日本産ホップセミナー2021春、開催!日本産ホップ推進の新たなステージへ
ホップ栽培者・ホップ農家向けのイベントとして、日本産ホップ推進委員会は日本産ホップセミナー(2020年まではホップサミット)を開催してきました。2021年3月19日(金)に開催された日本産ホップセミナー2021春で7回目の開催となります。
日本産ホップセミナーの目的は、ホップ栽培の特殊性の理解と栽培ノウハウの共有、人的ネットワークの形成。これまでの開催とは異なり、今回はオンライン開催となり、ホップ農家(グロワー)だけでなく醸造家(ブルワー)、飲食店(サーバー)、ビアファンなどが参加できるオープンなイベントとなりました。
結果、130名近くの参加者が集まった日本産ホップセミナー2021春の内容について、詳しく紹介します。
目次
- 「日本産ホップセミナー」の背景と目的
田山智広(株式会社スプリングバレーブルワリー マスターブリュワー) - 持続可能なホップ産業の実現に向けて
田村淳一(遠野ホップ収穫祭 実行委員長、株式会社BrewGood 代表) - ヤッホーブルーイング「フレッシュホップビール醸造 苦難の歴史」
森田正文(株式会社ヤッホーブルーイング 製造責任者) - 日本産ホップ座談会「日本産ホップの今とこれから…」
進行:田山智広
パネラー:新井健司(株式会社サッポロビール SORACHI1984ブランドマネージャー)、藤原ヒロユキ(京都与謝野ホップ生産者組合)、本間誠(株式会社ホップジャパン 代表取締役、都路ホップガーデンブルワリー)、杉村哲(キリンホールディングス株式会社 飲料未来研究所)、小林吉倫(ホップファーム小林)、田村淳一、森田正文 - 日本産ホップ推進の新たなステージへ
「日本産ホップセミナー」の背景と目的
日本産ホップセミナーの冒頭では、株式会社スプリングバレーブルワリーのマスターブリュワーである田山智広さんから、「日本産ホップセミナー」の背景と目的について説明がありました。その内容について紹介しましょう。
日本産ホップを盛り上げようという取り組みの背景
日本において商業的なホップ栽培は、大手ビール会社との契約栽培から始まりました。これを第1世代とすると、地ビール・クラフトビール会社の小規模栽培が第2世代です。
この第2世代が出てきた理由としては、大手ビール会社の契約栽培ホップが市場に出回らなかったことが挙げられます。第1世代は契約栽培という形態だったこともあり、閉じた形でホップ栽培が続けられてきたのです。
そして最近では、第3世代となる第三極のグロワーが現れてきました。第1世代、第2世代にも当てはまらないグロワーで、ホップ栽培が多様化してきたともいえます。
- 第1世代:大手ビール会社との契約栽培
- 第2世代:地ビール・クラフトビール会社の小規模栽培
- 第3世代:第三極の出現による栽培の多様化
このタイミングで次のステップに向かうために、みんなで日本産ホップを盛り上げていこうということで、フレッシュホップフェストなど日本産ホップ推進委員会の活動が始まりました。
日本産ホップのプレーヤーに期待される役割
これまでのフレッシュホップフェストなどの活動を通して、一定の成果は得られたものの、新たな課題が出てきています。ある意味で変革期を迎えているといえるのかもしれません。
キーワードはサステナビリティ。日本産ホップを定着させるために、品質の底上げ、収量・生産性の向上、出口戦略(ホップの加工形態、販路、どのようなビールにするか)、日本産ホップの魅力化といったことが考えられます。
具体的には、栽培者(グロワー)、醸造者(ブルワー)、飲食店(サーバー)それぞれが、以下のような役割を担うことを期待されているといえるでしょう。
- 栽培者(グロワー):日本産ならではの品質実現、供給体制の整備など
- 醸造者(ブルワー):日本産ホップビールの開拓、定番化、新ビアスタイルなど
- 飲食店(サーバー):日本産ホップビールの理解、話題化、普及など
これらの課題や役割を共有し、議論を深めることが今回の日本産ホップセミナーの目的。日本産ホップは可能性を秘めたムーブメントだともいえます。グロワー、ブルワー、サーバーにビアファンも加え、次のステージに進んでいくことが期待されています。
持続可能なホップ産業の実現に向けて
続いては、遠野ホップ収穫祭実行委員長で株式会社BrewGood代表でもある田村淳一さんのプレゼンテーション。「持続可能なホップ産業の実現に向けて」と題した、ホップの契約栽培地である遠野で起きていることについての紹介です。
田村さんは、岩手県遠野市へ移住した後、株式会社遠野醸造取締役、遠野ホップ収穫祭実行委員長に就任し、2018年には遠野市のビールの里構想を具現化するために株式会社BrewGoodを設立。ビールによって社会を少しずつ良くしていくことをミッションに掲げています。
遠野市でのプロジェクトの歩み
遠野市はキリンビールとのホップ契約栽培地で、1963年からホップ栽培を開始しています。現在ではホップ農家が減少しており、栽培面積はピーク時の6分の1までになってしまっている状況。
そこで遠野市では、ビールの里プロジェクトを推進し、ホップ栽培だけでなく遠野市の人口減少や産業衰退といった地域課題も解決しようとしています。ホップ栽培だけでは広がりにくいところをホップの里からビールの里へと転換することで、ビールによって他の地域資源とつながり、産業化できるのではないかという狙いです。
遠野市のホップに関する歩みとしては、2016年までは行政と大企業、農業従事者での取り組みでした。これが、2016年からは移住者も増え、地域住民と手を組み推進していく形に進化してきています。
主な動きとしては、2017年に遠野醸造設立、2018年に農業法人BEER EXPERIENCE株式会社と株式会社BrewGoodが設立、2019年には遠野ホップ収穫祭の来場者数が2日間で1万2,000人突破、といったことが挙げられます。また、2020年にはホップ研究の第一人者である村上敦司さんが遠野に拠点を移しました。
遠野のこれまでの取り組み
では、農業としてのホップ栽培を持続可能にするために、遠野では具体的に何に取り組んでいるのかを紹介します。
新規就農者の募集
ひとつは新規就農者の募集です。過去5年で8名の新規就農者がおり、ホップ農家として独立していない就農者も含めると10名以上。ただ、就農者は集まってきていますが、経済的に自立できる経営モデルを確立することが課題となっています。
ドイツ式栽培方法の導入
もうひとつは、ドイツ式栽培方法の導入です。ホップ栽培を持続可能にするためには、栽培の効率化が欠かせません。そのため、ドイツ式の栽培方法を取り入れ、栽培を高度化することに取り組んでいます。ただし、多額の初期投資が必要だという課題もあり、初期投資ができる農家は限られます。
こうやって新規就農者が増えたことで、遠野ではホップ栽培における構造的課題が顕在化したといえるでしょう。
農業としてホップ栽培を続けていた地域ならではの課題
遠野は1963年からホップ栽培を行っています。その遠野だからこその課題がほかにも見えてきました。それは、施設や機械の老朽化と生産組合の維持です。
施設や機械というのは、具体的にはホップの乾燥施設です。ホップを収穫して出荷するためには、ホップを乾燥させなければならないのですが、生産組合である遠野市ホップ農協の乾燥施設は45年も前に導入されたもの。
乾燥施設は老朽化が進み、作業効率も低下してきており、修繕費用も必要になります。また、ホップ農家の数が減ってくると、施設利用料など農家1軒あたりの負担も増えることに。
これらは、長年ホップ栽培を続けてきた遠野ならではの課題といえるでしょう。
先輩農家と新規就農者の比較
課題を解決するためには、新規就農者を増やさなければいけないのですが、新規就農者は以前からホップ栽培を行っている先輩農家と比べて、売上をあげにくく、コストが相対的に高くなる傾向があります。
先輩農家はホップ以外の栽培も行っており、複合経営によって収入の手段がほかにもありますが、新規就農者はホップのみであることが多く、ホップ栽培がうまくいかないと経済的に厳しくなってしまいます。
ほかにも、土地を所有しているかどうかといった差もあり、一概にはいえませんが、新規就農者は利益を出しにくい状態であるといえます。
ホップ農家の所得を最大化するには
では、新規就農者も含め、ホップ農家の所得を最大化するにはどうしたらいいでしょうか。利益を増やすには、売上をアップさせることと、コストを下げることの2つが考えられます。
売上アップのための解決策
売上をアップさせるには、面積あたりの収量を上げることと、面積自体を増やすことが挙げられます。これらの動きをサポートしながら、新規就農者に良い状態の畑を渡せるような仕組みづくりの検討も必要です。
コストダウンのための解決策
コストダウンのためには、乾燥施設利用料の負担を少なくする必要があります。そのために、乾燥施設の新設・改修を行うことで、作業効率化による人件費のコストダウンも図れます。また、栽培にかかるコストの見直しも同時に進めていかなければなりません。
ただし、これらはあくまでアイディアの段階。これらの財源をどうやって集めるのかが課題といえます。
地域のファンが農業を支えるモデルへの挑戦
課題が見えてきたら、次はその財源をどうやって集めるか。遠野のビールの里プロジェクトでは、ファンを増やしてその支援をホップ農業の持続化に結びつけるというモデルを構築していこうとしています。
その方法のひとつがふるさと納税です。
ふるさと納税で遠野市に寄付を行うと、その上限30%が返礼品に当てられ、20%が手数料等、50%が財源として使える金額となります。そして、寄付者は寄付金額の使いみちを選ぶことができ、その使いみちとして「ビールの里プロジェクト」を選んでもらえれば、それが持続可能なホップ栽培を進めていくための財源となるのです。
また、ふるさと納税の金額が増えれば、返礼品を扱っている地域事業者の売上アップにもつながります。株式会社BrewGoodはこのスキーム構築と遠野市全体のふるさと納税額アップに貢献。地域全体の取り組みの成果として、遠野市のふるさと納税額は令和元年から令和2年で約3倍になる見込みです。
このように、遠野市のファンが遠野市の農業を支える形のひとつとして、ふるさと納税が活用されています。
日本産ホップの産業集積地へ向けたロードマップ
株式会社BrewGoodでは、遠野市が日本産ホップの産業集積地となるために、二段階のゴールを設定し、それぞれのゴールを達成するための課題解決を順に進めています。
第1フェーズは、反収アップやコスト見直しなど、経済的に自立できるモデルを確立する段階。そして、現在構想中の第2フェーズは、品質向上のための研究施設やペレット加工場なども視野に入れて、日本産ホップの産業集積地を目指す段階。このようなロードマップを策定し、それぞれのゴールを達成するための課題を解決しようとしているのです。
遠野市では、行政や企業と連携して地域活性を広げ、それをホップ農業に還元・投資し、ホップが農業として成立していくよう、これらの活動を進めています。
ヤッホーブルーイング「フレッシュホップビール醸造 苦難の歴史」
続いては、株式会社ヤッホーブルーイングの製造責任者である森田正文さんから、ヤッホーブルーイングでのフレッシュホップビール醸造の歴史についてのプレゼンテーションです。
ヤッホーブルーイングは、第2世代のホップ栽培者として2015年頃からホップ栽培を行っています。しかし、そのホップからフレッシュホップビールを造るまでには、生々しい失敗の数々がありました。
失敗その1 〜The見切り発車〜
ヤッホーブルーイングで最初にホップ栽培を始めたのは2015年頃。しかし、残っているのは、カスケード、ソラチエースを10株購入してうまくいかなかったという記録だけ。
初めてのフレッシュホップビールは、福利厚生の一環として社員が好きなビールを20リットル造れるということで、2014年に社員が自宅で栽培していたホップを使用したもの。こちらも、いい味わいにはなりませんでした。
転換点は2016年。森田さんが遠野を訪れたことで、日本のホップ産業の歴史と現実を知り、「日本のホップ産業を守らないと! と火がついた」ことがきっかけ。ホップとビールで地域を盛り上げて、軽井沢をビール王国にするという思いに至りました。
その年から、醸造所の空き地と株式会社グリーンフィールドの圃場で本格栽培を始め、そのホップをドライホップとして使用したビールを醸造。しかし、ビール自体は悪い出来ではありませんでしたが、アロマや苦味も不足したビールに。ホップの植え付け初年度だったこともあり、精油成分が少なめだったのかもしれません。
失敗その2 〜本格的に栽培したら…〜
翌2017年は、ホップが大豊作。グリーンフィールドでは、40年以上前にホップ栽培を経験していた方が栽培を担当していましたが、予想以上の大豊作でした。
あまりの大豊作だったため、ホップの摘み取り作業が追いつかずに、スタッフ総出で摘み取り作業を行うことに。収穫したホップをその日のうちに仕込むことで、ブルワーはかなりの負担になりました。
しかしその甲斐あって、ビールは過去3年で一番の出来。軽井沢産のホップはワールプールに投入し、凍結粉砕遠野産IBUKIをドライホップで使用しました。品質が安定しているIBUKIを併用したことがいい出来につながったのかもしれません。クリーンで優しいホップの味わい、フレッシュホップならではの心地よい香りのあるビールとなりました。
一方で、フレッシュホップビールの販売は苦難の連続。地元軽井沢では、フレッシュホップビールが認知されておらず、フレッシュホップフェストとよなよなビアワークスでの販売が主でした。
失敗その3 〜調子に乗りました〜
2018年は、ホップ栽培を簡易ハウスからやぐらを作ってスケールアップ。しかし、移植タイミングが遅かったからか収量が激減します。
ビール造りでは、前年に感じたブルワーの負担を軽減するために、収穫後に凍結し、その翌日に仕込みを行いました。ただ、100%地元ホップで醸造しようとIBUKIを購入しておらず、そこに収量激減が重なって、ホップの個性を十分に感じられないビールに。
そして現在…
2019年からは、ホップの品質も収量も安定するようになっています。そこで、地元の人たちと収穫したり、フレッシュホップのセミナーを行ったりするなど、軽井沢でフレッシュホップを浸透させる取り組みを開始しました。
ヤッホーブルーイングがここまで行ってきた活動は、まだ文化として定着したり、費用対効果が上がったりはしていませんが、得られるのは単純な経済的価値ではありません。
ヤッホーブルーイングでは、地域や原材料生産者、コミュニティとのつながり、思いの共有など、日本産ホップを通じて、新しいビールの魅力を感じてもらい、ロイヤリティの向上につなげたいと考えています。
日本産ホップ座談会「日本産ホップの今とこれから…」
日本産ホップセミナー2021春の最後は、「日本産ホップの今とこれから…」と題して、座談会を行いました。
田山さんが進行を行い、パネラーとして新井健司さん(株式会社サッポロビール SORACHI1984ブランドマネージャー)、藤原ヒロユキさん(京都与謝野ホップ生産者組合)、本間誠さん(株式会社ホップジャパン代表取締役、都路ホップガーデンブルワリー)、杉村哲さん(キリンホールディングス株式会社 飲料未来研究所)、小林吉倫さん(ホップファーム小林)、田村さん、森田さんが参加。
まずは、ホップ栽培についての課題と今後のチャレンジについて考えていることを、それぞれが発表しました。
藤原ヒロユキさん(以下、藤原):与謝野での課題は、生産性を上げてどうやってホップだけで経済的に自立していくか。与謝野のホップ農家はどこも兼業なので、ホップだけでというのには程遠い状況。
また、年間通してホップを買ってもらいたいと思っており、そのための解決方法としては、地元で醸造所を造るということ。現在は、京都与謝野酒造とかけはしブルーイングがOEMでビールを造っていますが、6次産業化を進めていきたいですね。
小林吉倫さん(以下、小林):ホップを6、7年栽培していますが、需要が増えているので、さらに面積を拡大したいと考えています。それに伴って、ホップの機械化による効率化といったことが課題です。作業面を機械化できないかと検討中。
北杜市はもともとキリンの契約栽培地でした。それを復活したいと思い、市と連携して進めています。
本間誠さん(以下、本間):ホップ栽培は2021年で5年目です。ホップ栽培は、しっかりやろうとすればするほど手間がかかります。手摘みを前提にした圃場なので、負担は大きいものです。その負担をいかに解決するかが課題。ホップ栽培の技術は確立されているので、ホップ栽培をしたいと考えている人を受け入れられるような体制も考えたいと思っています。
2020年に都路ホップガーデンブルワリーがオープンしたので、ホップ農家の最終地点ができました。シングルホップのビールを造ったり、麦も造っているのでオール福島のビールを造ったり、ホップのパンなども商品化したいですね。ホップ風呂も考えています。
新井健司さん(以下、新井):日本産ホップの課題としては、日本産ホップをブランド化できていないということですね。ソラチエースは海外で知られてきていますが、お客様にはあまり知られていません。まだホップ自体が知られていないといえるでしょう。
また、ビールの選び方はいろいろありますが、そのひとつとしてホップの品種で選べるようになればと思っています。それを通じて日本産ホップを知ってもらい、地域創生にもなればいいのではないでしょうか。
田村淳一さん(以下、田村):産地によって状況やフェーズが違うので、産地・フェーズ固有の課題がありますね。
ビール以外へのホップの用途拡大について
田山智広さん(以下、田山):ホップ農家としては、生産性や効率性を上げるといった課題は、共通してあるイメージですね。小林さん、需要が増えているというのは、具体的にどういったことでしょうか。
小林:ビール以外のものに使う目的で、乾燥ホップで月に1トンほしいといった問い合わせがあります。ただ、まだそこまでの供給体制になっていないので、いまは無理な状況です。製パン業界、製菓業界、製茶業界からも引き合いがあります。
田山:事前にいただいた質問の中にも、ビール以外でも使えるかという質問がたくさんありました。
小林:ホップはすべてのお酒に使えると思っています。山梨では商品化になるところまできていて、ワインや日本酒まで。焼酎、ジン、ウイスキーなどにも使えると思います。ピクルスや機能性食品にも使えます。
藤原:ホップがほしいということで、パティシエの方が与謝野に来たことがあります。何種類か試してIBUKIがよかったようで、ホップをチョコにしていました。
田山:ビール以外の用途拡大について、生産者はどう考えていますか?
藤原:私は否定的ではないですね。可能性としておもしろいと思います。
田山:お酒に使われるのはナーバスではないですが、微生物の問題などもありますし、他の食品に生ホップを使うのは慎重にしたほうがいいかなと思っています。ホップ風呂は大丈夫だと思いますが、本間さんはどうお考えでしょうか。
本間:旅館業法で決まっているので浴室を造らないといけないのですが、決まりでやらないといけないなら、おもしろくやろうということでホップ風呂を考えています。ホップを販売するというよりも、産業につながる流れを作りたいということですね。
藤原:ホップのパンというのは、ホップそのものを使うのではなく、ホップから野生酵母をとって焼くんですか?
本間:そうですね。なので、ホップ風味があるわけではありませんが、仕上がりや食感をやわらかくできます。
ビール醸造のためのホップ品質向上について
田山:ここからはビール醸造の話に絞って考えてみたいと思います。日本産ホップでおいしいビールを造ろうとするのであれば、品質のいいホップを提供する必要がありますね。
藤原:ブルワーが計算できないので、少なくともアルファ酸の計測は必要ですね。
田山:裾野が広がってくると、共通の指針が必要になるかなと思います。
田村:遠野にいて思うのは、ベテラン農家には明文化されていない感覚や知識があるということ。それを残していかないと、貴重な知見が失われてしまいます。そのために、研究や集約は必要だと思っています。
森田:ブルワーの視点でいうと、安全が第一ですね。異物がないこと、農薬や化学的残留がないこと。それが仕組みとしてできていると安心して購入できます。アルファ酸は苦味づけのホップで使えば大事なファクターですが、ドライホップでの使用であればアルファ酸は気にしていません。
田山:製品規格を定めて、安全も含めた品質保証を規定したものが最低限必要かと思います。水分含有量やアルファ酸、賞味期限や保管条件、用途などをセットで提示していかないと。第3世代の作ったホップが出回って、そのあたりがルーズになっている感じがします。
日本産ホップのブランド化について
田山:日本産ホップがブランド化できていないという指摘がありましたたが、日本産ホップ推進委員会としても、今後どうするかを考えたいと思っています。海外から日本のホップを使いたいと言ってもらえるのが理想ですね。サッポロビールさんではどう取り組んでいるでしょうか?
新井:ビジネスとして落とし込んでいるのはありませんが、ソラチエースだけでなく、フラノマジカル、フラノローザなど、海外ホップに負けないようなフレーバーホップを作っています。ただ、1社だけでやっていても難しいので、ホップをビールに使ってもらって飲めるようになれば、ホップのおもしろさがわかるようになっていくのでは。そんな方向に進めたいと考えています。
田山:それらのホップは購入できるのでしょうか?
新井:まだ購入できないですね。興味ありますでしょうか。
藤原:ソラチエースは購入できるようにしてもらいたいですね。ソラチエースは、日本産ホップを牽引できるブランドだと思っています。
新井:ホップ栽培にはストーリーがあるからこそ、サッポロビールとしても140年ホップと向き合い続けることができています。ホップをなんとかお客様にお届けできるようにしたいですね。
ホップの新品種について
田山:新品種についての事前質問も多くありました。新品種はどう作っているのか、何を狙って開発しているのか、といったことなど。サッポロビールさんはホップをいろいろつくっていますが、どんなお考えがあるのでしょうか。
新井:ホップについての考え方は、そのときどきによっても変わっています。最近では、日本でもフレーバーホップを作れば世界で戦えるのではということを考えて、特徴的な成分をマーキングして新品種を開発していました。ソラチエースの子孫を作ろうとしたり、栽培特性の改善などを考えています。
杉村哲さん:客観的に見ると、アメリカにはカスケードがあって、その後もカスケードライクなものが作られています。その潮流は今でも大きく変わっていません。求めていきたいのは日本らしいホップでしょうか。日本らしいビールは何かを考えていくと、求められるホップが見えてくるのではと思います。
田山:日本産ホップを作る意味は何かということを、ブルワーが理解していないとお客様にも伝わりません。日本産ホップの価値がしっかり伝わるビールを造る必要があります。そのためには、多くの人が参画することが大切だと考えます。
今回は良い議論ができたのではないでしょうか。日本産ホップ推進委員会では、ホップセミナーやイベントなど、年間通じて取り組みを進めていきたいと考えています。また機会を作りますので、みんなで日本産ホップを盛り上げていきましょう。
日本産ホップ推進の新たなステージへ
この後は、日本産ホップセミナーの懇親会がオンラインで行われましたが、セミナーとしてはこれで終了。今回は、これまでのクローズドな開催とは異なり、オンラインで130名近くが参加しました。日本産ホップを推進していく上で、新たなステージに入っていけたと思います。
また、今回で7回目の開催となり、日本産ホップの栽培の現状と課題、目標とすべきことが明確になってきたように感じられます。今回の内容は多くの方々の参考となったのではないでしょうか。
次は、日本産ホップセミナー2021夏を2021年6月18日(金)15:00に開催します。具体的な醸造方法やブルワー座談会などを企画していますので、また多くの方に参加していただき、日本産ホップを盛り上げていければと思います。