大阪府交野市で「人・自然・経済を循環させる」ビール造り
「交野(かたの)おりひめ大学」は、誰でも入学することができる市民大学です。
2021年4月に交野おりひめ大学に創設された「交野おりひめ大学クラフトビール部」では、地域活性を目的にホップを栽培し、交野産のホップを使用したオリジナルビールを醸造(現在は委託醸造)、さらに、ビールを提供する場所をつくることで、「人と人」「人とまち」をつなぐ活動をしています。
全国各地で地域活性を目的にホップ栽培やビール醸造が広がる中、交野おりひめ大学クラフトビール部が目指すのは「人と自然、経済を循環させる」ビール造りです。
Contents
交野おりひめ大学とは?
交野おりひめ大学は、一般社団法人交野おりひめ未来研究所が運営する市民大学です。
京阪私市駅から徒歩10分のグリーンビレッジ交野にある「きさいちBASE」を拠点にして活動しています。
里山に囲まれて人と自然が共存する交野市
「交野市」は大阪府の北東部に位置する市で、大阪府と奈良県の県境にあります。
JR学研都市線(片町線)と京阪交野線の2路線が通っていて、通勤・通学に便利な場所でありながら、市の約半分は里山や農地・川など豊かな自然が共存しています。
大阪市や京都、奈良からもアクセスしやすいことから、週末にはハイキングや自然を楽しむ人々が多く訪れています。
交野おりひめ大学の設立メンバーである甲斐健さんは、2010年頃の交野市について「財政赤字が続き、元気がないように見えた」と言います。
すでに地域のために活動している人たちを巻き込み、そうでない市民にも交野市に興味を持ってもらうにはどうすればいいか、と考えた甲斐さんは、市民がさまざまな形で参加することができて、地域活性につながる市民大学を立ち上げることにしました。
そして2013年に交野おりひめ大学として、6つの学科で開講し、現在「おさけ学科」や「そば学科」など9つの学科を中心に活動しています。
2021年4月、交野おりひめ大学クラフトビール部を創設
交野おりひめ大学クラフトビール部創設のきっかけとなったのは、2020年7月、甲斐さんが「地域の魅力を引き出す“コミュニティカレッジ”という手法について」をテーマにしたトークセッションのお誘いを受けたことでした。
ファシリテーターは株式会社NI-WAの勝谷拓朗さん。
株式会社NI-WA(東邦レオ株式会社グループ)は、街づくりにおける各種コンサルタントや空間の維持及びイベントの企画・運営を行う企業で、2020年3月から奈良県生駒郡平群(へぐり)でホップを栽培し、2020年8月に大阪市北区中津にブルワリー「Nakatsu brewery」をオープンしています。
アルコールは最初から最後までビールでもいいというくらい、大のビール好きの甲斐さん。
トークセッションの場で「交野市でもホップを栽培してみませんか?」という勝谷さんからのオファーに「交野産ホップ使ったオリジナルビールが飲みたい!」と早速行動を開始。
1ヵ月後には、大学内にクラフトビール事業化準備委員会を立ち上げ、半年後の2021年2月には、元ぶどう畑で遊休地となっていた「神宮寺田中ホップファーム」と京阪沿線で遊休地になっていた「私市ホップファーム」を立ち上げ、交野おりひめ大学と株式会社NI-WAの共同でホップ栽培をスタートさせました。
交野おりひめ大学には「酒づくりの会」という学科があり、交野市で酒米を育て、交野市内にある酒蔵で委託醸造した日本酒「百天満天」を瓶に詰め、オリジナルラベルを貼って、これまでに6年間販売を続けています。
甲斐さんはその経験をビール醸造に活かせば、交野市をPRする1つの事業にできるのではないかと考え、2021年4月、交野おりひめ大学クラフトビール部を立ち上げました。
ビール造りで交野市の人と自然、経済を循環させる
甲斐さんは「ビール造りをすることで、交野市内外の人と豊かな自然、経済が循環し、交野市はもっと魅力的になる」と考えています。
ホップ以外にも大麦と小麦、ライ麦を栽培
2021年4月にスタートしたホップ栽培。
2022年7月には私市ホップファームでの収穫量が約33キログラム、神宮寺田中ホップファームの収穫量が約20キログラムになりました。
来年はさらに多くの収穫量を見込んでいます。
どちらのホップファームも大阪市から約30分ほどでアクセスできるので、交野市内外からビールが好きな方やホップに興味のある方が集まり作業をしています。
ホップの栽培にあたっては、山梨県の小林ホップ農園よりアドバイスをもらっています。
また、2021年12月からは交野市と奈良県生駒市の県境付近で大麦と小麦、ライ麦の栽培を開始しました。
大麦は京都の大学に麦芽化を委託し、小麦とライ麦はビールの副原料として使用される予定です。
ホップや大麦の栽培には、作業にかかる人手の他、栽培についての知識や道具も必要です。
短期間で実行に移すことができたのは、交野おりひめ大学クラフトビール部のメンバーに農業をしているメンバーがいたからです。
土作りや肥料やり、収穫などはこのメンバーを中心に行っています。
オリジナルビールを飲んで交野市に興味をもってもらえる場所
甲斐さんと勝谷さんのトークセッションでの話が形になり、2021年8月私市ホップファームで収穫したホップを使用したオリジナルビール(醸造はブリューパブ センターポイント)が完成しました。
交野産ホップを使用した初のオリジナルビールは、交野市神宮寺産の葡萄を使用した「神宮寺葡萄エール」です。
また、交野おりひめ大学酒づくりの会が委託醸造をした日本酒「百天満天」の酒粕を使用した「べっぴん酒粕エール(醸造はブリューパブ センターポイント)」はジャパン・グレートビア・アワーズ2022において「金賞」を受賞することができました。
「オリジナルビールを交野市民にも楽しんでほしい。そして交野おりひめ大学クラフトビール部の活動を知ってほしい」と、次に取り組んだのはオリジナルビールを提供し、クラフトビールに対する印象やオリジナルビールの感想を直接聞くことができるタップルーム「夜間部」の運営です。
「夜間部」は、JR河内磐船駅と京阪河内森駅の間にあるカフェを週末の夜だけ間借りして営業をスタートさせました。スタッフは全員交野おりひめ大学クラフトビール部員です。
「居酒屋のビールの倍以上の金額を払ってクラフトビール飲む人なんているんか?と、そんなご意見をいただくこともありましたが、20〜30代の若い人がふらっとやって来てクラフトビールを飲む光景を目の当たりにして、クラフトビール事業は交野市でも十分やっていけると自信になりました。
そして、なによりも夜間部をきっかけにして交野おりひめ大学クラフトビール部に参加してくれたメンバーがいて、これから人々を巻き込みながら活動するんだ、と改めて思いましたよ」と甲斐さんは言います。
「夜間部」は8月末で一旦営業を終了しますが、2022年10月から場所を変えて営業を始める予定だそうです。
2023年春ブルワリーのオープンを目指して
現在、交野おりひめ大学クラフトビール部では醸造免許の取得に取り組んでいます。
交野市で栽培したホップを使って、交野市でビールを醸造することができれば、さらに交野市内外の人がクラフトビールに興味を持ち、関わってもらうことができると考えています。
醸造場所はすでに決まっており、その建物を交野おりひめ大学クラフトビール部のメンバーで修繕し、同時進行で醸造免許の申請を行い、2023年4月ブルワリーをオープンする予定です。
現在、クラフトビール部の醸造チームでは、醸造開始に向けてフラッグシップビールを考えています。
キーワードは、交野市の自然の象徴である「里山」です。
里山に囲まれた豊かな土地に人々が集まり、そこで生まれる水や作物を使用して醸造された軽やかなビールを片手に、会話が弾み、また新しい活動が生まれる。そんな素敵な循環が生まれるビールです。
交野市以外の人にも活動に関わってほしい
甲斐さんは、交野おりひめ大学を立ち上げる際、交野市を魅力的で元気にするためには自分たちだけが頑張って完結する活動ではなく、すべての人がどこかに関われるものをつくりたいと考えていました。それがビール造りでした。
ビールを造り、販売する過程で、「チームをまとめる人」「ホップを栽培する人」「ビールを醸造する人」「ラベルをデザインする人」「ビールを販売する人」「ビールを飲む人」など、多くの人がこの活動に関わることになります。
現在、交野おりひめ大学クラフトビール部のメンバーは約70人。
「この輪のどこでもいいので、どうぞ関わってください。どんどんこの輪を広げて、人と自然、経済を循環させることで、人々がつながり、笑顔になっていく」と甲斐さん。
今後、ブルワリーの開設など時に大変なこともありますが、仲間と一緒に造ったビールを片手に乾杯することを想像すると、クラフトビール部のメンバーはこれからの活動が楽しみで仕方ありません。
「皆さんもこの活動のどこかに関わってみませんか?」
【交野おりひめ大学クラフトビール部】
大阪府交野市藤が尾4-1-3
https://www.orihime-univ.com/