Fresh Hop Fest. 2018

ひろげよう!ホップの輪

今年収穫した国産ホップでつくったビールを楽しむお祭り

  • 9.1(Sat.)
  • 10.28(Sun.)
  • また今秋乾杯しましょう!

宮城県石巻市で、こころとからだを元気にする農業を~「イシノマキ・ファーム」の取り組み

ビアジャーナリスト/ライター コウゴアヤコ

宮城県石巻市。
その名を聞くと胸が締め付けられる。

2011年3月11日、東日本大震災。
石巻市を襲った震度6強の激しい揺れと沿岸域全域に襲来した巨大津波は、防潮堤を破壊し、甚大な被害をもたらした。
石巻市の死者、行方不明者は3,600名にも上った。(平成27年5月末。石巻市ホームページより)

当時、都内で看護師として働いていた私は、石巻に派遣された。
津波になぎ倒され、がれきが続く平地になってしまったかつての住宅地や、学校。
家族を失った悲しみに耐えて生活をする方々の顔を忘れることができない。

2011年7月石巻市(著者撮影)

訪れる度に立派な建物が増え、復興が進んでいることを感じる。
しかしその一方では、仮設住宅や復興住宅にこもりがちになり社会との関係が絶たれてしまう人たちもいた。
被災地に必要な支援は、“建物づくり”から“コミュニティづくり”に移行していた。

2018年6月30日

農業には人を癒す力がある

北上川の河口に位置する石巻市は、宮城県北東部地域を代表する街だ。
暖流と寒流がぶつかる金華山沖は、水産資源の宝庫。
北上川がもたらす肥沃な土壌が広がり、稲作などの農業も盛んだった。

深い傷跡と悲しみの記憶を残した東日本大震災から6年後の2017年、石巻市で地元産のホップを使ったビールを造ろうという取り組みが始まった。
石巻市で農業を通じた就労支援を行う「一般社団法人イシノマキ・ファーム」のプロジェクトだ。

イシノマキ・ファームの農園は、メンタルヘルスの観点から若者を中心に修学・就労の支援をしている「ユースサポートカレッジ石巻NOTEが」、仮設住宅や復興住宅にこもりがちになってしまう人たちや、石巻周辺に暮らす若者の就労支援を目的にスタートさせた。

ソーシャル・ファーム(Social Firm)の概念に基づき、多様な人びとが対等な関係で、同一の労働条件のもとに仕事をする場を提供している。
自然農法と有機農法の手法を取り入れながら、トマトやズッキーニなどの農作物を少量多品種で生産する。

6月29日「石巻元気いちば」にて。できた作物は近所の直売所で販売。ファームステイで持って帰ってもらうことも

またイシノマキ・ファームでは、築約120年の古民家をリノベーションしたゲストハウス「Village AOYA」に滞在しながら農業の現場を体感するファームステイを主宰している。

新しい産業を興すとともに、域外からの移住を促進し、石巻を盛り上げたい考えだ。

なぜ、就労支援に農業なのだろうか?
イシノマキ・ファーム代表の高橋由佳さんはこう話す。

「ときに、農業は、人びとのこころとからだを元気にする力があることをわたしたちは耳にします。
こころの病で職業を失った方が、太陽の下で土に触れながら自分たちが育て、自然の力で育った野菜を食することで、リカバリーしてきた人びとに出会ってきました。
また、ひきこもりがちだった若者が、農作業を通じて自信を取り戻し、地域の農家の人びとと共に農業を職業として新しい一歩を踏み出した方もいらっしゃいます」

精神保健福祉士の資格を持つ高橋さんは、被災後に仮設住宅を巡回訪問していた。
津波による塩害や、畑から遠い仮設住宅生活などの理由から農業を辞め引きこもりがちになる人も多かったという。

「放置され荒れた畑は、地域の人の心を荒ませる。農業から離れてはいけない」

高橋さんは仲間と共に「農を通して地域、社会、そして自然とつながる」をコンセプトに、多くの地域住民を巻き込み、人びとが地域で循環できる仕組みとして「イシノマキ・ファーム」をスタートさせた。

「イシノマキ・ファーム」のプロジェクトのひとつが、地元でホップを育てクラフトビールを造る「クラフトビールプロジェクト」だ。

新たな産業としてビール醸造事業を開始

イシノマキ・ファームのホップ圃場は、休耕地2か所(古戸沢ホップファーム、白浜ホップファーム)を活用している。
(株)ホップジャパンの本間氏のアドバイスを受けながら、地域の住人らと一緒に全て自分たちの手で行った。

イシノマキ・ファームが管理する「古戸沢ホップ圃場」

除草剤や殺虫剤などの農薬も使わず、ほとんどが手作業だ。
地域の人たちは、真夏の炎天下や、秋の大雨のなかでも、土まみれで農作業にいそしんでいる。
苦労も多いが、自然に触れ、体を動かし、人とかかわりを持つことで、心が晴れ晴れとする。
さみしかった畑に、地域の人たちの笑い声が戻ってきた。

「ホップの栽培、農業を始めて、津波にあった休耕地をどのように活用していこうかと、地域住民みんなで考えるようになりました。ホップ栽培をしていることが地域に少しずつ浸透し始め、コミュニティでの関わりが増えてきています。また、うちの農地を使ってくださいと申し出てくださる方もいらっしゃいます」
と高橋さん。

2017年は収穫したホップを岩手県にある世嬉の一酒造に運び、クラフトビール「巻風エール」を造った。
また今後、市内にブルワリーを設置することを目標にしている。

2017年に製造した「巻風エール」

イシノマキ・ファームでは「ホップ基金」を行っている。
1苗3,000円でホップ苗のオーナーになると、秋には収穫したホップで造ったクラフトビールが届く仕組みだ(1苗あたりボトルビール1本)。
また、この基金の一部は、困難を抱えた若者の就労支援の一部(訓練日当)に使用される。

ホップは、北上川の恵みと地域住民の愛情を受け、順調に生育している。
8月中旬〜下旬にホップを収穫し、9月下旬〜10月にはビールが完成する見込みだ。

農業から始まるビール造り事業は、石巻を元気にできるのだろうか?
石巻産のホップを使ったビールを手に、みんな笑顔で乾杯できる日を心待ちにしたい。

一般社団法人イシノマキ・ファーム
https://www.ishinomaki-farm.com/
ユースサポートカレッジ石巻NOTE
http://www.switch-sendai.org/ishinomaki-note/

ホップを育む土地と人

【古戸沢(ふるとざわ)ホップファーム】
ホップの種類:マグナム、カスケード、センテニアル、かいこがね
テレビ朝日の番組『人生の楽園』でも取りあげられた、自然豊かなホップファーム。
大きな石が沢山転がり畑には向かない土地であったが、開墾から支柱立てまで、全て自分たちの手で行った。

2017年は笑顔のあふれる収穫となった

【白浜ホップファーム】
ホップの種類:マグナム、カスケード
ビールをお供えするという全国的にも珍しい鹿嶋神社、通称「ビール神社」に近い立地にある。
この神社にあやかり、ホップを植えることになった。

白浜地区は津波の被害にあったが、塩害にも負けず立派に成長している

イシノマキ・ファーム、イベントのお知らせ

イシノマキ・ファームでは、2018年7月29日(日) 11:00〜15:00に古戸沢ホップファームでの「イシノマキホップの収穫体験&ランチビュッフェ」を開催する。
里山の風景を楽しみながら、自分たちで採ったばかりのホップを楽しもう。
イベントページはこちら

*写真は「イシノマキ・ファーム」様から提供いただきました

ビアジャーナリスト/ライター コウゴアヤコ

1978年東京生まれ。杏林大学保健学部卒業。
ビール好きが高じて2008年から1年半、ミュンヘンで暮らす。旅とビールを組み合わせた「旅ール(タビール)」をライフワークに世界各国の醸造所や酒場を旅する。ビアジャーナリストとして雑誌『ビール王国』、海外生活情報誌『ドイツニュースダイジェスト』など様々なメディアで執筆。『ビールの図鑑』『クラフトビールの図鑑』(マイナビ)、『極上のビールが飲める120店』(エンターブレイン)など。

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