ホップ由来の香りを制御するには?日本産ホップセミナー2024夏開催!
2024年6月28日(金)、13回目となる「日本産ホップセミナー2024夏」が開催されました。今回は、第1部でホップの香気成分にまつわる最新の研究についてキリンホールディングスの加野智慎さんに解説いただき、第2部では新しいビアスタイル醸造に向けての課題や疑問について、ブルワーが語り合いました。
今回のコンテンツと出席者は下記のとおりです。
第1部 キーノート
・加野智慎(キリンホールディングスR&D本部 飲料未来研究所)
第2部 ブルワーズミーティング
・荒井昭一(南横浜ビール研究所)
・片岡紗羅(ヤッホーブルーイング)
・加野智慎(キリンホールディングス)
・住友正伯(JouZo BEER BASE)
・武石翔平(ホップガーデンブルワリー)
・辻峻太郎(SVB)
・藤原ヒロユキ(日本ビアジャーナリスト協会)
・森田正文(ヤッホーブルーイング)
・米澤美里(NAMACHAん Brewing)
進行
・田山智広(スプリングバレーブルワリー マスターブリュワー)
第1部 キーノート
第1部のキーノートでは、キリンホールディングスR&D本部 飲料未来研究所の加野智慎さんに、「ホップ由来香気成分とその制御」というタイトルで、ホップの香気成分の研究について解説していただきました。ここでは、その内容をまとめて解説記事として掲載します。
まず、全世界でのホップの栽培状況について紹介します。全世界でのホップの栽培面積は、2013年頃から上昇傾向になっており、近年は横ばいという状況です。収穫量については、増加傾向にあるものの、2022年は収穫量が大きく下がっています。これは、2022年6月から8月の平均気温が例年よりも1.5度高かったことが原因で、栽培地域・品種によっては、収量20%減、α酸含有量30%減という大不作の年となってしまいました。温暖化の影響で気温が高くなっており、ホップの栽培においても、温暖化はホットなトピックといえるでしょう。
また、全世界の作付面積でそれぞれ30%以上を占めるのはドイツとアメリカです。その上位10位の栽培品種についても紹介しておきます。ドイツは、ヘラクレス、マグナムのビタリング品種が多めで、品種の移り変わりはあまりありません。一方、アメリカは、シトラ、カスケードなどが多く栽培されており、最近はシトラとモザイクが伸びています。2023年はホップ価格が高くなっていて、生産量は減少傾向です。
続いて、今回のメイントピックである香り成分の話をする前に、ホップの組成についても紹介しておきます。ホップの毬花は、主にルプリンと苞(ほう)に分けることができ、さらにルプリンは樹脂と精油からなります。その精油成分は、炭化水素、含酸素化合物、含硫黄化合物のグループに分けることができ、それを一覧で示したものが下記の表です。
ホップに含まれる香り成分はさまざまな種類があって、制御は難しいということをまず認識していただければと思います。代表的な成分は何か、その成分がどう働くのかを理解することが、香りを制御するための近道になるのではないでしょうか。
分類 | 成分のグループ | 成分の例 | 特徴 |
炭化水素 | モノテルペン | ミルセン、リモネン、α/β-ピネン |
揮発性が非常に高い(疎水性)・ドライホップにより顕著にビールに付与可能
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セスキテルペン | β-カリオフィレン、フムレン、ファルネセン |
揮発性が高い・ビールへの移行はドライホップが有効
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含酸素化合物 | モノテルペンアルコール | リナロール、ゲラニオール、シトラール、α-テルピネオール |
揮発性は比較的低い・ホットサイド(ケトル、レイト)での添加でも閾値に達する
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アルデヒド、ケトン | ヘキセナール、β-ダマセノン |
揮発性が高い・ビールへの移行はドライホップが有効
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エステル | メチル-、プロピル-、ブチル-エステル |
揮発性は比較的低い・ホットサイド(ケトル、レイト)での添加でも閾値に達する
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含硫黄化合物 | 含S化合物(チオール) | 3MH、4MMP |
ホップ中の含量は低いが、閾値が低くpptレベルで検知される
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これらの成分の挙動を覚えておくと、ビール造りにも役立ちます。炭化水素は揮発性が高いという特徴があり、含酸素化合物は比較的揮発性が低く、ビールの味わいに残りやすいものです。含硫黄化合物は、最近注目が高まっていますが、閾値が低いので、少量入っているだけでしっかり香りを捉えることができます。
なお、今回はビール醸造で一般的な製法(ドライホッピングなど)の話をしますが、実際の醸造にあたっては、日本の酒税法をしっかり確認していたければと思います。
ホップ由来香気成分の制御
ホップ由来香気成分を制御するためには、この3つのかけ合わせを考えるとよいと思います。
品種(栽培条件)×加工形態×添加方法・タイミング
品種によって当然香りの印象は変わりますし、栽培条件によっても変わります。また、ホップの加工形態もペレットや生ホップなどいろいろあり、成分を選択的に選ぶこともできるので、その形態を選びます。それを醸造工程のどこで使うかということも重要なポイントです。
続いて、それぞれの香気制御について確認していきます。
品種選択による香気制御
品種選択による香気制御を考える際には、ホップサプライヤーのウェブサイトに品種の成分分析データが掲載されているので、それを参考にするといいでしょう。どのような成分がどれだけ含まれているかを確認して、例えばゲラニオールの香りを強くしたいのであれば、ゲラニオールが強い品種を使うという選択になります。選ぶときには、他の品種の成分と見比べることをおすすめします。
ホップサプライヤーのウェブサイトは下記のとおりです。
加工形態による香気制御
皆さんは、Type90のホップペレットを使うことが多いと思います。ペレットとは、生の毬花を乾燥・粉砕させてペレット化させたものです。ホップの加工形態としては、エキスを抽出したり、熱で異性化させたりするものもあります。ルプリンと苞を分離させてルプリンを濃縮させたペレットや、ルプリンだけを抽出したルプリンパウダーもあり、これらは苞由来の成分を抑えることができるのが特徴です。
また、日本産ホップの利点は、自分で加工ができるということが挙げられるでしょう。海外のホップを生で入手することはなかなかできません。
フレッシュホップの特徴香は、ヘキセノール、ヘクサノールがあり、芝を刈ったときのような青々しい香りといえます。フルーツの香りと合うことでみずみずしさを出すことが可能です。フレッシュホップの特徴香を出す場合、熱を入れる工程だと揮発してしまうので、みずみずしい香りを出したいのであればコールドサイドでの使用を推奨しています。品種は限定されませんが、フレッシュホップを使って、レイトホップまたはコールドサイドで使うという方法になるでしょう。
ホップ添加方法と香気成分への影響
続いて、ホップ添加方法と香気成分への影響についてみていきましょう。ホップの添加タイミングは、ホットサイドとコールドサイドに大きく分けられます。さらに、ホットサイドには、ケトルホッピング、レイトホッピングがあり、ここでは成分の揮発と熱酸化による構造変化、麦汁への成分抽出が起こります。
一方、コールドサイドは、アクティブファーメンテーションドライホッピング(AFDH)とポストファーメンテーションドライホッピング(PFDH)があ、泡酵母への吸着や酵母による変換、ビールへの成分抽出(低温抽出)が起こります。
成分の揮発・泡酵母への吸着(ディップホップ製法での変化)
具体的に、AFDHであるディップホップ製法ではどのように成分が変化するのでしょうか。例えば、リナロールは比較的残りやすい成分で、ホットサイドのレイトホップでもある程度残すことはできますが、ドライホッピングの半分くらいになってしまいます。また、ミルセンは泡や酵母に吸着しやすいのでレイトホップやディップホップではあまり残りませんが、ドライホップでは残りやすいという傾向があります。
ビール醸造にあたって、松ヤニや樹脂用の刺激的な香りを抑えつつ、ホップ香は際立たせたい場合は、品種は限定されませんが、香り目的の加工品を使い、ディップホップ製法で使うと狙った香りがつけられるといえるでしょう。
また、エステルやアルコールの香りは残りやすいので、ホットサイドで添加しても香りの影響は大きく残ります。例えば、微生物の懸念があるからホットサイドでホップを入れたいが、香りはしっかりつけたいという場合、残存しやすい成分を多く含む品種を選び、香り目的の加工品を使用し、ホットサイドで添加すると、狙った香りをつけやすくなります。
熱や酸化などによる構造変化
続いて、熱や酸化などによる構造変化について説明していきます。例えば、スパイシーな印象はセスキテルペンなどの酸化物が寄与しているとされており、セスキテルペン酸化物は煮沸時間にともなって増加していきます。
そのため、伝統的なビアスタイル特有のスパイシー、ウッディな香りを付与したい場合は、セスキテルペン含量が多い品種で香り目的の加工品を使い、ケトルホッピングで添加するといいでしょう。
高温の麦汁での成分抽出
高温の麦汁での成分抽出については、チオール類の抽出を例に説明します。4MMPは煮沸工程中に大きく減少する特徴があり(ただし、減少していない試験結果もある)、3MHは煮沸工程中に増加(温度が高いほうが大きく増加)、3M4MPは温度上昇に伴い抽出量が増加という特徴があります。
そのため、これらのチオールの特徴香(グレープフルーツやクロスグリなど)の香気特徴を付与したい場合は、チオール含量が多い品種で香り目的の加工品を使い、ケトルホッピングで添加するのがいいでしょう。
コールドサイドでの酵母による変換
コールドサイドでの酵母による変換は、テルペン類の変換を例に説明します。香味への影響が顕著なのは、ゲラニオールからβシトロネロールへの変換です。
麦汁中のゲラニオールは発酵初期に激減し、ゲラニオールは酵母代謝によりβシトロネロールに変換されます。しかし、ホップの添加タイミングを遅らせると、ゲラニオールはビールに残存するようになります。一方、βシトロネロールはホップ添加タイミングによらず維持されるのです。
例えば、ゲラニオールを多く含む品種で香り目的の加工品を使い、ポストファーメンテーションドライホップにすると、ゲラニオール由来のバラ様の香気特徴を付与することが可能です。
ビールへの成分抽出
続いて、ホールホップとペレットそれぞれについて、撹拌した場合としない場合においての抽出量について確認してみます。ペレットのほうがミルセン、リナロール、ポリフェノールとも抽出量が高く、撹拌したほうが高いという結果になりました。さらに、リーフホップよりペレットホップの方が短い時間で成分が抽出されます。
また、低温で抽出することで香気成分を抽出しつつ、ポリフェノール等の抽出は抑えられる可能性があります。
例えばドライホップでホップ香をしっかり付けたいが、ポリフェノール由来の渋味を抑えたい場合、品種は限定されませんが、Type45やCryo、ルプリンパウダーなど、リーフホップもしくは苞を除いた加工品を用いて、PFDH(低温での抽出)を行うといいでしょう。
ドライホップの注意点
ドライホップにおける注意点としては、ビールの酸化とホップクリープが挙げられます。ドライホップによる酸素の巻き込みを回避することは困難なので、ホップ溶解液でCO2やN2バブリングを行い酸素量を低減するか、AFDHで酵母に酸素を消費してもらうか、という方法が考えられます。
なお、ホップクリープとは、ホップに内在する酵素により、ビール中の高分子多糖が分解されて酵母資化性の糖が生成されることです。再発酵が起こり、アルコールの上昇、オフフレーバーやガスの生成などにつながります。そうなると、表示違反やお客様からのご指摘、製品破裂などの事故も起こりかねません。
ホップクリープの対策として、低減するには下記のような施策が考えられますが、根本解決にはならないと考えています。
- 高発酵度の麦汁に添加する
- 発酵後、遠心処理をして酵母数を低減する
- 低温でドライホップを行う
- ルプリン濃縮ホップ加工品を使う
- ビール濾過後にドライホップを行う
- AFDHにする
根本解決するには、熱処理により酵素活性を失活させることが重要です。60度以上(PU値であればPU1以上)の熱をかければ、こういったリスクを低減できるのではないかと思います。
ホップ由来香気成分の制御からホップレシピを考える
では最後に、ホップ由来香気成分の制御からホップレシピを考えてみましょう。スプリングバレーブルワリーでは、Juicy Hopというビールを造っており、こちらを例に説明します。造り手がどのような香りを狙ったのかは、下記のコメントのとおりです。
スムースな口当たりで、ホップ由来のトロピカルフルーツやシトラスフルーツの豊かな香りと余分な苦みや渋みが抑えられている味わいが特長の、飲みごたえのある一杯です。
これをホップ香気で読み解くと、下記のようになります。
文章 | 意図 | 醸造方法 |
スムースな口当たり | 刺激的な松脂の印象をもつミルセンは抑えたい | 酵母や泡への成分吸着をさせるためにAFDHを行う |
トロピカルフルーツやシトラスフルーツの豊かな香り | シトロネロールの柑橘香を付与したい | 酵母代謝による成分変換を目指して、ゲラニオール含量が多い品種でAFDHを行う |
チオールの柑橘香を付与したい | 高温麦汁による成分抽出のために、チオール含量が多い品種をホットサイドで添加する | |
渋味が抑えられている | 渋味に寄与するポリフェノールは抑えたい | 加工状態による成分選択として、ルプリンパウダーを選ぶ |
ホップ由来香気成分の制御については、品種(栽培条件)と加工形態と添加方法・タイミングの掛け算の組み合わせは無限に近い数があります。このような考えを駆使して日本産ホップを使っていくことで、日本独自のスタイルを作ることもできるのではないでしょうか。
第2部 ブルワーズミーティング
第2部は「ブルワーズミーティング」として、下記パネラーの皆さんに、第1部の講演を受けて加野さんに質問をしていただきました。
- 荒井昭一(南横浜ビール研究所)
- 片岡紗羅(ヤッホーブルーイング)
- 加野智慎(キリンホールディングス)
- 住友正伯(JouZo BEER BASE)
- 武石翔平(ホップガーデンブルワリー)
- 辻峻太郎(SVB)
- 藤原ヒロユキ(日本ビアジャーナリスト協会)
- 森田正文(ヤッホーブルーイング)
- 米澤美里(NAMACHAん Brewing)
田山:第2部は45分ほどでディスカッションを進めていきます。第1部の講演を受けて、加野さんに質問をしていただければと思います。まず、JouZo BEER BASEの住友さんお願いします。
住友:今日の講演に関係する質問ではないんですが、加野さんの一番気に入ってるホップを知りたいです。
加野:難しいですね。世の中には素晴らしいホップがたくさんあるんですが、私含めキリンの技術者が愛してるのはヘルスブルッカーだと思います。
住友:私は徳島で醸造をしているんですが、ホップ栽培もしています。ドライホップで生の状態で使うのに懸念があるんですが、いいアイディアがあれば教えてほしいです
加野:熱を軽くかけるのが望ましいですね。乳酸菌などは60度くらいでも殺菌できますが、熱による影響とかも出てきますのでま60度から70度くらいの低めの温度で3 分、5分、10分といった時間で処理するのが望ましいかなと思います。
田山:では、続いてNAMACHAん Brewingの米澤さん、お願いします。
米澤:推奨している温度について聞きたいです。例えばレイトホッピングで何度を推奨しているとか、ワールプールの温度帯を大体どのくらいでやっているとかを教えていただければ。
加野:ワールプールの温度を狙った温度にするみたいなことはあまりやっていないですね。
米澤:80度以上だと結構苦味が 出ちゃうと言われていると思いますが、あまりそこまで気にしていないという感じですか。
加野:弊社の設備だとコントロールしにくいということもあります。おっしゃるようにワールプールタンクの温度を調整しているブルワーさんは多いかなと思っています。そして低温の方があのま気圧は抑えられるので、低めの温度を採用してる方も多いかなと思いますが、一方で注意しないといけないのが温度が下がってくると粘性もどんどん上がってきてトリューブ形成がうまくいかないっていうこともあるかなと思います。推奨温度については情報を持ち合わせてないんですが、やはりトリューブ形成と香りを残すバランスを工夫されているところが多いのかなと認識しています。
米澤:ありがとうございます。もう1点質問があるんですが、ビールの色合いの話です。ドライホッピングした際に、ポリフェノールの酸化で赤褐色に色が変わってしまい、加熱すると解決するという話を聞いたことがあるんですが、酸化してしまう理由は何なのでしょうか。
加野:ポリフェノールの酸化で色が付くということは聞いたことがありますが、ちょっと知見は持っていません。先ほどお話ししたような、ホップから持ち込まれる酸素を減らす工夫をしてみてもいいのかなと思います。
田山:続いては、ホップガーデンブルワリーの武石さんお願いします。
武石:ヘキセノールは緑の香りが出すぎる感じがあるんですが、コントロールする方法はあるんでしょうか。
加野:ヘキセノールが出過ぎると、草の香りで台無しになることがあると思っています。バランスが難しいのですが、適度に青草っぽい印象があることで、熟しきっていないフルーツ感のような印象になると思いますので、そういった成分を適度に飛ばすような方法になってくるのかなと。私自身は実際に工程の中でやったことがないので推察になってしまいますが、やはり熱で飛びやすい成分ですので、レイトホップで早めに入れてみるといったことをしてみるといいのかなと思います。
武石:もう1点、酵母を選ぶ方法として、どういったものが挙げられるか教えてください。
加野:酵母も、先ほどゲラニオールとかシトレノールの変換を例として挙げましたが、変換の度合いが高い酵母とそうでない酵母があります。また、チオールについてもエステル化しやすい酵母もあればそうでない酵母があるので、どのような香りをつけたいかを考えると、酵母を選びやすくなるかと思います。最近だと酵母を販売されているところでも、情報をくれるところが多いと思いますので、そのあたりを活用してみてください。
田山:質問ありがとうございました。質問2点ともホットな領域だと思います。ヘキセノールのグラッシーな感じは、やはりホットサイドとコールドサイドをどのように組み合わせるかとか、バランスだと思いますので、ぜひ追求していただいて、知見が得られたら共有していただけるといいかなと思います。では続いて、南横浜ビール研究所の荒井さんお願いします。
荒井:私たちはホップ投入方法をいろいろ工夫しているので、それについてお話しようと思います。樹脂っぽいミルセンのニュアンスが強すぎると、料理と合わせることなどを考えてもどうかなと思いますので、それが過度につかないようにということを意識して普段から造っています。そこで、クライオホップを絞ったホップ液を60度付近まで挙げて、発酵初期に投入する方法をとっています。そうすると、樹脂様の風味が落ちて飲みやすい感じになります。
また、ホップクリープも気になっています。発酵後期にドライホッピングすることで、ホップクリープとビールの鮮やかさが損なわれてしまうということを感じたので、ホップ液をパスチャライズして投入するという方法を試してみたら、成果が出ました。どんよりした感じがスカッとした感じのビールになります。
田山:具体的にはどういった商品、ビアスタイルで試しているんですか。
荒井:ホップを活かすタイプはすべてこの方法でやっています。
田山:クライオをメッシュバッグに入れてお湯に浸して、絞った液だけを60度に処理するということですか?
荒井:100均で買った洗濯バッグに入れてぬるま湯で溶き、それをゴム手袋をして絞ります。それを繰り返して必要な量を作り、60度の液体を発酵タンクに先に入れて、それを合流させて発酵開始の温度になるように調整しています。
田山:ありがとうございました。では、続いてヤッホーブルーイングの片岡さんお願いします。
片岡:フレッシュホップの使う際に、ヘキサノールやヘキセノールなどを残したいと思ってワールプールの温度を少し下げて揮発を抑える方法をやってみたんですが、やはりトルーブがしっかり固まらなくて難しいと感じていました。また、ビールにも青々しい香りが残らなかったので、原因はワールプールではなく別のところにあると思っています。昨年の加野さんから、植物体を傷つけるとヘキサノールやヘキセノールなどが出るというお話があったので、粉砕のところにヒントがあるのでは…と。ヤッホーブルーイングでは、細かく粉砕はしていないんですが、昨年他のブルワリーでミンサーを使って砕いたら実際にヘキサノールは高く出たという話もあって、そのあたりでアドバイスをいただけたらと思いました。
加野:ミンサーの件は、私も衝撃を受けたので、他の方の知見があればぜひ聞きたいと思っています。でも、おっしゃるとおり植物の組織を傷つけたときに出てくるので、粉砕の粒度の観点ではそのとおりだと思っています。
田山:補足すると、昨年、横浜ビールさんがミンサーという機械を使ってホップをクラッシュさせて、生感をすごく出したビールを造ったら、分析指標が飛び抜けて高くなったということがありました。実際に飲んだ感覚でもグラッシーな感じが強いビールができたので、確かに物理的な刺激理論はもしかしたら正しいのかもしれないですね。
片岡:もうひとつの質問は、香りづけをセオリーどおりにやってみるんですけど、結果としてうまくいかないときもあって、そういうときに皆さんはどうやってPDCAを回しているのか、教えていただければと思います。
加野:ヤッホーブルーイングさんは、ガスクロ入れてらっしゃったと思うので、やはり分析値で確認するのがやはり確実で、その上で検討するのが望ましいかと思います。分析が難しい場合は、官能評価に頼らざるをえないので、そこは香味特徴をしっかり捉えられる社内のメンバーをアサインして、PDCAを回していくということになるのかなと思います。
田山:では、同じヤッホーブルーイングの森田さん、どうでしょう。
森田:日本産ホップの香気成分はどのような特徴があって、それを引き出すためにこんな使い方をするといいんじゃないか、といったことがあれば教えていただけないでしょうか。
加野:非常に難しい世界だなと思っています。ホップ研究の世界でも同じ品種だけど栽培の場所によって違うというテロワールの研究はホットトピックではあるんですよね。カスケードでも、アメリカでも地域によって全然違いますし、それをヨーロッパに持っていくとそれもまた違います。そういう報告は多くなってきていると思うんですが、土壌の成分がという議論まではまだ至っていないかと思います。日本でもテロワールの研究はそこまで進んでいないので、ご希望の答えは私も持ち合わせていない状況です。
森田:日本でもトップの生産量である岩手県や秋田県でメインで作られてる品種の香味特徴は把握されていますか。
加野:分析はしていますが、どの成分でどの特徴が出るということまでは詳しく解析したことがないというのが実情です。日本でもやはり地域によって特徴が変わるのかなと思いつつ、栽培方法や気候も含めて変動要因がかなり多いので、成分特定に至るのは難しいという感覚があります。
田山:私たちは日本産ホップ推進委員会ですので、日本産ホップの良さを科学的にも何か裏付けられるといいかなと思います。感能評価が一番大事じゃないかなとは思いつつも、抽象的な表現でしかできないんですよね。奥ゆかしいとか控えめとか。その裏付けが何かとれるといいと思っています。テロワールの話も出たので、このあたりで藤原さんお願いします。
藤原:僕はブリュワーではなので、オブザーバー的な感じで参加しているんですが、この件に関しては僕自身もしっかりインプットしておかないといけないなと思いました。テロワールについては、山梨県の小林農園の小林くんが与謝野に来てくれたときに、IBUKIの香りを嗅いだら自分のエリアの香りと違うと言っていたので、やはりテロワールはあるんだなと思います。東北のIBUKIについては、キャラクターとしてはどのような表現をしているんでしたっけ?
加野:柑橘系はそこまで際立っているわけでもなく優しい感じで、グリーンな印象が表に出てくるという印象を持っています。
藤原:というのも、なぜこんな質問をしたかというと、今年は去年よりも大粒の毬花ができるようになって、香りがレモンなんです。グレープフルーツとは違うし、オレンジとも違うし、スカッとした柑橘の香りが出てくるんです。東北とか山梨とは違うのかなって比べてみたいという興味があります。カスケードは日本でカスケード作ってる人が一番多いんじゃないかなと思うので、カスケードを比べてみるといったこともいいかもしれないですね。
田山:カスケードが一番多いと思いますし、以前、和歌山ブルワリーの吉田さんがそういうビールを3種類造って比較したこともありました。我々もIBUKI100%でビール造っていますが、辻くん何かコメントありますか。
辻:そうですね。テロワールはまだまだ難しいなと思っていて、我々の技術としても、安定したものを造るという観点では、ホップの差だけではないところも出ているので、まったく同じ条件で一度試してみたいと思っています。我々は毎年、最優秀圃場のホップだけを使ってビールを造るということもしていますが、実際にやってみると、レモンが強いとかフローラルが強いとかは、圃場の差なのか、摘む時期の差なのかわからないですね。
田山:では、最後に皆さん一言ずついただければと思います。
住友:私もホップの使い方はすごく奥が深いなと思っています。ホップを栽培して使ったり、IBUKIを使ったりしているんですが、皆さんができないようなチャレンジ、小さい醸造所ならではのトライをしていきたいと思っていますので、今年もIBUKIを楽しみにしています。
米澤:毎年フレッシュホップビールを造らせていただいているんですが、まだホップを摘む作業をしたことがないので、実際に体験してみたいと思っていて、機会があれば行ってみたいと思っています。
武石:私たちは毎週のように生ホップを使ってビールを造っているので、今回は参考になるお話をいろいろいただきました。それを使ってみて、自分もフィードバックできればいいなと思っています。ありがとうございました。
荒井:当社ではフレッシュホップの使い方をワールプールからディップホップ的な使い方に移行したんですが、よさそうなので今年もまた進めていこうと思っています。
片岡:いろいろなブルワーの皆さんのお話を聞いて、自分では思いつかなかったおもしろいやり方などを知ることができて刺激をいただいています。また、日本産ホップを使ったビールを醸造していることもあって、ジャパニーズスタイルじゃないですけど、ホップの特徴をつかんでビール設計に活かしていけたらいいなと思っています。今後も情報交換ができればと思っているのでよろしくお願いいたします。
森田:ホップの品種なのかテロワールなのかわからないですが、日本スタイルのビールにまで発展して自分たちで発明できたら素晴らしいだろうなと思っています。そういうところにチャレンジしていきたい思いが高まったいい機会になりました。ありがとうございました。
辻:最初は、加野さんに「日本産ホップビールをおいしく造るにはどうしたらいいですか」と質問しようかと思っていたんですが、それはやはり違うなと改めて思いました。今日は、品種(栽培条件)と加工形態と添加方法・タイミングの掛け算という話がありましたが、それにブルワリーやブルワーの掛け算がさらにあって日本産ホップビールが造られていくんだなと改めて思ったので、ファンの立場としても、新しい日本産ホップビールが出てくるのが楽しみです。
加野:今回の資料を作るのに自分の頭の中を整理しましたが、私がキャッチアップできていない技術もありますし、ビールを造られている方の中からも出てくるんじゃないかなと思っています。なので、引き続き皆さんのチャレンジングなトライアルを聞かせていただいて、私自身の研究への気付きみたいなものも得らればいいと思っています。ありがとうございました。
藤原:日本産ホップを使って日本らしいスタイルができるのを目指して僕自身もホップを作り始めたので、日本産ホップをドメスティックなことだけで使うのではなく、それを発信して世界に広まっていくようなことも目指していきたいなと思ってい ます。今日はありがとうございまし た。
2024年の日本産ホップビールとその取り組みに期待!
今回は、ホップ由来香味成分の制御についての解説と、ブルワーの皆さんとの「ブルワーズミーティング」を行いました。2024年も、それぞれのブルワーのチャレンジがつまった日本産ホップビールがたくさん造られると思います。どのようなビールができるのか、期待しましょう!