「ふくろうのビール」として世界に知られる常陸野ネストビールは2008年からビール生産拠点を茨城県那珂市に額田醸造所を移転。ここでは定番ビールを中心に国内はもとより世界50か国に向けたビールを醸造する一方、同市鴻巣にある本社では一般の方がビール造り体験のできる「手造りビール工房」も運営し、またビール原料を身近に触れることのできる直営ビアパブを運営するなど、クラフトビールの魅力を多角的に伝え続けている。額田醸造所脇では2015年からビールの原料となるホップ栽培にも着手。そして今年2018年からは本格的なホップ圃場としてスタートしている。
手探りながら棚づくりから本格スタート
「どうせやるなら、きちんと作りたいと思ったのです」と話すのは、木内酒造の額田醸造所の醸造士宮田輝彦さん。畑面積は12a。圃場として整える前に岩手県遠野市と秋田県横手市を訪れ、ホップ栽培を長く携わる農家さんにヒアリングを行った。しかしホップは多年性であること、それを代々長く営んでいるホップ農家の現在の担い手は自分たちで棚作りを行った経験がほとんどなく、結果、ほぼ手探りでの棚づくりとなった。10人ほどの作業員の方々に手伝ってもらい、他の作業の合間に1〜2日作業をして、また時間を見て…と時間のあるときに作業をしたため、およそ1ヶ月をかけてようやく組み上がった。
棚は4列。1列に1品種を50株ずつ、全部で200株を植えた。種類は「センテニアル」「カスケード」「チヌーク」「ガレーナ」のアメリカ系のホップを選んだ。「アメリカ系のホップは品種改良で育てやすいものが多いということが選択の理由です。1年目ということで今年の成長にはさほど期待をしていなかったのですが、想像以上に成長しました」と宮田さん。苗は秋田県横手市の常陸野ネストビールの契約ホップ農家である小棚木裕也氏に昨年から養成してもらっていたこともあり、初年度から予想を上回る成長と収穫となった。
原料の本来の姿を知り香りを嗅げる幸せ
「収穫は7月中にほぼ行いました。その時は秋田から小棚木さんにも来てもらいましたが、基本的には畑作業は自分一人の担当なので、来年はどうなることやらと思っています」と宮田さん。宮田さんは2008年に木内酒造に入社する以前はテレビの制作会社での勤務経験の持ち主で、農業経験は全くない。インターネットなどで調べたり、麦芽カスを肥料として引き取ってもらっている農家さんなどに教えてもらいながら、たった一人で、トラクターで除草しコンパクトな高所作業車を駆使しながらメンテナンスから収穫まで行う。
「本当に大変ですが、ビール原料はほとんどの場合、誰が育てたのかわからない原料使って醸造するのがほとんどなので、こうやって畑作業をすることで、ビールの原料のみずみずしさを知り、本来持つ新鮮な香りを嗅ぐことができるのは、とても幸せだと思っています」と宮田さん。
日本生まれのホップ香るビール造りを目指し
「こちらも良かったら見てください」と案内されて近づくと、そこには小さな花がたくさん咲いていた。「香りを嗅いでみてください」と言われ、鼻を近づけると、どこか嗅いだことのある香りが…。「コリアンダーです、これ」と宮田さん。
筆者自身は生のコリアンダーの花や実を見たのは初めてだったが、びっくりするほど可憐な花と芳しい香りに感激!「試しにここで育ててみたんですが、手間はさほどかからないことがわかりました。いずれもっとたくさん育てて、ホップだけではなく国産コリアンダーでホワイトエールを造る、なんてこともやってみたいですね」と宮田さん。
現状はホップの種類を増やすことまではまだ考えていない。が、世界ではどんどん新しいホップが生まれ、特にアメリカなどでは年に4〜5種は新品種が登場している。日本ではとりあえず育てた生ホップでビールが造れたというレベルで、宮田さんはそんな現状に満足していないという。「日本オリジナルのホップを開発したいですね。そのホップを使って日本のビールを造り出す事が目指す姿だと考えています。そのためにはコリアンダーも然りですが、何はともあれ “とにかくやってみる” こと。その精神でチャレンジしていきたいと思います」
そんな宮田さんの想いを養分に育ったホップを使った数量限定フレッシュホップビール『フレッシュホップス』が350ml缶入りで11 月5日から発売開始となった。販売は直営店のみの数量限定。早めに確保したい。
常陸野ネストフレッシュホップスの詳細・購入はこちら
常陸野ネストビール額田醸造所のホップ生産データ
所在地:茨城県那珂市額田南南郷字高岡2182
管理者:木内酒造合資会社
栽培面積:12a
栽培品種:センテニアル・カスケード・チヌーク・ガレーナ
栽培年数:1年目(試験栽培は2015年から)
収量実績:12㎏