホップ栽培面積で日本一、収量は市町村単位で2位となっています。50年以上の歴史もあり、比較的恵まれたホップ栽培環境ですが、その中での課題ということでお話します。

まず、ホップグロワーが激減しています。理由としては、米や他の野菜と比べても、肉体的に厳しいということ。また、ホップ栽培は他の野菜と比べて利益率や売上などで恵まれた作物ではないと認識しています。それにも関わらず、初期投資が必要ですし、ホップにしか使えない特殊な機械を購入しないといけない。

さらに、栽培をやめる人がいればその畑を引き継ぐのですが、そんな畑は収量が少ない畑。または遠くて不便とか機械が入りにくいといった問題があります。なので、新規就農者が来ても、条件が非常に悪い畑を引き継ぐことになってしまう。それが遠野の課題だと思います。

好地与謝野町でも遠野の課題がほぼ当てはまると思います。現在は補助でまかなえているものも、補助がなくなってときに苦しくなるのでは、と。体力的にも厳しいですし、これから若者が増えていけるシステムづくりが課題だと思います。

鈴木ホップ生産を増やそうと声がけをしたのですが、やはり売上が課題。田村はいろいろな野菜が収穫でき、ピーマン、いんげん、トマトなどを栽培していれば、ホップの何倍もの収入になります。初期投資についても、遠野、与謝野と同じ課題を抱えていると思います。

もうひとつは、実際に栽培してみて思ったのですが、ホップ栽培のノウハウがない。ホップの株と株の間をどれだけ離すのか、肥料はどれだけ使うのか、まったくわからない。そうした生産体系をある程度マニュアル化したものがないと、取り組むのが難しいのではないかと思っています。

国産ホップを使うにはコストが問題

富江ホップ栽培の課題としては、就農者とコスト、そしてノウハウという話がありました。そんな状況でホップ栽培を頑張っている中で、ブルワーの方々が国産ホップを使おうと思ったときに、どういった課題があるのかうかがいたいと思います。

戸塚自社で栽培もしていますが、課題は使い方だと思います。個人的な話で恐縮ですが、ウェットホップを使うことのがあまり得意ではないものの、その課題を乗り越えれば差別化が図れるのではないかと思っています。

片伯部国産ホップは外国産と比べると価格が高い。それだけ人件費もかかっていますし。やはりコストが課題だと感じます。

どのように付加価値を付けていくか

富江グロワーからもコストのお話が出ましたが、醸造でもコストが大きな問題だということでした。そういった課題をグロワーとブルワーが連携することで、なんとか解決できればいろいろなメリットが生まれると思うのですが、どんなメリットなのかについてうかがいたいと思います。

田山グロワーとしては生産性を向上させていかにコストを下げるか。そして、ホップを使う側、新しいビールを造っていく側の我々ブルワーは、いかに付加価値を付けていくかということを真剣に考える必要があります。コストに見合う価値があって産業として成り立つので、そのためにコミュニケーションをしなければ。国産じゃないとできないこと、これを我々がお客様の価値に変換して提供するということができてはじめてトータルの産業になります。パッションだけでは未来は明るくなりません。

国産ならではの品種が必要です。アメリカのクラフトビールを支えたのはアメリカのホップ。じゃあ、日本はどんなホップなのかというと、まだそれができていない。

もうひとつは、ウェットホップでないとできないことを追求していく必要があると思います。国内で生産するからやれることをブルワーとグロワーが一緒になって考えないといけない。そこからイノベーションが起こり、新しい日本ならではのビアスタイルがでるのではないかと思います。そのためには、グロワーとブルワーの連携だけでなく、ブルワーどうしの連携も必要。同じウェットホップでも造り手が変わると全然違うビールになるということをフレッシュホップフェストでもやっていて、新しい価値があるビールが出てくる可能性があります。面白い結果が出始めているのではないかと思います。

本間国産ホップでしかできないことにフォーカスしないといけません。今までと同じことをしていたら未来はないと思っています。国産ホップが広がることで何か新しいものが生まれるようになる。

例えば、ホップはその2割くらいしか使える部分がないと思いますが、残りの8割を利用できるようになると、もっと生産者が楽になるのではないでしょうか。そういった部分も開発していくような取り組みを、新しい視点でできればいいのではないかと思います。

藤原今後は品種改良をやりたいと思っていますが、かなり難しいかとは思っています。むしろ、同じ品種でも育った風土で若干の違いが出るのではないかといったところに期待があります。

さらにもうひとつ。ホップグロワーは、ホップがどうやってビールに使われているのか興味がない人が多いと感じます。逆に、ブルワーでホップ畑を見たことがないという人もいます。料理界ではシェフが畑に行って自分で実際に野菜を食べてみてということが起こっているので、ホップでも同じようになればよいと感じます。グロワーも醸造の知識や消費者が何を望んでいるかということに興味を持たないとと思います。

それぞれが目指すビアカルチャーとは

富江人・コストの問題が出て生産効率を上げるのも必要ですが、どうやって付加価値を付けていくのか、グロワーとブルワーの連携を密にしていったほうがいいのでは、という話がいただけたかと思います。

この議論がきっかけになって、国産ホップが盛り上がるきっかけになればと思いますが、パネラーの皆さんがどんなビアカルチャーを目指しているのかをうかがって、最後のまとめとしたいと思います。

吉田野菜は自分で作って自分で食べることで、出来を感じることができます。ですが、今年の自分のホップがどうだったのかは、はっきりわかっていません。今までのグロワーは量のほうばかりを追い求めてきたのですが、ブルワーとともにお話をすることで、ホップの出来を確認しながら、どう栽培していけば質が上がるのかということに挑んでいきたいと思います。

個人的な夢ですが、ホップ栽培の知識については日本で一番になり、ホップの取材は全部私に来るようになる、というビジョンを描いています。

鈴木ブルワリーもできて、ホップグロワーが増えて、農業や産品がうまくまわっていけばいいと考えており、ずっと関わっていきたいと思っています。また、毎晩摘み取ったホップをビールに入れて飲んでいたのですが、これがおいしいのです。そういうことを一般の人にも知っていただければ、ホップの宅配便も可能なのではないかなと思います。

好地与謝野町にはまだブルワリーがありませんが、与謝野町のホップを与謝野町で醸造して、それを町の皆さん、全国の皆さんに飲んでもらいたいと思っています。与謝野町のホップを全国のブルワリーでも使っていただいて、与謝野町でクラフトビールが飲めるイベントができれば。それが国産ホップの盛り上がりにつながればと思います。

片伯部宮崎はホップ生産に適していない地域です。そこでなぜホップ栽培をするのかというと、オール宮崎県産のビールを目標にしていて、そこからホップの栽培につながっています。今年で2年目になり、よい数値も出て、それでビールを仕込みました。

そのビールをイベントで飲んでもらったところ、すごくおいしいといってもらい、生産者も喜びを一緒に感じてもらえたんじゃないかと思います。やはり、ホップを作るだけ、ビールを造るだけではなく、グロワーとブルワーが協力して苦労しながらおいしいビールを造り、それをお客様が飲んでいる姿をグロワーに見てもらうと、グロワーもやりがいが出てくるんじゃないでしょうか。

いずれ「ビールは畑から」「ビールは農業から」というのが当たり前の時代がくると思っていますので、国産ホップがどんどん盛り上がればと思っています。

戸塚遠野では、しっかりホップを作っていて、新規就農者も集まっています。その状況が非常にうらやましく、東御市もそうなればいいなと思っています。ホップのテロワールがしっかり出て、商品にも反映されて、となれば面白いのではないでしょうか。それに向かって進んでいければと思っています。生産者の人たちにも理解していただいて、それをしっかり私たちが商品として提供するという環境をもう少し大きい規模でできるようにしたいです。

本間ホップ栽培は土地が必要ですし、田舎でしかできない。田舎でもコンビニはありますし、インターネットもつながります。以前ほど大変なことでもないので、今後はもっと田舎が注目されるのではないかと。そのひとつのツールとしてホップとビールが注目されて、新しい田舎暮らしが体験できるモデルをつくっていきたいと思っています。

田山ブルワーとしては国産ホップならではの世界を見出したいですね。見出すだけではなく、それを大きくしていくのが課題で、それになんとかチャレンジしていきたいと思います。個人的には、遠野市や田村市の取り組みを応援していきたいと思っています。さらに、フィードバックが大事だと思いますし、コミュニケーションもまだまだ足りていないのかなと。造ったビールを飲んでもらうのが最大のフィードバックなので、ブルワーとグロワーがマッチングして盛り上がっていければと思います。

藤原キリンビールは、50年以上前に東北に投資しました。そこからホップ農家が続いていて、それを開放しようとしています。これはすごいことですよね。ならば今、クラフトブルワリーにも投資する必要があると思っています。グロワーも初期投資がかかるわけですから、グロワーとブルワーが連携することを考えると、そういったシステムが欲しい。

私はパッションでホップ栽培を始めましたが、その後の世代が考えることは「ちゃんと儲かるのか?」ということ。初期投資を考えると4、5年は利益が出ませんし、それを農家だけに背負わせてはいけないなと思います。

だからこそ、自分のホップはしっかりとビールが造れるブルワーに造ってもらいたいのです。例えば、大間のマグロでも料理する人の力量によっては、消費者に「大間のマグロといっても大したことないな」と思われてしまう。今回は、与謝野町のホップを使ってスプリングバレーブルワリーで田山さんに「藤原ヒロユキスペシャル」という素晴らしいビールを造っていただいて感激しました。そういった連携が必要だと思います。

もうひとつは、自分たちのホップで造ったビールを地元で飲めないことが多いというのが問題。極端なことをいうと、ホップ生産地を「ホームブリュー特区」にできないかなと。自分たちでテストバッチくらいはできないと、ホップ生産地としては恥ずかしいのではないでしょうか。

富江ディスカッションはこれで終わりですが、これが国産ホップを盛り上げるきっかけになれば幸いです。本日はありがとうございました。

ホップグロワーズギルド座談会
基調講演(株式会社ホップジャパン/代表取締役本間誠氏)
最新ホップセミナー(キリン株式会社/農学博士村上敦司氏)

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富江弘幸

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1975年、東京都生まれ。法政大学社会学部卒業後、出版社でライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。その後、中国留学、制作会社勤務を経て、現在は英字新聞社で勤務しつつ、ビアライターとして活動中。ビアジャーナリストアカデミーの講師も勤める。著書『BEER CALENDAR』(ワイン王国)

執筆・監修:ビール王国』(ワイン王国)、『ビール大全』(楽工社)、『るるぶキッチンmagazine 秋冬号』(JTBパブリッシング)、「あなたのしらない、おいしいビール」(cakes)、他多数。

Twitter:hiroyukitomie
Website: http://www.hiroyukitomie.me/