2025年7月12日(土)、宮崎ひでじビール(宮崎県延岡市)の醸造所で「ホップ収穫祭」が行われました。

▲永野社長が「使ってみたかったんだよね!」と話していた電動ベルトコンベアで、一気にホップを袋詰め
この収穫祭は、宮崎ひでじビールが栽培するホップ苗の年間オーナー権をもつホップオーナー向けのイベント。ひでじビールの「ホップオーナー制度」に申し込んだオーナー特典のひとつで、ホップオーナーがホップの摘み取り体験と、ひでじビール飲み放題つきBBQ交流会がセットになった「ホップ収穫祭」に参加できるものです。
筆者がオーナーになったのは、収穫が目前に迫った6月末。
ホップ苗に名前をつけたいがために「プレミアムオーナー」に名乗りを上げました(2025年度に関しては、苗個別に名付けができるのはプレミアムオーナーのみ、他のコースでは共同オーナーとなります)。

名前をつけるといっそう愛着が湧くもの。しかしプレミアムオーナー176名分(2025年)の名札を1株ずつセットするのも重労働だ
このホップオーナー制度について、簡単にご説明しましょう。
Contents
ホップ栽培体験プログラム「ホップオーナー制度」とは?
ホップオーナーになると、その年に収穫されたホップで仕込んだフレッシュホップビールが返礼品として受け取れる他に、オーナーとスタッフが交流できるオンライン飲み会や、金額に応じてオーナー限定グッズやクーポンがもらえるなど、さまざまな企画や特典が用意されています。

▲名前入り木製のオーナー証「御酒飲帳(ごしゅい んちょう)」、中はフリーのメモ帳になっていてスタンプやラベルシール収集に使える
ホップの栽培作業自体はスタッフが行いますが、管理作業や生育の様子は、facebookのオーナー専用ページに投稿される写真や動画を通じて見ることができます。この圃場レポートがかなりの更新頻度と充実度!
週2〜3回でも熱心だと思いますが、夏が近づくとほぼ毎日作業の様子がレポートされ、年間の栽培スケジュールと繁忙期を窺い知ることができます。
さらに、こまめなライブ配信のおかげで、遠隔地のオーナーでもまるで本当に栽培を手がけているかのような臨場感を感じることができるんです。
宮崎ひでじビールが管理するのは、宮崎県内の五ヶ瀬、北方、上三輪という3つのエリアで4圃場。そのうち収穫祭の作業対象となるのは、今年7年目を迎えて最も収穫量が見込めるという「五ヶ瀬圃場」でした。ただし、圃場が醸造所から離れた場所にあるため、収穫祭2日前の7月10日(水)にスタッフが棚からツルを刈り取り、参加者は刈り取ってきたツルからホップを摘み取る作業を行います。
▲五ヶ瀬圃場の収穫(動画提供:「霧立山地・ごかせ農園」秋本様)
筆者はホップオーナーもホップの摘み取りも初体験。
当日は大分県から泊まりがけで参加するため、天気予報と睨めっこしながら作業服の準備をするなど、当日を心待ちにしていました。
※2024年のホップオーナー制度はJoe Beerski氏のレポートをご参照ください。
県内外から集まった22名のホップオーナーと圃場見学
収穫祭当日は、延岡市の道の駅「北方よっちみろや」に10時30分集合。
延岡に入ると、天気予報通りの本降りの雨でしたが、農業や果樹生産が盛んな北方町の道の駅は朝から多くの買い物客で賑わっています。

▲看板を持って参加者を待つスタッフの森翔太さん。品質管理責任者も務めるブルワーで、ホップ栽培にも初期から携わる
参加したオーナーは22名、地元宮崎県内のオーナーを中心としながらも佐賀や大分、福岡の北九州、東京から来たという宮崎県出身のひでじファンも。集合後に宮崎ひでじビールの代表、永野社長の挨拶を終え、まずは圃場見学へ。
見学するのは、昨年土壌伝染病「根頭がんしゅ病」による甚大な被害を受け、土をすべて入れ替えて新たに苗を植え直した「北方圃場」。1年目にして青々とした葉がよく茂り、上部にはかわいらしい毛花もちらほら。

▲北方圃場を管理する亀長茶園の亀長浩蔵さん。宮崎の一次産業活性化を目指す取り組み「宮崎農援プロジェクト」にも携わる
雨足がますます強まり、マイクの音声を聞き取るのも難しい状況でしたが、参加者は圃場内を自由にまわり、スタッフにさまざまな角度から質問をしていました。

▲雑草の発芽や、雨風が土に当たることによる肥料流出を防ぐためにビニールシートで株周りを覆うマルチング

▲単管パイプを組んだ高さ約5mのホップ棚。1mの深さから地下に埋め込まれ、排水処理などの土木作業も自社で行っている
駐車場から圃場までは歩いて行ける距離でしたが大雨により道路は冠水。ブルワリースタッフが参加者をピストン輸送していました。
この大雨をもろともせず楽しそうな社長カー!
“ 摘む ”だけじゃない。見る・話す・味わうホップ作業
圃場見学後は、醸造所に移動して摘み取り作業がスタート。

▲ホップオーナーにひでじスタッフ9名が加わり、31名で作業開始

▲作業しやすいようにスタッフが短く切り取ったツルの束をまとめ、参加者がホップの実を一つずつ手摘みしていく
今年は鈴なり状態の大量収穫を見込んで事前にスタッフで摘み取りを進めていたとはいえ、ツルごとホップが詰められた大きな袋が何十個も。135株分のホップを一つずつ手で摘みっていきます。
摘み取ったホップはコンベアに乗せられ、まとまった量になると電動で一気に運ばれて保存袋へ。これを何回も繰り返しておよそ4時間。地道な作業ですが、参加者同士でおしゃべりしていたらあっという間なんです。
初めて作業してわかったことですが、ホップは葉や茎にも細かい棘があるので、肌に直接触れるとかゆくなるんですね。これは確かに手袋と長袖長ズボンが必須。この日は雨のために熱中症の心配がありませんでしたが、例年だと厳しい暑さの中で長時間続く作業なので、ホップの生産者には本当に頭が下がります。
そして休憩では、待望の樽生ビールが振舞われました。
待ってましたとばかりに摘み取ったホップをビールに!運転手や飲めない人はミネラルウォーターやソフトドリンクにホップを浮かべます。

▲醸造所でいただく樽生のひでじビール!フレッシュでクリーンな香りでリフレッシュ
雨の蒸し暑さが一瞬で吹き飛び、体の中からすーっと生き返りました。
途中から五ヶ瀬圃場の栽培管理を担っていた「霧立山地・ごかせ農園」の秋本さんご一家も助っ人に加わり、ハイペースな作業で予定通りに終了。
参加者は醸造所で着替えやシャワーを済ませて17時からお待ちかねのBBQ交流会です。

▲工場直営ショップではビールのほかに宮崎特産のおつまみやブルワリーグッズを販売中。見学通路から醸造ルームの見学も可能
覚悟はしていましたが、とにかく食事量がすごい九州人の宴会。
移住してすっかり九州ナイズドされた胃袋でも太刀打ちできない量の肉野菜が次々と焼き網に乗せられ、参加者の差し入れや持ち寄った料理も振舞われて、樽生のひでじビール全6種類が飲み放題!言うまでもない天国です。

▲この瞬間をどれほど待ち焦がれていたか!(ハンドルキーパーにはお土産のビール詰め合わせがもらえる)

▲「どんどん食べて食べて!」と焼き奉行に徹する永野社長。持参した御酒飲帳に社長印(通称BOSSスタンプ)もゲット
まさに、全身で宮崎のおもてなしを感じる幸せな収穫祭でした。
過去最高記録達成!農家が語る「手間を惜しまないという愛情」
森さん「皆様の応援で今年の栽培も頑張ることができまして、1圃場での過去最高の収量となりました!さらに皆様の頑張りのおかげで無事に全てのホップの摘み取りを完了させることもできました。皆さんが楽しんでいるところや交流してる姿を見れて、すごくうれしく感じております!私自身もすごく楽しみながらいい時間を過ごせました。改めて皆様に感謝です」
「予想以上の収穫量だったから、今日中に終わると思っていませんでした(笑)」
そう森さんが言うほど、過去最高の収穫量を記録した五ヶ瀬圃場。
最終的な収量は、5アール135株(栽培品種カスケード)、生状態で112kg、60kgだった昨年の倍近い収穫量となりました。そのうち102kgはすぐに低温乾燥にかけ、8〜9時間の乾燥処理を施してから粉砕。この乾燥粉砕ホップは、通年で醸造しているレギュラー商品「九州ラガー」にも使われるため、長期保管を目的として酸化を防ぐ真空状態で冷凍保存しています。

▲乾燥後に地元の鉄鋼会社が製作したホップ専用粉砕機で一気に粉々(画像提供:宮崎ひでじビール
残り10kgについては乾燥せず、ホールのままで冷凍保存。
フレッシュホップがもつ香りや鮮度をそのまま閉じ込めて、7月22日(火)に2025年初のフレッシュホップビールの仕込みで使用されました。オーナー専用ページに投稿された仕込みのライブ配信中、「これまでは使える量を計算して使ってたけど、今年は好きなだけ贅沢に使えます!」と、うれしそうに頬をゆるめていた森さん。
収穫祭は初めて参加したという「霧立山地・ごかせ農園」の秋本さんにお話を聞きました。
「愛情たっぷり注いで育ててくださってありがとうございます」と言われた言葉が心に響きました。今年は目標だった100キロを超える収穫ができたこともうれしかったですね。オーナーの皆さまが大事に摘み取ってくださり、ベルトコンベアーでホップが流れていくときは、あの場にいたみんなが笑顔溢れる瞬間だったと思います。永野社長の「宮崎でホップ圃場のあの風景を見ることができるとは思わなかった。業界も注目すると思う」とおっしゃって下さったのも心に残る言葉になりました。

▲「一番大変だったのはツルの下葉処理。ツルがうまく上に伸びてくれるようにどのツルをどの誘引紐に巻きつけるのか慎重に行いました」(画像提供:「霧立山地・ごかせ農園」秋本様)
秋本さんに、昨年の倍量近くとなった大幅な収量アップの要因を尋ねたところ、「肥料を変えるなど試行錯誤していますが、なによりも【手間を惜しまなかったこと】でしょうか。地道で丁寧な作業ひとつずつが実った気がします」
と、答えてくれました。
雨も苦労も笑顔に。ひでじビールの“楽しむ力”が実った日
栽培当初は、「九州・宮崎では難しい」「絶対無理」とまで言われたひでじビールのホップ栽培ですが、今では商業レベルの仕込みに使えるほど安定した品質と収穫量を記録するまでになりました。
その道のりは、決して平坦ではありませんでした。
根腐れや病原菌によって何度も壊滅的なダメージを受けながら、そのたびにスタッフ総出で原因を探り、改善改良を重ねてきました。
どんな困難を抱えても、折れずに立ち上がれる底力の源は一体なんでしょうか?

▲外は滝のような轟音を立てて降る豪雨でもテントの中は笑いが絶えない。片伯部工場長(中央)もこの笑顔
おそらくですが、「楽しめる力」だと感じました。
1日中ひどい土砂降りでしたが、誰よりも作業を主体的に楽しんでいるように見えたのが、永野社長をはじめとしたブルワリーのスタッフ。雨に濡れながらも笑い合い、地道な作業にも遊び心を忘れず、失敗も「次へのヒント」に変えていく。そんな明るさとしなやかさ。スタッフの表情や言葉の端々にそれを感じます。
「どうせなら楽しく!」「なんでも面白がってやろう」という空気が流れていました。

▲ホップを育てるプロセスもビールの仕込みやイベントも、主催者が楽しんでいる様子がよく伝わる
この「楽しむ」という前向きな姿勢と軽やかさが、たくさんの仲間やファンを引き寄せ、困難に立ち向かう力を生み、それがやがて地域の産業を変えていく。
その全力で楽しめる力が熱意となって、一粒一粒のホップに宿る。
そう思わせてくれるのが「ひでじマインド」のような気がします。
ちなみに本記事は、フレッシュホップビールの仕込みのライブ配信を見ながら書きました。あの日の清々しい香りと甘い麦汁の香りを連想しながら。「楽しい!」は伝播していくもので、共鳴してこちらまで楽しくなっちゃうんですよね。
場の安心感や一体感が、楽しい感情を後押しして周りを巻き込むのかもしれません。
過去最高の実りと笑顔に恵まれて、 “楽しむ”が根づいていた「ホップ収穫祭2025」でした。

▲ハンドルキーパーのお土産ビールと延岡で集めたスタンプ。フレッシュホップのおすそ分けは冷凍して使い道を思案中
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