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ホップサミット2019春 開催

2019年3月8日(金)、山梨県北杜市にある宇宙カンパニー合同会社のうちゅうブルーイングで、「ホップサミット2019春」が開催されました。当初の予想を上回る約60名のホップグロワー、ビールブルワーが全国各地から集結しました。

当日のコンテンツは以下の通りです。

    ホップサミット2019春 開会

  • 2019日本のホップ事情:スプリングバレーブルワリー株式会社 田山智広氏
  • うちゅうブルーイング活動報告:宇宙カンパニー合同会社 代表 楠瀬正紘氏
  • ホップ農家小林氏活動報告:ホップ農家 小林吉倫氏
  • 農業法人“BEER EXPERIENCE”活動報告:BEER EXPERIENCE株式会社 浅井隆平氏
  • キリン村上博士によるホップ講座:キリン株式会社 村上敦司氏
  • アメリカ横断視察報告:宇宙カンパニー合同会社 鈴木ルミコ氏
  • ホップ生産者グループディスカッション:座長 スプリングバレーブルワリー株式会社 田山智広氏
  • 閉会挨拶:一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会 代表 藤原ヒロユキ氏

午後の「ホップサミット2019春」の開会に先立ち、午前中にホップ農家の小林吉倫氏の圃場と、宇宙カンパニー合同会社のうちゅうブルーイングの圃場・ブルワリー視察が行われました。

最初の訪問先は、山梨県北杜市高根町でホップ栽培を行っているホップ農家の小林氏の圃場です。小林氏が参加者を案内し、国内品種第一号のホップ「カイコガネ」の栽培に至った経緯や、どのように圃場を建設していったのかについて説明いただきました。参加者からは次々に質問が飛び交い、キリン株式会社農学博士の村上氏や京都与謝野ホップ生産者組合の好地氏も解説に加わるなど、有意義な情報交換が行われました。

その後、うちゅうブルーイングへ移動し、圃場を視察しました。うちゅうブルーイングでは、サステナブル(持続可能)なブルワリー、「サステナブルワリー」(造語)を目指しており、ビール醸造後に出た麦芽カスを畑一面に撒き養分として再利用し廃棄物を有機的に循環させています。発酵が進んだ独特の香りが辺り一面に漂う中、参加者の皆さんは、富士山、八ケ岳、南アルプス連峰の雄大な自然とこの独特の香りを満喫していました。

いよいよ「ホップサミット2019春」が開会です。最初に、スプリングバレーブルワリー株式会社の田山智広氏より、「関係する皆さんのご尽力のおかげで、いいプログラムになっていると思いますので、何か1つでも2つでも持ち帰ってお役に立っていただければと思います」と挨拶がありました。

うちゅうブルーイング活動報告:宇宙カンパニー合同会社 代表 楠瀬正紘氏

宇宙カンパニー合同会社は、隊長こと楠瀬正紘氏がビールの醸造を担当し、クリエイティブディレクターの鈴木ルミコ氏がブランディングやアートディレクション等を行っています。お二人がクラフトビールに出会ったのは2016年のこと。それ以前は「宇宙農民」という名前で農薬や化学肥料を使用しないお米や野菜などを栽培し直販していました。

山梨県北杜市高根町は移住者による有機農業が広く行われています。みんなで一緒にできることはないかと、オーガニックマーケットやマルシェを開催。これらの取り組みをさらに発展させるために、アメリカ西海岸へ視察に訪れたところ、そこでクラフトビールとの衝撃の出会いがありました。初めてIPAを口にした瞬間、その独特の香りに「なんじゃこりゃ!」と驚き、その香りがホップ由来であることを知ると、たちまちホップの虜になったと言います。

帰国後、ホップの苗を20株ほど購入し、ホップ栽培を開始。収穫の時期を迎え、再びホップの匂いを嗅いでその華やかな香りに驚き、ビールを造りたいと強く思ったそうです。最初に販売したビール「宇宙IPA」は、委託醸造で完成しました。委託醸造を重ねるうちに、独自でビールが造りたくなり、ついに宇宙ブルーイングを立ち上げることとなりました。醸造所の建物は、インターネットや知り合いから建築方法の情報を入手。重機で山を削って土を整地し、コンクリートや鉄骨などの基礎部分も独自で建設し、大部分を自分たちの力で作り上げました。醸造内の設備は情報が少なく、相当苦労をされたようです。試行錯誤の末、醸造所が完成。その後無事に醸造免許を取得し、2018年の3月より醸造を開始しました。「まだまだ自家製ホップの利用率は低いのですが、継続して無農薬でのホップ栽培を行い、今後は“とにかくやばいビール”を造って宇宙ブルーイングの名前を知ってもらいたい」と締めくくりました。

ホップ農家小林氏活動報告:ホップ農家 小林吉倫氏

午前中に見学した小林吉倫氏のホップ圃場がある北斗市は、1920年ごろからホップ栽培を開始し、一時は大手ビール会社との契約で本格的にホップが栽培されていました。しかし戦後にビール会社がホップ農地を減反し、1994年には市内でのホップ契約栽培が終了するという歴史がありました。
北斗市が誇るホップ「かいこがね」は、1980年に品種登録されましたが、ホップの契約栽培終了後は、細々と栽培され燃やされて肥料にされていました。小林氏は、今残っているわずかな「かいこがね」を後世に残したいとの想いから栽培を決断されました。
小林氏は、大学で農学を学び、その後肥料関係会社に入社。農園整備、肥料の実証や大型施設でのIOTを導入した栽培への取り組みなどに携わりました。

現在、小林氏の圃場で栽培しているホップは、アメリカ・チェコ・イギリス・ドイツ・日本の品種で、販売形態は生・乾燥・ペレット・粉末の4形態、生のホップのみ受注販売を行っています。
小林氏は、一般的な面積当たりの収量ではなく一株当たりの収量を上げていきたいそうで、そのためのポイント3つ「施肥・日射の当て方・潅水」をしっかり行うよう心掛けているとのこと。
また、これから就農しホップ栽培を目指す方は3つの不安要素「経営初期に収入が不安定、3年間の収量が不安定、栽培初期の不安が大きい」があることから、マニュアルを作って統一性をはかることが大事だと考えを述べられました。

小林氏は「今後、ホップ用機械の開発と製造を行い効率化させること、またホップの分析や品種改良・育種などにも注力したい」と意気込みを語ってくれました。 

農業法人“BEER EXPERIENCE”活動報告:BEER EXPERIENCE株式会社 浅井隆平氏

続いてBEER EXPERIENCE株式会社の浅井隆平氏は、日本のビアカルチャーをもっと面白くしていくために、遠野市の官民連携によるホップを使ったまちづくりについて紹介されました。

象徴的なイベントである「遠野ホップ収穫祭」は、岩手県遠野市で毎年8月に開催されおり、収穫中のホップ畑の見学や、摘み取ったばかりのホップに実際に触れることができるホップ体験コーナーなど楽しみ方は様々。昨年は7500人の参加者が全国から訪れ、大変な賑わいを見せました。本年は1万人の参加者を目指しているそうです。

農業を通じた地域活性化に取り組んできた成果として、遠野への移住者がこの3年間で12名にのぼり、それぞれホップ栽培に取り組まれています。遠野への移住希望者は増加傾向にあり、それらの受け皿をどのように拡大していくのかが課題に挙げられています。

また、作業の効率化と生産性の向上、さらには安定した経営維持を目指し、ホップティーやホップシャンプーなどの加工品の販売やホップ以外の農作物の栽培などで、安定した収入を模索していきたいということです

遠野は「ホップの里からビールの里へ」を合言葉に、ホップ生産だけでなくビールを中心に新しい産業やコミュニティの創出を目指したまちづくりを行なうことを目標にしています。

キリン村上博士によるホップ講座:キリン株式会社 村上敦司氏

村上博士からは、「AI(人工知能)による栽培管理、気象予報との関連」についてお話がありました。

まだ露地栽培では行われていなかったAI画像診断やセンサーでの管理について、気象データや農家の作業記録の合体で作業時期の予測ができるのではないかと考え、グーグルクラウド環境を活用して統計の解析と突き合わせ、調査を行ったとのこと。調査は気象予報士でありグーグルにも精通する水林亨介氏と協同で行われました。

遠野の農家68件の年間作業日誌、150万件超のデータ化とその期間の気象データをAIに学習させ、今後の気象データからホップ栽培における農作業のタイミングを予測するというものです。

2017年に栽培した「いぶき」で検証したところ、べと病やダニ、灰色かび病対策において、実作業と予測値に概ね誤差がなく、また遠野とは別地域の秋田県の気象状況で行った予測でも作業の立ち上げ時期の予測がほぼできていたそうです。

この結果から、「ベテラン農家の知識や経験の蓄積は、時間や地域を超えてAIによる栽培管理に使えるのではないか。将来的にホップ栽培の作業予測ができるとよい」とお話しいただきました。今後のAIによる栽培管理は、地域をまたがった汎用性モデルの検討、品種によるモデルの違いの検討、作業タイミングに加えて肥料や農薬の投与量を予測できるモデルなどにも着手できたらと意欲を示されていました。

アメリカ横断視察報告:宇宙カンパニー合同会社 鈴木ルミコ氏

鈴木ルミコ氏からは、アメリカ横断視察の報告がありました。新種ホップ「ストラタ」の匂いを確かめるために、ホップの販売会社「INDIE HOPS」を訪問するなど、アメリカのIPAビール事情を知るべくN.Y、ボストン、サンディエゴ、シアトルなどを巡ったとのこと。アメリカのブルワリーではどこも品質が維持しやすい缶の販売がある、瓶はリサイクルの面で効率が悪い、西海岸に比べて東海岸ではヘイジーが多い、など様々な気付きがあったそうです。醸造設備としては、遠心分離機があればホップを大量に使う我々の濾過時の歩留まりの改善が期待できるということ、バイオジオフィルタを使用し清掃時の残りの麦汁を微生物にろ過してもらって下水に流していることがとても参考になったそうです。さらに「いくらおいしくてもいいものでも、デザインで目に触れないと広がらないことを視察を通して痛烈に感じた」とお話しされていたことが印象的でした。

ホップ生産者グループディスカッション:座長 スプリングバレーブルワリー株式会社 田山智広氏

田山智広氏からは、導入としてホップのいろいろな機能についてのお話がありました。ビールのための植物であるとも言われているホップですが、その香りや苦みがストレス、肥満、脳機能改善などに役立つことが科学的に実証されてきていること。
ホップの苦み成分は、植物が病害虫やカビから身を守るための成分の一つであり、苦みは本来人間にとって毒を識別するための信号で忌避すべきもの。しかし過去の文化的な生活をするなかで苦みの価値が高まってきました。「お茶、珈琲などのカフェイン中毒、カプサイシン中毒と同様に、ホップヘッド(ホップがないと生きていけない人)も、私たちが生きるうえで求めてしまうもの」というご意見には一同深くうなづいていました。

次に、ホップの品質について「ブルワーが求める品質」について共有がありました。

【高品質のホップとは】

  • ルプリンが豊富である(α酸、オイル成分)
  • ペレットに加工したものでは茎葉混入比率が低い(キリン社)
  • 毬花が粒ぞろい ばらつきがない(収穫の時期がずれるとばらつく)
  • ホップの形態や栽培地がユニーク(テロワール)
  • 品種だけでなく、加工形態に付加価値がある

これらがビールのストーリーにつながるような独自性が欲しい、と田山氏。
その後、参加者からの質疑応答で会場は大いに盛り上がりました。

閉会の挨拶を務めたのは一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会 代表 藤原ヒロユキ氏。

「国産ホップの普及を目指していきたい。アメリカンスタイルが世界で普及した今、アメリカンスタイルは何か、というとホップのキャラクターだと思います。同様にジャパンスタイルを作っていくにも日本産ホップの役割が大きく、品質の見極めや栽培技術の勉強会とともに、参加者の増加で規模が拡大してきたホップサミットも今後は『普及』を担うグループを作る時期なのではと考えています」と締めくくりました。

シマダアキコ
ビアジャーナリスト /国内旅行業務取扱責任者

1999年夏。旅行先のカナダでビールに目覚め、各国のクラフトビールの虜に。アメリカのIPAをこよなく愛しつつ現在は国内のクラフトビールにも魅せられ中です。“ビールといえばシマダさん!”という職場での称号をほんものにしたいとビアジャーナリストアカデミーの門をたたきました。2018年夏、旅行社糀屋紋左衛門の活動を開始。有機低農薬野菜と無添加食品の宅配サービス会社での18年間の経験を活かし、農と醸造を旅することをライフワークに「ビールってすばらしい!!」の輪を広げていきます。

西條はる
ビアジャーナリスト

大阪府出身 千葉在住
ビールが大好きで、飲みに行っても永遠にビールを飲み続け、ついたあだ名が「Hop Saijo」
ビールと旅をこよなく愛し、ビールのためならどこへでも。昨年はチェコ共和国ピルゼン市とアメリカ合衆国デンバーにビールを飲みに行く。今年も美味しいビールを求めてどこまでも!