1963年。
この年のプロ野球は、読売ジャイアンツが日本一となった。大相撲では大鵬が年間3回優勝。まさに「巨人・大鵬・卵焼き」ど真ん中の時期と言っていい。
海外に目を向ければ、キング牧師による“I have a dream”の演説が行われた年でもある。今の若い人たちは、比較的新しい「歴史」として認識している時代かもしれない。
そんな年に、岩手県遠野市でホップ栽培が始まった。
栽培面積・収穫量がピーク時の4分の1に
日本のホップ栽培は、ビール大手4社との契約栽培がその多くを占めている。遠野はキリンビールとの契約栽培で、それ以外の3社はその前年に、岩手県内で契約栽培を開始していた。
岩手県はホップの栽培面積、収穫量でともに全国1位を誇る。その岩手県の中でも遠野は最大のホップ生産地で、1963年に7.6ヘクタール植栽したホップ圃場は、2017年時点では25.2ヘクタールまで拡大している。
と、栽培開始当初と現在の数字だけを比べると、栽培面積・収穫量が伸びているようにも思えるが、そうではない。
実は、遠野のホップ栽培のピークは1983年頃で、栽培面積は112ヘクタールにまで拡大していた。つまり、現在はピーク時の4分の1程度にまで減少しているということになる。直近の5年間だけでも20ヘクタール以上減少しており、減少傾向は未だ止まっていない。
50年先の未来を描き出す
減少傾向にある理由はいくつか考えられるが、そのひとつは生産者の高齢化と後継者不足にあった。
遠野のホップ栽培を絶やしてはいけない。そう決意した遠野市とキリンビールは、2006年から「TKプロジェクト」として遠野のホップや食材をPRする活動を行っている。これはホップ栽培を守っていく活動でもあり、遠野市のまちづくりとも重なる活動でもあった。
さらに2016年、新たにまちづくりのビジョンを示すことによって、さらに50年先の未来をより具体的に描き出す。
「ホップの里」から「ビールの里へ」。
それ以降、新たにホップ栽培の新規就農者を数名受け入れることができた。ホップ収穫体験を行う「遠野ビアツーリズム」や、ホップ収穫を市全体で祝う「遠野ホップ収穫祭」も開催。
2018年には市内に新しい醸造所(遠野醸造)もオープン。さらに、キリンビールが遠野で育種してきた品種「IBUKI」も外販され、他の醸造所でも遠野産の「IBUKI」を醸造に使用することができるようになる。
ビールの里へと進んでいく準備が徐々に整ってきた。
ただ、これで遠野のホップ生産が大きく上振れするわけではない。それでも、遠野はこれからの50年に影響を与える大きな1歩を踏み出したと言える。そして、その1歩は遠野とホップに関わる人たちの思いがあったからこそ踏み出せたものだ。
I have a dream.
遠野のホップの毬花ひとつひとつに詰まっているものは、関わった人たちそれぞれのdreamではなかろうか。
【遠野市でのホップ関連イベント】
8月25日、26日 遠野市ホップ収穫祭2018
10月上旬 フレッシュホップフェスト2018 in 遠野
【遠野市ホップ生産データ】
所在地:岩手県遠野市
管理者:遠野ホップ農業協同組合
栽培面積:25.2ha(2017年)
品種:IBUKI、MURAKAMI SEVEN