ホップ栽培の成功事例を共有するホップトーーク!日本産ホップセミナー2022春開催!
ホップ栽培者・ホップ農家向けのイベントとして、日本産ホップ推進委員会が開催してきた日本産ホップセミナー。2022年3月25日(金)の「日本産ホップセミナー2022春」で8回目の開催となります。
今回は「ホップ生産者さんの成功事例を共有するホップトーーク」と題し、12のテーマについてのトークを繰り広げました。
YouTube動画:日本産ホップセミナー2022春
前半は「栽培技術トーーク」として下記の6テーマ。
- 4月の芽を捨て、5月の芽を育てる
- 品種を選別して収穫量アップ
- 反収をあげる努力
- 作業内容をスマホアプリで共有
- 地元大学と連携しホップの研究
- 栽培技術書とホップの表情を読み取る
後半は「地域共生トーーク」として下記の6テーマを取り上げました。
- 参加費2万円のホップ収穫祭が即完売!
- 子どもたちが大喜び!収穫祭は…まるでキッザニア!
- ふるさと納税で収益モデルを変える
- 休耕地をホップ圃場に!150人を超えるボランティアが参加
- 地域の方々と協力し都市型緑化活動を推進
- ビアツーリズムをブランド化へJAPAN HOP COUNTRY構想とは?
参加者とパネラーは下記の方々です。
司会
日本産ホップ推進委員会 京都与謝野ホップ生産者組合 藤原ヒロユキ
参加者
日本産ホップ推進委員会スプリングバレーブルワリー マスターブリュワー 田山智広
日本産ホップ推進委員会ヤッホーブルーイング 製造責任者 森田正文
キリンR&D本部 酒類技術研究所 杉村哲
パネラー(敬称略・50音順)
籠屋ブルワリー(小川農園)江上裕士
私市ホップファーム 勝谷拓朗
NI-WA 鈴木悟
古川原農園 古川原琢
Brew Good 田村淳一
HOP JAPAN(都路ホップファーム) 本間誠
ろまんちっく村ブルワリー 山下創、嶋田秀庸
栽培技術トーーク
4月の芽を捨て、5月の芽を育てる
藤原:まずは、「4月の芽を捨て、5月の芽を育てる」というテーマです。ろまんちっく村ブルワリーの嶋田さん、これはどういったことなんでしょうか?
嶋田:弊社のホップ畑で4月にアクシデントがありまして。強風でホップが全部折れてしまったんですよ。その後も芽が出てこないから、今年はダメかと思っていたんですが、5月になったら新たな芽が出てきました。弊社のホップ畑では、例年は8月中旬に収穫することが多いのですが、このときは9月10日くらいに花がたくさんついたんです。
藤原:初めに出た芽は全部切ってしまったほうがいい、という話を聞いたことがあります。でも、実際に切ってしまうのは怖いんですよね。その点については、杉村さんいかがですか?
杉村:生産者によっては、最初の芽を取ってしまうのではなく、少し経ってから出た芽を取るという話も聞きますね。ただし、最初の芽を育てすぎてしまうと、最初の芽のために養分を使いすぎてしまうこともあるので、その点は注意したいところです。
藤原:最初の芽を取るというのは、収穫時期をそろえるためということなんでしょうか?
田山:私はあまり栽培は詳しくないんですが、最初の芽の勢いが良すぎるとそこに養分が取られてしまうので、取ってしまったほうがいいという話は聞いたことがありますね。農家ではないので、詳しいところはわからないですが。
本間:成長をそろえるというのが目的だと思います。成長がバラバラだと、後の手入れが大変になるので。
藤原:この写真は、ろまんちっく村さんの写真ですか。まだ成長していないときの写真ですね。。
嶋田:左の写真は株開きのときです。右が育ったときの写真。
藤原:左の写真には畦シートが見えますね。
嶋田:そうですね。雑草対策ということと、お客さんと一緒に株開きをやるので、株の場所をわかりやすくする目的です。この中だけ掘ってくださいって言えばわかりやすいですから。
本間:除草のときに株を傷つけないようにできますし、場所もわかりやすいんですが、成長してくると限界がありますよね。株が広がりすぎてしまって。
藤原:こうやって畦シートを使ったり、4月の芽を切ったりすることで、結果的に収量が上がったということでしょうか。
嶋田:そうですね。だいたい1.5倍くらいに収量が増えたと思います。今年もやってみたいと思っています。
品種を選別して収穫量アップ
藤原:続いては「品種を選別して収穫量アップ」ということで、籠屋ブルワリーの江上さんにお話をうかがいましょう。
江上:私たちは、狛江市の小川農園というところでホップを2017年から育てているんですが、栽培開始から2、3年くらい経って、品種による収量の差が出てきました。5、6種類植えていたんですが、ファグルやテトナンガーといったヨーロッパ品種の収量が悪かったですね。そこで、収量の悪い品種の根を全部取って、別の品種に植え替えたんです。1メートル縦横くらいに根を張っていて、ショベルカーを使って根を取り出しました。
藤原:これが掘り出された株ですか。よく掘りましたね。
江上:これが3年目ですね。
藤原:根がちぎれてしまったら、そこからまた芽が出てくることもありますからね。
江上:そうですね。なので、できるだけ傷つけないようにして、最終的には手で掘りました。収量が悪いので根もそんなにないかと思ったら、すごいことになってました。
藤原:こういうことになるので、栽培はプランターでは難しいですよね。
江上:こちらは蔓下げをやっている写真です。蔓を下げるときに、高さが稼げるのでくの字型にしてみました。最初の年はたゆんで蔓どうしがぶつかってしまって、茶色くなったりもしましたね。2年目に間隔を開けたら、比較的よくなってきました。3年目も改善したら、だんだん収量が増えてきました。
本間:風の対策はどのようなことをやっていますか?
江上:特に対策はしていないですが、風が吹いてもぶつからないような角度にしていますね。
藤原:収量はどれくらい増えたんですか?
江上:倍以上の収量になりました。カスケードとセンテニアルを植えたんですが、センテニアルは3年目でまだ収穫できていません。
藤原:センテニアルは毬花が少ない印象がありますね。
杉村:センテニアルが少ないかどうかはわからないですが、気候に合っていないということはあるかもしれません。
古川原:センテニアルは蔓の伸びも弱いし、毬花の付きも弱いという印象ですね。カスケードの半分以下です。
藤原:与謝野でもセンテニアルはあまり付かないですね。
本間:福島ではセンテニアルはよく育ってます。年によっても若干違いますが、それほど他と違う印象はないです。
藤原:品種を選別して収穫量がアップしたというお話でした。ありがとうございました。
反収をあげる努力
藤原:続いて、遠野市の株式会社BrewGoodさんによる「反収をあげる努力」です。
田村:今回お話しするのは、成功事例ではなくこれから取り組むことになります。遠野では、ホップ栽培を持続可能な生産モデルにすることを目指しているんですが、そのためには、売上をあげて、コストを下げる必要があります。そして、売上を上げるためには、反収をあげるか、面積を増やすかのどちらかです。しかし、面積拡大は簡単ではないので、面積あたりの収量をあげようとしているのが現状ですね。
それを目指すにあたって、農家によって反収のばらつきがあるのはそれはなぜかをつきとめて、株の年数や立地、肥料、作業工程などの変数のうち、どこにインパクトがあるかをこれから調べようとしています。課題特定をまず行い、数年かけて変数のロジックを把握していく。そして、直近では作業工程の遅れでどう変化があるかといったことを、試験的にやってみようとしています。
藤原:なかなか難しそうな取り組みではありますね。
田村:そうですね。アルバイトを雇って対応しようと思っても、これまで手伝ってくれていた方々も高齢化で対応しにくいという状況ではあります。なので、大学生と連携してやれないかと考えています。
藤原:遠野でも反収のばらつきがあるんですね。
田村:遠野は他の産地と比べても反収が低くなっています。その遠野の中でも農家によって差があるので、その変数を調べようと。
藤原:与謝野も反収をあげることが目標なので、追肥や作業効率などに安定して人手が供給できないか、常に考えています。ありがとうございました。
作業内容をスマホアプリで共有
藤原:続いて、NI-WAの鈴木さんの「作業内容をスマホアプリで共有」です。これはどういったことでしょうか?
鈴木:私たちは、奈良でもホップを栽培しているんですが、都心でもなんとか栽培できないかとチャレンジしています。その取組内容をアーカイブとして残すために、スマート農業を行っている農家さんと連携して、日々の投稿を集約できるアプリを使っているんです。
藤原:そのアプリでは何ができるんですか?
鈴木:例えば、アプリでホップの発芽した日付や内容を入力すると、それに応じて開花時期などを予測することができます。また、生育の様子をビデオチャットやテキストで共有できるので、このアプリで地域による違いなどを可視化できるように取り組んでいます。
藤原:どれくらいのホップ畑が参加しているんでしょうか?
鈴木:現在アプリに登録しているのは15ヵ所くらいですね。関西と首都圏がメインです。ホップに関する情報をできるだけアプリにアップして、そのデータを有効活用できないかと思っています。まだ試験運用ですが、アプリのダウンロードと登録は無料です。こちらからアプリについて確認していただければ。
田山:おもしろいなと思いますね。情報交換ツールとしてだけでなく、グロワーとブルワーをつなぐツールとして、積極的に忌憚のないやりとりをタイムリーに交わせるようになるといいなと。今後に期待しています。
古川原:こういった便利なアプリがあることを初めて知りました。品質の向上につなげられるならいいなと思いますね。
森田:ブルワーとの連携という面では、トレーサビリティにもなるのでおもしろいと思います。グロワーの情報交換のツールですが、そこから飲む人までつながる情報交換アプリになったらいいですね。
地元大学と連携しホップの研究
藤原:では、ろまんちっく村ブルワリーさんの2つ目のテーマです。
嶋田:「地元大学と連携しホップの研究」というのは、栃木県産業技術センターや宇都宮大学との産官学連携です。宇都宮大学のキャンパス内にホップ畑を造って、学生が管理しています。
藤原:何株くらい栽培しているんですか?
嶋田:カスケード、ゼウス、チヌークの3品種を10株くらいずつ栽培しています。私は株開きのタイミングだけ手伝いをしていますが、ちゃんと育っていますね。
藤原:そのホップを使って学生が研究をしているんですか。
嶋田:そうですね。ホップを保存するなら乾燥させる必要がありますが、そのときにどう乾燥させたら品質のいいホップとして保存できるのかという研究です。結論としては、温度と時間をかけないほうがいいようです。簡単に言うと、どうやって乾燥させればいいかということなんですが、ホールのまま乾燥させると温度と時間が必要になります。ですが、軽く砕いて乾燥させると、乾燥時間も短くなり、色の変化もなく香りが残ります。
森田:興味深いですね。どのような指標で判断しているんですか?
嶋田:現段階では官能評価です。官能試験は、栃木クラフトビール推進協議会のブルワーが行いました。
杉村:おもしろい取り組みですね。さらに、どのような成分変化が起きているのかがわかるとより良いかと思いました。例えば、乾燥させる前に粉砕すると、その時点でルプリンをつぶしてしまい、香気成分が出てしまうことになります。乾燥直後は問題なさそうですが、保管している間に香気成分の変化が起こりやすくなることもあるのかなと。しばらく保管したときの検証もしてみるとより良いと思います。
藤原:数値としての検証はこれからですかね?
嶋田:そうですね。現時点では、どれだけ速く乾燥できるか、どれだけ色の変化を抑えられるか、ということです。ホールよりも半分くらいの時間で乾燥させられるので、その一点においては砕いてからのほうがいいということですね。
栽培技術書とホップの表情を読み取る
藤原:「栽培技術トーーク」最後のテーマは、古川原農園さんの「栽培技術書とホップの表情を読み取る」です。
古川原:私は7年くらいホップを栽培していまして、横浜ビールさんにフレッシュホップを使ってもらっています。品種はカスケードがメインで12本、センテニアル3本。これらを栽培していて、気づいたことが3点あるので共有したいと思います。
1点目は、ホップは地域の農家と一緒に栽培するといいということ。作物をちゃんと作ろうとするなら、プロである農家に頼ったほうがいいんです。そうすると、地域貢献や交流にもつながります。
2点目は、栽培技術本を参考にするということですね。『ホップ―多収栽培の新技術』という本です。なかなか手に入れられなくて図書館で確認しました。この本の内容を参考にしたところ、収量は変わらないんですが、品質が全然違うなと思いました。ホップ栽培は、野菜や果樹の知識があれば問題なく育てられるんですが、香りが十分かというとどうかなと思っていたんです。そのホップの品質をアップさせるエッセンスが、この本の中に散りばめられています。施肥のタイミングが重要ということもわかりました。
3点目は、農家の経験と勘を頼りに、ホップの表情を読み、世話することですね。農家は葉の色を見るだけで、水が足りていないなといったことがわかります。ホップの表情を読みながら、『ホップ―多収栽培の新技術』を基準にして、自分が何をすればいいのかを考えて世話をするんです。例えば、昨年は梅雨時期の雨が特に多くて肥料がだいぶ流れてしまい、ホップに元気がなかったんです。そこで、収穫前に『ホップ―多収栽培の新技術』に書いてある量よりも多く施肥したら、香りが深くなりました。
藤原:『ホップ―多収栽培の新技術』はすごいですよね。プロでないとわからないことはたくさんあります。
古川原:そうですね。なので、地域の農家と協力する必要があると思います。
藤原:私もホップについて理解していると思って与謝野で栽培していますが、それは地元の農家の方がいたからできたと思っています。農家にしかわからないことがある。なので、農家に追肥したほうがいいか聞くこともあります。
古川原:農家じゃないと技術的なこともわからないし、生育状況も判断しにくいと思います。逆に言うと、農家ならそれなりホップ栽培できてしまうんです。自分も最初からできましたが、品質で満足できなかったので、『ホップ―多収栽培の新技術』を参考にしたら、いいホップができました。
本間:『ホップ―多収栽培の新技術』に書いてある内容としては、現在の方法からすると古いかなという印象もありますが、参考になるところはたくさんありますね。花が咲いて栄養を使い果たすタイミングを見極めながら施肥をすることでだいぶ変わるという印象はあります。
藤原:「栽培技術トーーク」として、非常に参考になる情報共有ができたと思います。ありがとうございました。
地域共生トーーク
参加費2万円のホップ収穫祭が即完売
藤原:後半は「地域共生トーーク」をテーマに話をしていきたいと思います。HOP JAPANの本間さんに、「参加費2万円のホップ収穫祭が即完売!」ということについてお話しいただきましょう。
本間:私たちは旅行会社と協力してツアーを開催しています。ホップをみんなで収穫した後に、地元のレストランの料理人が作るおいしい料理とクラフトビールを飲むという内容です。10時から昼まで2時間くらいホップを収穫して、その後の2時間くらいで料理を楽しむといったスケジュールですね。こういったツアーを毎月1回定期的に開催している旅行会社で、その中のひとつのツアーとして開催しました。
藤原:ホップ以外にもその旅行会社はツアーを開催しているってことですか?
本間:そうです。農業や畜産に関わるツアーなどいろいろ開催していて、ある程度の固定客がいるようです。その中でも、ホップ収穫祭は年間で一番人気のあるツアーで、2万円で即完売しました。
藤原:旅行会社もレストランも地元なんですか?
本間:はい、郡山の旅行会社がすべてコーディネートしてくれています。
田村:すごくいいですね。私たちもホップ畑をめぐるツアーをやっていますが、料理のグレードを上げるといったことで進化できると思います。
藤原:料理のレベルはどれくらいなんでしょうか。
本間:地元でも評判のレストランです。このレストランの料理とホップ収穫体験がついているなら納得できる価格ですね。シェフもホップ畑を下見して、ホップをどう料理に使うかを研究してくれたんですよ。随所にホップを使った料理でした。
藤原:こういった地元との連携は興味深いですね。ありがとうございました。
子どもたちが大喜び!収穫祭は…まるでキッザニア!
藤原:続いてはろまんちっく村ブルワリーさんの「子どもたちが大喜び!収穫祭は…まるでキッザニア!」です。
嶋田:はい、私たちは農業とビールに親しんでもらうことを目的とした収穫祭を開催しています。写真のとおり、収穫したホップの毬花を取り分けてもらうんですが、その毬花が2リットルジョッキ1杯になったらソフトクリームと交換できるようにしている。ジョッキ2杯でビール1杯と交換できるので、親子で楽しめます。
本間:収穫の忙しい時期にこういったゲーム性のある取り組みを行う場合、各所とのすり合わせを事前にしておかないといけないですね。非常におもしろい取り組みだと思います。
江上:私たちも収穫体験をやっていますが、このような工夫はしていないので参考になります。
藤原:子供はビールが飲めないですし、親子連れにはいいアイディアですね。
田村:子供も楽しめるというのは面白いですね。遠野は機械で収穫しているので同じようなことはできないですが、蔓下げなどのお手伝いに対してこういったことができるといいかも、と思いました。
藤原:非常におもしろい取り組みですね。ありがとうございました。
ふるさと納税で収益モデルを変える
藤原:続いては遠野の取り組みですね。田村さん、お願いします。
田村:はい、私たちはホップ栽培を持続可能にするための活動を行っているのですが、そのためには費用が必要になります。ただ、行政からは特定の作物に対してのみの補助はなかなかできないので、自分たちで費用を集めています。そのひとつがふるさと納税で、納税の際に「ビールの里プロジェクト」を指定していただければ、それが私たちの財源になります。
本間:ふるさと納税で集まった寄附をホップの予算として使わせてもらっているんですか。
田村:ふるさと納税で「ビールの里プロジェクト」を指定してくれた金額の半分がホップ関連の財源となります。入ってきた寄付額の30%が返礼品に使われる金額で、20%がポータルサイトなどの事務手数料、残りがプロジェクト財源。この財源をどう使うかを、弊社で提案しています。
藤原:どれくらいの財源が集まったんですか?
田村:2021年4月1日から現在までで、1,100件、2,300万円くらいです。このうちの半分くらいが財源として使えるので、このお金でホップ農業の課題解決を進めています。具体的には、2021年末に短期的な施策として、ワイヤーからつるす紐の半額を補助することにしました。紐が値上がりしているので、その費用を補助する制度を遠野市と作ったんです。あとは、手伝ってくれる大学生のコーディネート費用や土壌検査の費用も、ふるさと納税の財源を使っています。
田山:これは良い仕組みですね。市の協力があっての話だと思うので、行政と話をしていくことが大切だと思います。また、今後はホップの分析などの可能性も出てくるので、大学も加えて産官学の連携もできなくもないですね。こういったことが遠野モデルとして、広がっていくといいと思っています。
田村:それと、ふるさと納税とは別の軸で、2つ施策を始めています。ひとつは寄附付き商品で、ノンアルドリンクやホップソーセージなどのホップを使った商品を買うと、10円が寄付されるというもの。もうひとつは、後で紹介しますが、ビアツーリズムのブランド化です。そのツアーの一部、300円くらいが農業に還元される仕組みを作っています。
藤原:ホップソーセージは地元で作っているんですか? ふるさと納税だけで入手できるものなのでしょうか?
田村:地元で造っています。ふるさと納税だけでなく、店頭でも買えますね。地元の事業者がちゃんと潤いつつ、ホップ農業や他の農業も支援できる仕組みを造っています。ホップの供給先がビール以外にも広がっているということです。
藤原:つまり、ふるさと納税の取り組みを行うという以前に、地元としっかり連携しているということですね。ありがとうございました。
休耕地をホップ圃場に!150人を超えるボランティアが参加
藤原:続いての「休耕地をホップ圃場に!150人を超えるボランティアが参加」というテーマは、私市ホップファームの勝谷さんです。
勝谷:私は大阪府交野市で、私市ホップファームを運営しています。また、「交野おりひめ大学」という市民大学という形で交野市をフィールドにした活動もしています。2020年からホップ栽培に興味を持って、交野おりひめ大学でクラフトビール部を立ち上げ、2021年からホップ栽培を開始しています。
勝谷:こちらの写真は、ホップ栽培をする前の状態ですね。交野市は農業従事者の高齢化も進んでいて、休耕地が多いんです。駅からすぐ近くの場所でこういった田園風景が広がっているところもある。こういった場所を圃場にすることによって、たくさんの方に来てもらえるようにしようと栽培を開始しました。
勝谷:ホップ栽培には、交野おりひめ大学のメンバーや子供にも参加してもらっています。京阪電車とJRが通っていて、歩いていけるところに圃場を作りました。保育園児が散歩しているところでもあるので、保護者の方が圃場を見て、参加したいと連絡くれた人もいます。
電車からも栽培しているのが見えるんですよ。ホップ棚を設置したら、地元の人たちも気になって参加してもらえるようになりました。
藤原:参加しているのは、交野おりひめ大学のクラフトビール部の方々になるんですか?
勝谷:交野おりひめ大学以外の人も入れるようにしています。150人くらいですね。昨年は収穫祭も含めたら200名くらいの方が参加してくれました。地主さんからも、自分たちが管理していたときは人が来ることなかったが、これだけの人が自分の土地に来てくれるのは嬉しい、と言われました。涙出るくらい嬉しかったですね。
藤原:ろまんちっく村ブルワリーさんやHOP JAPANさんとも近い取り組みですね。ありがとうございました。
地域の方々と協力し都市型緑化活動を推進
藤原:次は籠屋ブルワリーさんですね。
江上:私たちは、狛江市で2015年から「狛江CSAle」という都市型の農業を作ろうという活動をしてきました。食材のくずをコンポストにして畑にまいて、そこで作った食材を地元で消費するといったこともやっています。地元でホップを作ることで、緑化や温暖化対策、コミュニティー作り、地産地消など、さまざまな問題にアプローチできると考えています。また、狛江市民と協力してホップを育てて、狛江のブルワリーでビールを造っていて、サポーターも増えてきていますね。
鈴木:都心なので集まりやすいという利点がありますね。そこでホップ栽培から醸造まで体験できるのがいい。
江上:ホップ栽培は3年目くらいで、約100株ほど栽培しています。
田山:この活動は狛江市が行っているんですか? きっかけはどういったことなんでしょう。
江上:狛江市が試験的に始めて2年で終わったのですが、それ引き継いだ活動です。今は市から独立して活動しています。
田山:この活動は、籠屋ブルワリーさんや和泉ブルワリーさんの力が大きいと思っています。いいビールを出口として造っているというところですね。単なる緑化といったことではなく、最終的にクオリティ高いビールまで保証されているので。入口から出口までうまくつながっていて、素晴らしいと思いました。
江上:クオリティは落とさないようにしないと、と思って活動していますね。この活動からファンになってくれる人もいるので。
本間:ホップ農業は、普通の野菜と違って収益まで確立されているものではないので、いろいろなやり方で収益化が図れるのはいいことだと思います。
藤原:コミュニティを作るためのツールとしてホップを使うことがありますが、農業やビールと乖離してしまうとよくないと思っています。すべてはホップの品質を上げることが目標。それを使っていいビールを造ることがミッションだと。ホップのクオリティを上げていって、本気で栽培している農家さんと情報交換したりして、コミュニティのホップが品質のいいものになったら最高ですよね。日本産ホップのクオリティは素晴らしいと認められて、おいしいビールができるということが目標だと思っています。ありがとうございました。
ビアツーリズムをブランド化へ JAPAN HOP COUNTRY構想とは
藤原:最後は遠野の「ビアツーリズムをブランド化へ JAPAN HOP COUNTRY構想とは」ですね。田村さんお願いします。
田村:遠野では、ホップの課題と地域の課題があって、それを解決するために、観光を起点として盛り上げられないかと考えて活動しています。そこで、ビアツーリズムを去年から拡張して行っているんです。ホップの魅力を伝えたいとか、ホップの課題に気づいてもらいたい、と考えると、やはり現地に来てもらうのが一番いいんですね。なので、いかに観光で多くの人に来てもらうかを考えて、ツアーをブラッシュアップしました。
藤原:具体的にはどのようにブラッシュアップしたんですか?
田村:去年国税庁が行っていた酒蔵ツーリズム推進事業を利用して整備しました。ツアーは3種類行っていて、ひとつはホップ畑でビールを飲むというツアーですね。それに加えて、サイクリングで遠野市をまわって農家民泊でビールを飲むツアー、遠野物語の舞台を巡って市内の店でビールを飲むツアーがあります。また、まずJAPAN HOP COUNTRYというブランドのウェブサイトも作りました。日本語版と英語版を造って、海外の人にも来てもらえるようにしています。
その中で気づいたのは、観光にフォーカスすると地域の人たちへの経済的インパクトが強いということ。宿泊や飲食など、巻き込む人たちが増えるんです。遠野市に対しては、これだけ巻き込む人も増えるのでホップ農業を守りましょうといえるようになってきています。
藤原:このツアーに参加する場合、遠野市までは電車で行くことになるんですか?
田村:電車で遠野まで来る方が多いですが、そこは工夫しています。遠野市内のブルワリーと岩手県内のブルワリーの両方をウェブサイトなどに掲載しているんです。例えば、東京から遠野までは遠いですが、途中の一関でビールを飲んで宿泊し、翌日遠野に行くということにすれば気持ちの面でも楽になります。岩手のブルワリーに行きたいという人を獲得しながら、最後はホップ産地の遠野にどうぞ、という形にしています。
藤原:遠野には十分な宿泊場所はあるんですか?
田村:宿泊のキャパは問題になりました。ビジネスホテルは2軒しかなくて、民宿はいっぱいあるんです。それを解決するために、農家民泊のノウハウを持っている人を巻き込んみました。農家民泊を入れるとキャパは大きくなります。
藤原:ツアーの現地での移動は何を使うんですか?
田村:ツアーによって異なります。たくさんビールを飲むようなツアーは貸し切りタクシーです。サイクリングのツアーでは自転車でホップ畑などをまわって、農家民泊でビールを飲むという形ですね。
藤原:今後はどう展開していく予定ですか?
田村:去年テストツアーを開催して、実際に販売するのは今年から。目標はまだ決めていませんが、以前遠野のBEER EXPERIENCE株式会社が開催していたツアーで年間1,000人弱の参加者なので、いずれは1万人、2万人くらいにしたいですね。ツアーに参加する以外にも、ホップ畑やおすすめスポットなどをマッピングしているマップがあるので、自転車を借りてまわることもできます。自転車でホップ畑で農家民泊は本当に楽しいですよ。
藤原:ありがとうございました。今後の展開を楽しみにしています。
ホップ栽培の取り組みが広がってきている
ホップセミナー2022春は、趣向を変えて成功事例を共有するという形で開催しました。どれも中身の濃いプレゼンで、ホップ栽培などに参考になる情報が多く出てきたと思います。これも、全国でホップ栽培に関する取り組みが広がってきたからこそ。
これらの取り組みを参考に、グロワーの方々はいいホップを作り、ブルワーの方々はいいビールを造ることで、日本産ホップの魅力が広がっていけばと思います。
次回のホップセミナー2022夏は6月10日(金)15時から開催します。ブルワリー向けのコンテンツを検討していますので、ご期待ください。