秋田県横手市でホップ農家を営む小棚木裕也さんは、常陸野ネストビールの契約農家としてホップ栽培するほか、茨城県那珂市の常陸野ネストビール額田醸造所脇のホップ畑の育成指導も行う。今回の取材のため事前にメールでのやり取りした時点では、その実績からホップ農家として年齢も経験も重ねた人物と勝手に想像していたが、待ち合わせに登場したのは27歳(取材時)の青年だった。周辺はキリン向けの契約ホップ栽培を行う国内有数のホップ産地で彼の父もキリンの契約農家として長年ホップを栽培していた。そんな中でスタートした常陸野ネストビール向けのホップ栽培だ。
秋田県横手市のホップの歴史
1971年、国の減反政策により米からの転作として秋田県横手市大雄地区周辺で
はホップ栽培がスタートした。日本国内の他のホップ産地では畑が点在している場合が多いが、ここではそんな歴史的背景もあり、大雄地区ではまるでメガ団地のようにホップ畑が隣接し、一帯となってホップ生産がおこなわれている。
最盛期のホップ農家はおよそ150軒ほどだったそうだが、現在は47〜8軒ほどまでに減っている。しかし2017年実績でも横手市はホップ生産量の日本一を誇る。2015年まではその横手産ホップはすべてキリンビールに使用されていたが、小棚木さんが木内さんと契約したことで、地域で唯一キリンビール以外のためのホップを栽培する農家となった。
国内でもトップクラスのホップ品種数を栽培
ホップの他にも東京ドーム3つ分の面積の田んぼで米も作る農家で育った小棚木さんだが、高校卒業後は大手自動車メーカーに就職した。しかし、地元の第三セクターがホップの6次産業化に着手するということで誘われるまま転職し、それがきっかけで常陸野ネストビールを造る木内酒造の木内さんと知り合う。その後2015年に同社が解散となり、その会社で受けていた木内酒造向けのホップ生産を彼が引き継ぐこととなる。
もともとキリン2号を植えていた畑に外来品種の苗を植え、現在はそこで19種、トータルでは27品種のホップを生育している。メインとなるのは、ハラタウ、スティリアンゴールディングス、チヌーク、センテニアル、ファグルの5種。「その他は多少収量が見込めるものから本当に試しとして植えているものまで様々ですが、種類の多さではおそらく日本でトップクラスだと思います」
横手市周辺は盆地のため、夜は冷えるものの昼間は思いの外気温が上がる。「それが影響してか、もともと国産ホップよりも成長の早い外来品種の収穫時期は想像以上に早いです。今年の収穫も6/30には収穫をスタートし、8月頭にはほとんど終了しました。今年の夏の天候は異常な暑さではありましたが、それだけでなく収穫タイミングは京都の与謝野町と収穫時期は変わらないですね」と小棚木さん。
日本一のホップ産地で新たな未来を切り拓く
本格始動の初年度から生育の良かった額田醸造所脇の畑のホップは、小棚木さんが前年から養成した苗であった。「その養成の効果もあったかもしれませんが、実際には水やりを適度にたっぷりと行ったことでツルが伸びて豊富な収穫につながったのだと思います」と小棚木さん。
株分けしたホップの残りは、畑のやや水はけの悪い場所に植えていて、水やりもさほどこまめにはしていなかったためか、額田ほどには伸びなかったそうだ。「このことで改めてホップの生育の水やりの大切さを実感しました」と小棚木さん。好奇心旺盛に品種に挑戦し、様々な条件下での生育を実体験する。そんな積み重ねがこれまでの横手の歴史にはなかった未来へとつながっていく。
「現在は80aに木内さんのホップ、40aにキリンさんのホップを栽培していますが、今後はすべて木内さんのホップ栽培にしていきます」と小棚木さん。「キリンさんとはいつも色々と情報交換させていただいていて、いい関係を築いています。ちょっと嬉しいなと思っているのが、毎年キリンさんが作るポスターには“横手産ホップは100%キリンビールが使用”と記載されていたのが、2年前から99.99%と変わったんです。今後はそれを98%、97%…としていけたらなと」と小棚木さん。地域最年少の若手ホップ農家の新しいパワーにこれからも注目していきたい。
常陸野ネストビール契約農家(小棚木さん)畑のホップ生産データ
所在地:秋田県横手市大雄
管理者:小棚木裕也
栽培面積:80a
栽培品種:ハラタウ・スティリアンゴールディングス・チヌーク・センテニアル・ファグル含む全27種
栽培年数:3年目(木内酒造向け栽培)
収量実績:非公開