日本産ホップセミナー2021夏、開催!フレッシュホップを効果的に使うには?
日本産ホップ推進委員会は2021年6月18日、日本産ホップセミナー2021夏を開催しました。ホップ栽培者・ホップ農家向けのイベントとしては、今回で8回目の開催となります。
日本産ホップセミナーの目的は、ホップ栽培の特殊性の理解と栽培ノウハウの共有、人的ネットワークの形成です。
今回もオンライン開催で、特に醸造家(ブルワー)に向けた、フレッシュホップの使い方がメインとなりました。
目次
- フレッシュホップ概論
田山智広(株式会社スプリングバレーブルワリー マスターブリュワー) - 生ホップを用いた醸造手法について
北林剛(スプリングバレーブルワリー京都 ブリュワー) - フレッシュホップビール・事例研究 2016〜2019FHF参加ビールを振り返る
進行:田山智広
パネラー:佐藤航(世嬉の一酒造株式会社 代表取締役社長)、阿部和永(T.Y.HARBOR BREWERY ブルーマスター)、坪井大亮(上閉伊酒造株式会社 醸造士)、森田正文(株式会社ヤッホーブルーイング 製造責任者) - 2021年もおいしいフレッシュホップビールが飲めるように
フレッシュホップ概論
日本産ホップセミナー最初の講演は、株式会社スプリングバレーブルワリーのマスターブリュワーである田山智広さんによる「フレッシュホップ概論」です。
日本産ホップセミナーが開催された6月は、どのようなフレッシュホップビールを造るかを考え始める時期。そのための情報を提供するという意図で、フレッシュホップをどのように使えばいいかというレクチャーとなりました。
フレッシュホップビールの魅力とは、
- 新鮮なホップにしかないみずみずしい香り
- 雑味のないクリアな飲み口
- テロワールが楽しめる
- 畏れ・祈り・喜び・感謝・希望を共有できる
ということを挙げた上で、ペレットホップとフレッシュホップでの成分の違いとフレッシュホップの殺菌方法について説明がありました。
フレッシュホップの成分から見た特徴
フレッシュホップは、収穫後の熱乾燥を経ていないため、みずみずしさが残っているという魅力がありますが、それによって成分にもペレットホップとは異なる特徴があります。
簡単にまとめると、ペレットホップと比べて、フレッシュホップの成分は下記の特徴があるとのことでした。
- フレッシュホップは水分が多いので、アルファ酸量をペレットとそろえるなら5倍くらいの量が必要
- フレッシュホップは、アルファ酸の溶解の効率が悪い
- フレッシュホップは、効率は悪いが香気成分は多い
フレッシュホップに存在する微生物と殺菌条件
また、フレッシュホップの殺菌についてもレクチャーがありましたが、この点については気になるブルワーの方も多いかもしれません。フレッシュホップには当然微生物が存在しており、ビールの品質を保つためには、殺菌が非常に重要になります。
結論を書いてしまうと、フレッシュホップは65度で10分間の殺菌を推奨しているということでした。熱い麦汁に投入するのであれば問題はありませんが、ディップホップやドライホッピングを行う場合は、対策が必要。殺菌の際の温度を上げられればより安心ですが、温度を上げすぎるとアルファ酸の異性化も進んでしまいます。
また、ペレットホップでも粉砕してから殺菌しないと、90度の温度であっても十分な殺菌効果が得られないとのこと。できるだけ粉砕することが大切なようです。
フレッシュホップ使用のポイントまとめ
フレッシュホップ使用のポイントをまとめると下記のようになります。
- 生ホップの品種使用量タイミングを工夫することで、生ホップならではの特徴のでるビールができる
- 抽出効率は悪いが、贅沢に使うことで、豊かな香りがありつつ雑味の少ないビールができる。
- 課題はハンドリングに手間がかかる。発酵工程以降の微生物汚染対策
- 凍結粉砕や真空冷凍では、商品化の幅が広がる。収穫直後の旬のホップを使用したビールは特別なおいしさがある
生ホップを用いた醸造手法について
続いて、スプリングバレーブルワリー京都のブルワーである北林剛さんから、生ホップを用いた醸造手法についてと題して発表がありました。
なお、スプリングバレーブルワリー京都では120リットル規模での醸造を行っており、2017年から京都・与謝野の凍結粉砕ホップを使ったYOSANO IPAを通年で続けています。その知見を共有いただきました。項目ごとに、簡単に紹介します。
生ホップ投入量・タイミングについて
まずは、生ホップの投入量とタイミングについてです。
IPAの場合、生ホップは発酵タンク以降の過程での投入量が多くなってきます。具体的には、ディップホップやドライホッピングです。
投入量が多くなってくる理由としては、生ホップペレットホップに比べて水分が多いということと、ペレットホップのようにルプリンが物理的に破壊されておらず、香りや苦味の抽出効率が悪いということが挙げられます。
粉砕の必要性
続いて、粉砕の必要性についてです。
生ホップを粉砕する目的としては、ホップに含まれるルプリンを露出させ、麦汁やビールとの接触面積を増やすということです。また、手で細かくほぐすのでも効果はありそうですが、細かく粉砕することで、配管やプレート式熱交換器に詰まるのを防ぐことができます。
ただ、粉砕度は粗くても細かくても、苦味・香味・ロスについて顕著な差はないということです。
殺菌の必要性について
最後に、殺菌の必要性についてです。
こちらは、田山さんからも説明があったとおりですが、スプリングバレーブルワリーでは、65度で10分の殺菌を行っています。
北林さんの発表をまとめると、下記のようになります。
- 生ホップはペレットの4〜7倍と、とにかくたくさん入れる
- 生ホップは粉砕して使用する
- 生ホップは65度で10分殺菌する
フレッシュホップビール・事例研究
2016〜2019FHF参加ビールを振り返る
ここからは第二部として、これまでに何度もフレッシュホップフェストに参加した経験のある醸造所の方々と、過去のフレッシュホップビールを振り返るというコーナー。
いわて蔵ビールのフレッシュホップビール
まずは、いわて蔵ビールがフレッシュホップフェストのビールとして造ってきた、フレッシュホップビールについて振り返ります。
いわて蔵ビールは、2016年からフレッシュホップフェストに参加。一貫して遠野産IBUKIを使ったESBを醸造しています。アルコール度数やIBUも大きな差はなく、イチジクや紅茶の香りが特徴のESBです。
佐藤航さんによると、2019年はホップの量を増やしたので、味わいのバランスがとれたのでは、ということ。フレッシュホップをカラメルモルトと組み合わせてどうなるのか、という点を考えながら造っているそうです。
T.Y.HARBOR BREWERYのフレッシュホップビール
続いては、T.Y.HARBOR BREWERYのフレッシュホップビールです。
T.Y.HARBOR BREWERYは、2018年からフレッシュホップフェストに参加していますが、フレッシュホップビール自体はそれ以前から醸造しています。2018年はブリュットIPA、2019年はセッションIPAをフレッシュホップフェストのビールとして醸造。
使用しているホップは京都・与謝野産で、毎年ホップのクオリティはブラッシュアップされてきている印象だそうです。
なお、ホップの使い方は、スプリングバレーブルワリーと同じで粉砕していますが、殺菌については、発酵タンクに入れたホップに対して熱い麦汁を加えることで行っています。
遠野麦酒ZUMONAのフレッシュホップビール
遠野麦酒ZUMONAも、2016年からフレッシュホップフェストに参加しているブルワリーです。
醸造しているビールは、一貫して遠野産IBUKIを使った遠野の華というウィートエール。スペックもほぼ変わりないようですが、2019年はこれに加えてウィートIPAも醸造しました。なお、遠野の華は、インターナショナル・ビアカップ2020のFresh Hop Beerスタイルで銅賞を受賞しています。
遠野麦酒ZUMONAのフレッシュホップビール醸造で特徴的なのは、ペレットホップも組み合わせて醸造していること。組み合わせることで、双方の良さを引き出しているのかもしれません。
ヤッホーブルーイングのフレッシュホップビール
最後は、ヤッホーブルーイングのフレッシュホップビールです。
ヤッホーブルーイングがフレッシュホップフェストのために造ってきたのは、ブロンドエールとアメリカンペールエール。基本的には軽井沢産ホップを使っています。
フレッシュホップの使い方としては、試行錯誤しながら行っており、収穫したホップを液体窒素で凍結して翌週くらいに使用するという方法も。
なお、ホップ栽培とフレッシュホップビール醸造には、何度も苦労してきたようで、その苦労話は日本産ホップセミナー2021春のレポートでご覧ください。
日本産ホップセミナー2021春、開催!日本産ホップ推進の新たなステージへ
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2021年もおいしいフレッシュホップビールが飲めるように
日本産ホップセミナー2021夏は、ブルワーがフレッシュホップビールを醸造することを念頭に、主にスプリングバレーブルワリーの知見を共有するセミナーとなりました。今回もオンラインで多くの方々に参加いただき、有意義なセミナーとなったのではないでしょうか。
簡単にまとめてしまうと、フレッシュホップはペレットホップの4〜7倍使用する、粉砕して使用する、65度10分殺菌して使用する、ということに尽きるかと思います。
2021年もおいしいフレッシュホップビールが飲めることを楽しみにしています。