観光資源としてのホップ活用方法とは?日本産ホップセミナー2024春開催!
2023年3月22日、12回目となる「日本産ホップセミナー2024春」が開催されました。今回のテーマは「ベテラン農家さんに聞く栽培法」と「観光資源としてのホップ活用法」です。
今回のコンテンツと出席者は下記のとおりです。
第1部 ホップを作って半世紀以上!槌谷謙滋郎氏に学ぶ栽培法~ホップ栽培8年の藤原ヒロユキから10の質問~
・槌谷謙滋郎(山形県南ホップ農業協同組合)
・藤原ヒロユキ(京都与謝野ホップ生産者組合)
第2部 ホップトーーク!
栽培基盤の強化策編
・田村淳一(BrewGood)
観光資源としての活用策
・佐藤太一、渡辺雄基(天童ブルワリー)
・田村淳一(BrewGood)
・本間誠(HOP JAPAN)
進行
・田山智広(スプリングバレーブルワリー マスターブリュワー)
第1部 ホップを作って半世紀以上!槌谷謙滋郎氏に学ぶ栽培法~ホップ栽培8年の藤原ヒロユキから10の質問~
藤原:槌谷さんは15歳くらいからホップ栽培に関わってらっしゃったとうかがいました。
槌谷:私が小学校に入る前の年からホップ栽培を手伝った覚えがあります。いま76歳ですが、ずっとホップの香りを嗅ぎながら育ってきたんですよ。実際にホップ栽培を始めたのは19歳くらいですね。今はIBUKIを栽培しています。
藤原:槌谷さんにホップ栽培に関する10の質問についてうかがっていきたいのですが、まずは、槌谷さんがホップ栽培を始めた頃の様子を教えてください。
槌谷:山形県上山市にホップが入ってきたのが1939(昭和14)年で、山形県白鷹町に入ってきたのは10年遅れの1949(昭和24)年です。当時はどれくらいのホップ農家がいたか覚えていませんが、1ヘクタールほどだったと言われています。
藤原:主な産業はホップだったんですか?
槌谷:あの頃は養蚕が盛んでした。養蚕をやめた方がホップを始めるようになっていましたね。
藤原:当時は何人くらいがホップに関わっていたかご記憶ありますか?
槌谷:置賜地域(山形県南部。米沢市など8市町)では100〜150人くらいだと聞いてました。その頃は活気がありましたね。昭和25年に置賜の組合が発足した覚えがあります。
藤原:収量はどれくらいでしたか?
槌谷:文献によると、アメリカからファグル種でキリン3号というホップをキリン2号に改良して普及していったということですが、収量はわからないですね。
藤原:不躾な質問になるかもしれませんが、その頃の年収はどれくらいだったのでしょう。
槌谷:1979(昭和54)年の記録では、乾燥状態のホップ1kg単価2,200円で買い取られていたようです。反収(1アール)が175kg程度だったので、10反(10アール)栽培していたとしたら、約385万円の収入ですね。
藤原:ホップ農家が減っていったのはいつ頃からなのでしょうか。
槌谷:1996(平成8)年に、村山地域(山形県中央部。山形市、寒河江市、上山市、村山市、天童市など14市町)と置賜地域のホップ組合が合併しているんですよ。その頃から減っていったという記憶があります。減った理由としては、ホップは収益としては他の作物より悪いわけではないんですが、やはり高所作業といったところがネックになっていて、平地の水田などよりも大変だということで、水稲など他の作物に移っていきました。
藤原:槌谷さん自身がホップ栽培を続けたモチベーションはどんなところにあったのですか?
槌谷:必要経費がほかよりもかからないということもありました。採算が合う値段だったというのもあります。ただ、私は長年ホップを栽培していて、自分のホップをビールにしてみたいという夢もあったんです。
藤原:現在では、白鷹町で何軒くらいホップ農家が残っているのでしょうか?
槌谷:ホップ農家は6軒ですね。収量は昔のほうが多かったと思います。資料を見ればわかると思いますが、温暖化が進んだことが原因なのかなと。花はできるけど実は軽いんです。
田山:温暖化との因果関係はわからないですが、改植しないで使い続けている影響はないでしょうか?若い株と20年以上経った株では同じではないような気がします。
槌谷:そのとおりだと思います。ホップはいつまでも栽培できるんですが、新しい株のほうが重量はあります。ただ、改植はやっているんです。また、1株から何本成長させるかによって寿命も変わるという印象です。
藤原:槌谷さんの圃場はどれくらいの広さですか?
槌谷:いまは2ヵ所で20アールと60アールで合計80アールです。株は10アールあたり200株くらいですね。収量は10アールあたり、乾燥状態で150〜170kgくらいですが、徐々に収量が落ちてきています。夏日が続くと花弁の暑さが薄く、花柱が細くなっていってますね。
藤原:具体的に、栽培方法などを変えたり、工夫したりしていることはあるのでしょうか?
槌谷:雨が少ないので、地上に水を流してできるだけ努力していますが、できる圃場とできない圃場もあります。
藤原:以前は水をやらなくても大丈夫だったんですか。
槌谷:以前は雨が結構降ったんですけど、今はほとんど恵みの雨がなくなってしまいました。
藤原:与謝野も自然の雨だけだったんですが、去年くらいから水あげないとダメだという感じになってきたんですよね。山形でも同様だということですね。
槌谷:水をあげる効果はあると確信しています。ドローンを使って水をかけるといったことも必要かなと。水はけが悪いところは根腐れが起きてしまいますので。「ホップは水でとれ」という言い伝えがあるくらいですが、どういう土壌でどれくらい水をあげればいいかという判断は難しいですね。
藤原:栽培で心がけているのはどういったことでしょう?
槌谷:残留農薬を出さないことですね。基準を満たした農薬を使うこと。そして、水をあげて収量を上げることです。
藤原:槌谷さん自身のホップを使ったビールを飲んだという話をうかがったんですが、いかがでしたか?
槌谷:ホップジャパンさんと一緒に栽培していたカスケードを、天童ブルワリーさんで使っていただきました。醸造したビールを飲んだら、その品種だけで作ったビールだと感じられて、おいしいと思いました。これがカスケードなんだということがわかったというか。口の中にホップの香りが残るんですね。それがまた感激しました。
田山:7、8年前ということですが、カスケードを買って育てはじめたときは、それでビールを醸造するあてがなかったと思いますが、それでも育てたところに思いがこもっているなと思いました。育てても使い道がなかったらどうしようかという不安はなかったんですか。
槌谷:そこはホップジャパンさんが引き取るという話があったので、大丈夫でした。
藤原:カスケードはどれくらい育てているんですか?
槌谷:60株くらいですね。反収はあまり変わらないですが、日本のホップにはない香りなので、飲んでいる人も喜ぶんじゃないかなと思いますね。
藤原:これからホップ栽培を始めようとする人に伝えておきたいことがあれば、アドバイスをいただけますか。
槌谷:趣味で作るのか経済を考えて作るのか、ということですね。経済を考えるのであれば、どの方と取引するのかを考えるのが出発点だと思います。ホップを栽培する前からつながりを持っておくことが大切。顔が見える商品ということで、ホップで地域を盛り上げたりできるということは楽しいことですね。
藤原:最後に、日本産ホップについて、お伝えしておきたいことがあればうかがいたいと思います。
槌谷:日本産ホップについては長年人生かけて栽培してきましたが、ホップはビールの魂でもあるし、今後もホップ栽培をしつづけるのであれば、メーカー(醸造所)と一体となった考え方を持って進める必要があると思います。
田山:槌谷さんが携わった歴史を感じられて、ホップに対する愛情を持ち続けているということで、槌谷さんのような方たちに支えられてきたんだということがわかって、良い時間になりました。
藤原:貴重なお話をありがとうございました。
第2部 ホップトーーク!
第2部のテーマは「栽培基盤の強化策」と「観光資源としての活用策」の2つです。岩手県遠野市と山形県、福島県の事例について話をうかがいました。
栽培基盤の強化策編
田村:遠野市は昨年ホップ栽培60周年を迎えて、ホップ関係者がモチベーション高くやっているという状況ですね。60周年をきっかけに、これまで準備していたことが進んできた一方で、全国的にも収量が下がって心配していたんですが、農家の方々は前向きな議論を進めています。
田村:基盤を整備するには、やはり乾燥施設が重要になります。遠野の乾燥施設はもうすぐ50年ということでかなり老朽化し、ふるさと納税の制度を使って改修資金を集めています。寄附金をビールの里プロジェクトに使うという指定をしていただくと、ホップ栽培の財源に使えるということで、現在では寄附金も累計1億5000万円近くまでたまってきていて、この半額が実際の財源として使えます。
私たちは以前から、メディアや自分たちで情報発信をしたり、パンフレットやDMを送ったりしていまして、遠野市全体の寄附額も上げつつ、ホップについての寄附額も上げているという状況です。
田村:乾燥施設の改修については、2023年度に第一期工事で2400万円かかったのですが、これは全部寄附金で賄っています。この他、圃場の土壌検査をして土壌改良のための肥料購入の補助制度を作ったり、収穫祭の運営や新規就農者の獲得とか、支援いただいたお金をどんどん栽培現場に投資していきながら、経済的に自立できるような栽培モデルをいましっかり造っている段階です。こういったことが、去年くらから一気に動き始めているような状況ですね。
田山:ふるさと納税の件数は約2,000件、つまり寄附者も2,000人くらいということですか?
田村:1人で何回か寄附していただいている方もいますが、だいたい2000人くらいですね。今年の着地は5,800万円くらいになりそうです。
田山:ということは、1人2万〜3万円寄附しているということですね。2,000人くらいまでもっていくのに5年かかっていると。
田村:ただ、私たちのプロジェクトだけで寄附金が集まっているわけではありません。遠野市全体でも、2019年の寄附金は6,000万円だったのが、今年は4億円くらいまで増えています。全体がちゃんと増えている中で、私たちのプロジェクトも増えているという状況ですね。
田山:ホップのプロジェクトによって、全体の引き上げにもつながっているのでしょうか。
田村:もちろんすべてではないですが、一部にはその影響もあるかなと思います。私たちも、メディアに出るときには遠野市のふるさと納税をアピールしていますし、遠野市のふるさと納税のウェブサイト改修や商品開発にも携わっていまして、市内の関係企業の皆さんと一緒に活動しています。
田村:さらに、現在では体制が整ってきたので、農家を増やそうというフェーズになってきました。この春から新規就農者を3名採用しています。遠野では毎年最低2人採用できれば、ホップ農家全体の人数は減らないという試算なので、最低でも2人採用しようという計画で進めています。就農ガイドを作ったり、ブランディング事業を進めたり、といったことを進めている状況です。
田山:新規就農者の定着度合いはどうでしょう?
田村:私が着任してからは残っていますね。受け入れ体制が整っていなかった10年くらい前に入ってきた若手農家の一部は離農してしまったのですが、失敗を経て、ミスマッチをなくすとか、フォロー体制を強化したりしています。
観光資源としての活用策
佐藤:私たちは、天童温泉で「湯坊いちらく」という温泉旅館を営んでおります。特徴としては旅館の館内に1999年創業の天童ブルワリーという醸造設備があります。旅館自体は70年の歴史があるんですが、天童温泉自体が温泉地としては新しく、今年で112周年です。昭和の高度成長期やバブル期に団体旅行で盛り上がって大きくなった温泉地です。
佐藤:そういった背景もあって、コロナ前までは団体旅行が主流でしたが、コロナ禍によって団体旅行はもう見込めないだとろうということで、マイクロツーリズムという2時間圏内で移動できる地域の個人に特化したサービスに踏み切りました。
佐藤:宿泊料金はオールインクルーシブという仕組みで、宿泊料金にすべてのサービスが含まれているという形態です。ビアテラスや夕食会場などあらゆるところで出来立てのクラフトビールを存分に楽しんでいただくというシステムで、いまはほぼ100%が個人のお客様となっています。
佐藤:温泉旅館はリピーターが少ない業態ですが、現在ではオールインクルーシブとクラフトビールの効果で約4割に近いリピーター率にまで上がってきました。クラフトビールのおかげでコロナ禍のピンチをチャンスに変えられたのではないかと思っています。
佐藤:クラフトビールに注力していこうということで、天童や山形の50代、60代の方とお話をしていると、昔はここにもホップ畑があったとか、昔は3,000人近いホップ農家がいて今は30人くらいに減ってしまっているとか、そういったことを聞くようになりました。そこで、なんとかそれに光を当てて広めていきたいと思ったんですが、なかなかつながりがなかったのです。そんなときに2021年に槌谷さんをご紹介いただいて、槌谷さんのホップで実験的にビールを造ってみたところ、非常に感動していただけました。
佐藤:2023年には観光庁の補助事業に採択してもらったことで、収穫ツアーを実施しました。朝収穫したホップをその日のうちにビール造りに使い、その過程をメディアやインフルエンサーの方に見てもらったのです。その1ヵ月半後には、オクトーバーフェストとしてキックオフパーティーを行いました。
渡辺:収穫ツアーでは7月と8月に2種類のフレッシュホップビールを造りました。2種類のラガーとエールを同じカスケードで造り、飲み比べができるようにしたのですが、好評だったのでこれは続けていきたいと思っています。
田山:温泉とビールは鉄板ですが、そこにホップと結びついた例はいままでなかったのではないかと思います。これは槌谷さんとの出会いが大きかったんじゃないでしょうか。現在では、リピーターの方は近場の方が多いんでしょうか?
佐藤:オールインクルーシブを始めた当初は、近隣をターゲットとしていたので、コロナ禍では8割くらいが近隣の方でしたね。今は近隣の方は6割くらいで、インバウンドや都内の方が増えてきています。
田山:生ホップを使ったときには、過去のホップセミナーも参考にされたとうかがっています。
渡辺:そうですね。フレッシュホップをどう使ったらいいか検討もつかないなかで、記事と動画を参考にさせていただいて助かりました。
田村:遠野もビアツーリズムを以前からやっていて、昨年新しい動きがありました。遠野市の観光戦略として、他の地域と差別化できるということで、カッパとビールをエントリーテーマとして集客を図っていくということが決まりました。ツーリズム自体は民間事業者だけでやっていたんですが、行政と一緒に広めていくことができるようになっていったというのが最近の状況です。
田山:カッパが加わることで相乗効果はあるんでしょうか。
田村:ターゲットが別々なんです。カッパはファミリーや知的シニア層、ホップとビールは30代と40代という棲み分けになっています。ホップ栽培が観光資源となると保護しないといけないので、観光資源化することでまわりまわって農業の支援策にもつながっていく可能性があると思っています。
田村:新品種ホップの開発状況としては、3、4年くらい前から民間でホップ開発をしています。村上博士に協力していただいて、昨年は2つの品種をリリースしました。
田村:新品種ホップは、現在、収穫量を増やす段階です。これらの新品種のホップを使ったり研究したりするブルワリーを計画中で、早ければ来年の春に開業になります。
本間:ホップを使った蜂蜜酒(ミード)を提供ということですが、当社の理念として、原料から産業すべてを循環させるということがありまして、ビールだけでなくミードも造りたいと思っていました。ブルワリーの敷地に赤そばを植えていて、これまでは観光客が見るだけだったのですが、これも循環のコンテンツとして取り入れたいと思って、養蜂もはじめたのです。
本間:私が箱ひとつからはじめて、素人なので蜂にもさされたりしたんですが、助けてくれる人も出てきて、今は専門家の方と一緒に30箱くらいできるようになっています。その蜂蜜を使ってミードを造りました。ホップも入れたので、はちみつとホップの香りの組み合わせを味わっていただければ。「Allez hop(アレホップ)」という名前(フランス語で「さあいこう」という意味)で、3月27日発売予定です。
本間:ホップを変えたり、麦を入れたりと展開を反応見てやっていきたいと思っています。しっかり発酵していて甘さはなく、香りがすごくおもしろいので、ぜひ味わっていただければ。
佐藤:関係構築ということですと、ホップ畑を観光地にするということ自体に労力がかかりました。オクトーバーフェストの開催もシルバーウィークだったので、宿も忙しいところに通常とは違うオペレーションを組んでいたのです。また、フレッシュホップビールも通常のビールよりも手間とコストがかかるので、商売ということで見るとうまみはあまりありません。
佐藤:しかし、槌谷さんのホップ愛やフレッシュホップビールを飲んでいただいたときの感動があり、そこから醸造家、スタッフへと思いがつながっていって、すごくピースな雰囲気で楽しい時間だったという声が多くありました。機能的な価値よりも情緒的な部分で伝わって、取り組みが広がったことがよかったのかなと思います。
佐藤:また、山形県内には7つのブルワリーがありまして、山形県として面となってブランディングしていきたいと思い、4月23日に山形県クラフトビール普及協会の設立を発表することになりました。イベント情報を共有したり、相互に工場見学をしたり、プロモーションなども面となって連携できるようにしたいと思っています。槌谷さんのホップにも興味を持っているブルワーさんもいるので、徐々に広がっていけばいいなと思います。
田村:こういった観光プロジェクトをやっていくと、地域の関係者や応援者が増えていくんです。それがホップ栽培を増やしていくことにもつながるのかなと思いました。また、一般的な農家もカッコいいんですが、ビールが好きな方にとってホップ農家は憧れの存在になってほしいと思っているんです。こういったことはホップ農家がいないと成り立たないので、ホップ農家が増えるとか栽培現場を盛り上げるというアウトプットにつなげると、持続的になるのかなと思っています。
佐藤:具体的に支援する仕組みが遠野でできていることに感動しましたし、山形でも下地づくりを時間かけてやっていかないといけないということを学ばせていただきました。ありがとうございました。
2024年の日本産ホップビールとその取り組みに期待!
今回は、ベテランホップ農家の栽培方法と観光資源としてのホップの活用法について、事例を紹介していただきました。次回は、2024年6月28日(金)に醸造家向けの日本産ホップセミナー2024夏を開催予定です。2024年の日本産ホップを使ったビールとその取り組みがいまから楽しみです!