2019年3月8日(金)、山梨県北杜市にある宇宙カンパニー合同会社のうちゅうブルーイングで、「ホップサミット2019春」が開催されました。当初の予想を上回る約60名のホップグロワー、ビールブルワーが全国各地から集結しました。
当日のコンテンツは以下の通りです。
- ホップサミット2019春 開会
- 2019日本のホップ事情:スプリングバレーブルワリー株式会社 田山智広氏
- うちゅうブルーイング活動報告:宇宙カンパニー合同会社 代表 楠瀬正紘氏
- ホップ農家小林氏活動報告:ホップ農家 小林吉倫氏
- 農業法人“BEER EXPERIENCE”活動報告:BEER EXPERIENCE株式会社 浅井隆平氏
- キリン村上博士によるホップ講座:キリン株式会社 村上敦司氏
- アメリカ横断視察報告:宇宙カンパニー合同会社 鈴木ルミコ氏
- ホップ生産者グループディスカッション:座長 スプリングバレーブルワリー株式会社 田山智広氏
- 閉会挨拶:一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会 代表 藤原ヒロユキ氏
前半
後半
キリン村上博士によるホップ講座:キリン株式会社 村上敦司氏
村上博士からは、「AI(人工知能)による栽培管理、気象予報との関連」についてお話がありました。
まだ露地栽培では行われていなかったAI画像診断やセンサーでの管理について、気象データや農家の作業記録の合体で作業時期の予測ができるのではないかと考え、グーグルクラウド環境を活用して統計の解析と突き合わせ、調査を行ったとのこと。調査は気象予報士でありグーグルにも精通する水林亨介氏と協同で行われました。
遠野の農家68件の年間作業日誌、150万件超のデータ化とその期間の気象データをAIに学習させ、今後の気象データからホップ栽培における農作業のタイミングを予測するというものです。
2017年に栽培した「いぶき」で検証したところ、べと病やダニ、灰色かび病対策において、実作業と予測値に概ね誤差がなく、また遠野とは別地域の秋田県の気象状況で行った予測でも作業の立ち上げ時期の予測がほぼできていたそうです。
この結果から、「ベテラン農家の知識や経験の蓄積は、時間や地域を超えてAIによる栽培管理に使えるのではないか。将来的にホップ栽培の作業予測ができるとよい」とお話しいただきました。今後のAIによる栽培管理は、地域をまたがった汎用性モデルの検討、品種によるモデルの違いの検討、作業タイミングに加えて肥料や農薬の投与量を予測できるモデルなどにも着手できたらと意欲を示されていました。
アメリカ横断視察報告:宇宙カンパニー合同会社 鈴木ルミコ氏
鈴木ルミコ氏からは、アメリカ横断視察の報告がありました。新種ホップ「ストラタ」の匂いを確かめるために、ホップの販売会社「INDIE HOPS」を訪問するなど、アメリカのIPAビール事情を知るべくN.Y、ボストン、サンディエゴ、シアトルなどを巡ったとのこと。アメリカのブルワリーではどこも品質が維持しやすい缶の販売がある、瓶はリサイクルの面で効率が悪い、西海岸に比べて東海岸ではヘイジーが多い、など様々な気付きがあったそうです。醸造設備としては、遠心分離機があればホップを大量に使う我々の濾過時の歩留まりの改善が期待できるということ、バイオジオフィルタを使用し清掃時の残りの麦汁を微生物にろ過してもらって下水に流していることがとても参考になったそうです。さらに「いくらおいしくてもいいものでも、デザインで目に触れないと広がらないことを視察を通して痛烈に感じた」とお話しされていたことが印象的でした。
ホップ生産者グループディスカッション:座長 スプリングバレーブルワリー株式会社 田山智広氏
田山智広氏からは、導入としてホップのいろいろな機能についてのお話がありました。ビールのための植物であるとも言われているホップですが、その香りや苦みがストレス、肥満、脳機能改善などに役立つことが科学的に実証されてきていること。
ホップの苦み成分は、植物が病害虫やカビから身を守るための成分の一つであり、苦みは本来人間にとって毒を識別するための信号で忌避すべきもの。しかし過去の文化的な生活をするなかで苦みの価値が高まってきました。「お茶、珈琲などのカフェイン中毒、カプサイシン中毒と同様に、ホップヘッド(ホップがないと生きていけない人)も、私たちが生きるうえで求めてしまうもの」というご意見には一同深くうなづいていました。
次に、ホップの品質について「ブルワーが求める品質」について共有がありました。
【高品質のホップとは】
- ルプリンが豊富である(α酸、オイル成分)
- ペレットに加工したものでは茎葉混入比率が低い(キリン社)
- 毬花が粒ぞろい ばらつきがない(収穫の時期がずれるとばらつく)
- ホップの形態や栽培地がユニーク(テロワール)
- 品種だけでなく、加工形態に付加価値がある
これらがビールのストーリーにつながるような独自性が欲しい、と田山氏。
その後、参加者からの質疑応答で会場は大いに盛り上がりました。
閉会の挨拶を務めたのは一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会 代表 藤原ヒロユキ氏。
「国産ホップの普及を目指していきたい。アメリカンスタイルが世界で普及した今、アメリカンスタイルは何か、というとホップのキャラクターだと思います。同様にジャパンスタイルを作っていくにも日本産ホップの役割が大きく、品質の見極めや栽培技術の勉強会とともに、参加者の増加で規模が拡大してきたホップサミットも今後は『普及』を担うグループを作る時期なのではと考えています」と締めくくりました。