
ブルワリーと飲食店のおいしい関係とは?日本産ホップセミナー2023夏開催!
2023年6月30日、11回目となる「日本産ホップセミナー2023夏」が開催されました。今回のテーマは「成功事例から見るブルワリーと飲食店のおいしい関係」です。第1部はブルワリーと飲食店が行っている取り組みの成功事例についてのディスカッション、第2部はヤッホーブルーイングが行っているフレッシュホップ水蒸気蒸留を紹介。
今回のコンテンツと出席者は下記のとおりです。
第1部 成功事例から見るブルワリーと飲食店のおいしい関係
・鍵谷百代/ロコビア
・秋谷英二郎/地産地消 cafe&bar CLUSTER
・本間誠/ホップガーデンブルワリー
・西塚晃久/麦酒屋るぷりん
第2部 フレッシュホップ水蒸気蒸留
・ピーピー/ヤッホーブルーイング
・もーりー/ヤッホーブルーイング
・高木千歩/妻有ブルワリー
・江上裕士/籠屋ブルワリー
・辻峻太郎/スプリングバレーブルワリー
進行
・田山智広/スプリングバレーブルワリー マスターブリュワー
・藤原ヒロユキ/京都与謝野ホップ生産者組合
第1部 成功事例から見るブルワリーと飲食店のおいしい関係
第1部は、ロコビアの鍵谷百代さんと地産地消 cafe&bar CLUSTERの秋谷英二郎さん、そして、ホップガーデンブルワリーの本間誠さんと麦酒屋るぷりんの西塚晃久さんにお話をうかがいました。
地産地消 cafe&bar CLUSTERの秋谷英二郎とロコビアの鍵谷百代さんのおいしい関係
鍵谷:CLUSTERは地産地消の料理のお店でロコビアもたくさん出してもらっています。秋谷さんはこだわりを持っている人でその人にロコビアを出してもらっているのはすごくありがたいです。
秋谷:他店のイベントでロコビアさんのビールを飲んで非常においしかったので、すぐ出させてもらいました。近いからこそいろいろ質問できるというのもいいところですね。対等に仲良くさせていただいてます。
田山:IBUKIの凍結生ホップを使って「息吹の生」というビールをずいぶん前から造ってもらっているんですが、それを生で飲める店ということでCLUSTERさんに毎年飲みに行っています。これを楽しみにしているお客さんも多いのではないかと思います。
藤原:「地元産のビールだから売るのではなくおいしいから売る!」「本当の意味での地産地消とは!?」が気になりました。地元だからなんでもいいということでもないので、そこに興味があります。
秋谷:一番大事なのはいいもの、おいしいもの。お店のコンセプトも必要なので、地産地消としていますが、そこにこだわりすぎないようにもしています。造っている人の顔が見えるということも大切。初めて来た人とかにもわかるように、千葉県のものとか地産地消のものがわかるように印をつけたりしています。
田山:お店で初めてフレッシュホップビールを飲む方もいらっしゃるわけですよね。感想とか聞いたことはありますか?
秋谷:フレッシュホップビールの味について、なかなか表現しづらいっていうのはあると思うんですよ。「おいしいです」っていうだけの方も多いんですけど、やっぱりフレッシュ感があるということを聞くことは多いですね。
藤原:鍵谷さんのフレッシュホップの香りの感動が忘れられないっていう話を聞きました。重量で通常の8倍多く入れるのはすごいですが、苦味が8倍ってことではないですよね。
鍵谷:試してみて8倍くらいがいいと思いました。そんなにすごく苦くなるわけでもなくバランスはとてもいいかなと思っています。
藤原:その5分の1をCLUSTERが買い占めているって感じですよね?
秋谷:本当はもっと欲しいんですけど(笑)
鍵谷:タイミングをずらして造りたいとは思っていたんですが、冷凍されたホップなので、受け入れるスペースの問題もあるんです。時期をずらしていただけるとありがたいですね。
藤原:お店ではどういったビールのストーリーを話しているんですか?
秋谷:ビールは夏おいしいっていうだけでなく、その時期にホップができて秋にビールができるということを伝えるとかという説明ですね。フレッシュホップについては、メニューに少し書いているだけで、宣伝的な感じにはしていません。リピーターの方も多いので。1人でトータル20リットルくらい飲んでいる方もいるくらい。
鍵谷:その方にお会いしたこともあって、そのときは感激しましたね。
田山:毎年違うスタイルを造るブルワリーもあって、それはそれで楽しいんですが、ロコビアさんは毎年このビールを出していることがいいですね。一年に一回の楽しみという感じで。
秋谷:店ではゲストビールもあるんですが、常設のビールをある程度出していて、いつ行ってもあのビールがあるという感じにはしています。新しいものや流行っているものに飛びつきたいときもあるんですが、継続が大切だなと思っていますね。
鍵谷:「息吹の生」は秋谷さんが売っていただける限り造っていきたいと思っていますし、ホップが素晴らしいので伝わるはずだと思っています。未来に向けて量を増やしていきたいと思います。
ホップガーデンブルワリーの本間誠さんと麦酒屋るぷりんの西塚晃久さん
本間:西塚さんは麦酒屋るぷりんを経営してまして、こだわりの人ですね。ホップシロップだけでなく、いろいろこだわって作っていらっしゃいます。
西塚:本間さんがお店に来ていただいたときが最初の出会いです。基本的には国産のものを使っていて、ホップを作っているブルワリーに興味を持ちはじめ、本間さんのホップシロップを使わせてもらったりもしています。また、本間さんとごくシンパシーを感じてしまったんですが、自己実現でお店をやるよりもお店が世の中のためになれるんじゃないかと思っていて、それを本間さんも同じようなことをおっしゃっていたんです。そこにすごく共感しています。
藤原:ホップシロップを炭酸で割って飲んでみたんですがおいしいですね。柑橘も入ってるんですか?
西塚:レモンのシロップにホップを加えています。ウイスキーにも合うんですが、麦のお酒にホップは合うだろうと思っていますし、ハイボールとレモンの相性もいいですからね。
藤原:ホップシロップを作るにはやはり生ホップがいいんですか?
西塚:乾燥ホップも試したことがあるんですが、どうしても生ホップの青い爽やかな香りが表現できなかったんです。乾燥ホップは乾燥ホップに適した使い方があると思いますが、ホップシロップには生ホップがいいですね。
藤原:ホップシロップの作り方は秘伝なんですか?
西塚:そんなことはないですよ。そんな難しいことはしていません。グラニュー糖と水を熱してガムシロップのような状態にして、沸いているところにレモンスライスを入れて一晩寝かせます。そうするとレモンの酸味がそこまで出ずに香りと色だけきれいに出るんです。それをさらに80度くらいに熱したところに生ホップを入れて、火を止めてまた一晩寝かせるという工程で作っています。
田山:その80度というのが絶妙な温度で、煮立ったところにホップを入れると香りも飛んで、苦味も出てきてしまうと思います。でも80度だと苦味も表に出てこなくていい仕上がりになりますね。
藤原:ホップの品種で変わりますか?
西塚:品種によって仕上がりが違いますね。そこは研究中です。
田山:本間さんのところもいろいろな品種を作っているので試せますね。
本間:今年はさらにいろいろ試してみたいなと。
藤原:持続可能な農業のバックアップができる商品は、生産者としてはありがたいですね。
田山:日本産だからこそのおいしさを追求したビールについても、我々は可能性があると思っているんですが、ホップシロップもぜひアピールしてもらいたいなと思いました。
第2部 フレッシュホップ水蒸気蒸留
第2部はまず、2023年6月17日にヤッホーブルーイングで行われたホップ水蒸気蒸留見学会の動画を視聴。ヤッホーブルーイングのピーピーさんやもーりーさんなどが、さまざまな質問に答えていきました。
ホップ水蒸気蒸留見学会のレポートは下記の記事をご覧ください。
ホップの水蒸気蒸留とは?ヤッホーブルーイングのホップ活用方法を紹介
ホップ水蒸気蒸留見学会の動画は下記をご覧ください。
ここでは、フレッシュホップ水蒸気蒸留の動画視聴の際に出た質問・回答について紹介していきます。
この蒸留器はどこで買える?
Amazonで買いました。これは70リットルで8万円ちょっと。20リットルの小さめの蒸留器だと2万円くらいです。
香りをかいだ感想は?
江上:最初と真ん中、最後の香りが変わっていくのがおもしろい発見でした。スタートの青い香りからフルーティーな香りになって、どんどん最後は香りがなくなっていく感じ。いい香りのところをとれるのがいいなと思いました。
高木:生ホップだったこともあるのか、非常にグリーンの青い香りが印象的でした。
辻:ホップ畑にいるようなそんな香りを最初に感じました。ホップそのものをかいだときの香りともやや違いますし、研究しがいあるなと思いました。
藤原:ホップ畑で摘んでいるときを思い出すようなフレッシュな感じがありますね。グリーンな印象があってすごいなと思いました。
水蒸気蒸留の社内での評価は?
鼻から感じるアロマだけでなく、口にビールを含んだときに鼻から抜けるアロマも増す感じがあり、おもしろいニュアンスが感じられるという話をよく聞きます。
芳香水はどれくらいの量を使うのが適正?
私が目指したいビールの香味としてはだいたい0.7%。1リットルに対して7ミリリットル。それ以上になると作られた香りという印象です。品種や好みにもよりますが、それくらいが目安だと考えています。
冷凍と半解凍だと使い方は異なる?
冷凍のほうが抽出効率が少し悪かったかなと思います。凍って固まっていると、ホップがないところも蒸気が通っていってしまうので。半解凍だと蒸気がまんべんなくホップにあたるようになります。
液体にホップを漬け込んでから蒸留する方法もあるが、今回のような方法にしている理由は?
コゲ回避のためです。一度液体にペレットホップを漬け込んで蒸留したところ、すぐにコゲついて十分に蒸留水を回収できなかったので、このような手法で蒸留しています。試していないのでわからないのですが、フレッシュホップだとまた違った結果になるのかもしれません。
ホップの品種による違いはある?
今回初めてビタリングホップで行いました。普段は華やかな香りのホップを使うんですが、今回は草っぽい感じが出ておもしろかったです。
芳香水はどうやって保存する?
エバケーションして容器に保存すると3日目までは品質が落ちませんでした。4日目からはだんだん酸化したような香りが出てきました。酸素をうまく抜いて保存できれば、もう少し長く保存できるかもしれません。凍らせてみたことはないのでやってみたいですが、長く保存できると思います。
エバケーションとは?
二酸化炭素で容器内を置換することです。
実際に蒸留水を用いた製品は?
ヤッホーブルーイングでは「山の上ニューイ」に使用しています。
この方法をやってみようと思ったきっかけは?
山の上ニューイを開発する際に、古きよきものに新しいエッセンスを加える「モダナイズ」を大切にしており、そのなかで長野・山梨に古くからある信州早生とかいこがねを使用し、新しいエッセンスとして水蒸気蒸留をしてみるのはどうか、また、その手法をとることであまり数量が手に入らない日本産ホップを有効に使えるのではないか、ホップロスも起こらないのでSDGs的にもいいのでは…と思ったことがきっかけです。フレッシュホップの「使いづらさ(ハンドリング、微生物、独特の強い香り)」、地元の作物(ホップ)を何か現代的な手法で使えないか、などの点で色々とアイディアを考えました。
この方法を取り入れることによって、製造面・原料調達面・味わいの広がりなど、明確な効果は?
製造面では、ハンドリング、微生物、香味の面で大きな改善ができました。調達面でも比較的タイトだったフレッシュホップの仕込みスケジュールに、余裕を作れたりと基本的には良いことづくめだと思っています。
添加するのは発酵終了後のビール?
どのような香りを出すかによってタイミングを変えればいいと思いますが、タイミングによってビールか発泡酒かが変わるので、そこはしっかり確認が必要です。今までは貯酒で入れていたんですが、二次発酵のほうがフルーティーで複雑な香りになって、社内での評価はよかったです。
2023年のフレッシュホップビールに期待!
今回のホップセミナー2023夏は、ブルワリーと飲食店の関係について成功事例とフレッシュホップ水蒸気蒸留を紹介しました。今回のコンテンツをふまえて、水蒸気蒸留の芳香水を使ったビールが造られ、飲食店で提供されていくこともあるかもしれません。2023年の日本産ホップビールやフレッシュホップビールに期待しましょう!