ひと昔前までホップの栽培というと東北を中心とした東日本であったが、現在は西日本でも栽培をする地域が増えている。今年で8年目をむかえた島根県松江市に拠点を置く島根ビール株式会社(通称「松江地ビールビアへるん」。以下、「ビアへるん」)もその1つだ。
厳しい環境での挑戦
ホップに関心をもつ方なら周知のことだが、この植物は暑さに弱い。夏の平均気温20℃程度が適している。松江市の平均気温は26℃を超えるため、ホップを栽培するには良い条件とはいえない。実際に過去には、アルファ酸などの苦味の量は品質的に良いが、1株あたりの平均収穫量が半分程度と少ない時期もあった。対策として、水や肥料のやり方、苗の選定時期、雑草対策、土の作り方など、毎年データをとりながら行っている。その成果は少しずつ収穫量の増加として表れている。
このような環境下でありながら、なぜホップの栽培を手がけようとしたのか?
「やってみたいという思いからはじめました。当時は、ホップが自生できる南限は長野県といわれていましたが、やってみて駄目ならば諦めようと、駄目もとの気持ちでスタートしました」と矢野学社長はいう。
神々が訪れる地に根付いた「ゼウス」
数種類の品種を植え、実際に栽培をはじめてみたものの、十分に生育せず順調にはいかなかった。しかし、そのなかで育ったものがある。それが「ゼウス」だ。
あまり聞きなれない品種だが、カスケードの原種ともいわれているホップだ。
「当時、既にホップの栽培は、国内でも数社がやっていました。栽培条件も悪い地域で、他と同じ品種を育てても面白くないと思い選びました。当然、『神々の国』と呼ばれる島根にちなんで神様の名前『ゼウス』であること。既にアメリカなどで商業ベースでの生産をしていなかったことも理由です」。
「ビアへるん」のビールには、こうしたストーリーを必ずもたせている。
新たな圃場とシングルホップへの挑戦
8年目の今年は、2つの大きな挑戦をしている。1つは、今までの醸造所前の圃場に加え、別の場所に倍規模の圃場を設けた(栽培面積は非公開)。初年度ということもあり、十分な生育には至っていないが、「来年以降を楽しみにしてほしい」という。こちらでは「ゼウス」をはじめ、カスケード、センテニアルなど6品種を栽培している。
そして、もう1つが「ゼウス」を使った「ゼウスビター」のシングルホップでの醸造だ。昨年までは、ゼウス以外にカスケード、センテニアルも使っていたが、今年は「ゼウス」のみでつくる予定だ。
「島根でしかできないビールつくりが根底にあるので、「生ホップの香りを出してゆくハーベストブリューや、生ホップでのドライホッピングをすることで、フレッシュさをメインとしたビールを目指しています。また、苦味もやや荒さのあるワイルド感を大事にしたいと思っています」。
今年は成長が遅いため、収穫を終える時期も遅くなることから「ゼウスビター」の発売は10月を予定している。もちろん「Fresh Hop Fest. 2018 ひろげよう! ホップの輪」でも飲める予定だ。
難しい環境下に置かれながらもオリジナリティを追求している「ビアへるん」のホップ栽培。その思いが形となった「ゼウスビター」。今年もその思いを飲める日が待ち遠しい。
◆島根ビール株式会社「松江地ビールビアへるん」ホップ Data
圃場住所: 〒690-0876 島根県松江市黒田町509-1(松江堀川・地ビール館前)
※新しい圃場の住所は非公開