TOP

【中編】祝祭の熱狂から、遠野の空に伸びる緑の聖地へ【遠野ホップ収穫祭2025】

※本記事は、【前編】この乾杯を、待ちわびて。1万6千人が熱狂したホップの里へ【遠野ホップ収穫祭2025】の続編です。


聖地の恵みを味わい尽くす

セレモニーの後は、まんまと「一番搾り」が飲みたくなりキリンブースへ。
「キリン 一番搾りプレミアム」と、遠野産完熟トマトジュースを使ったビアカクテル「遠野トマトのレッドアイ」が、会場の熱気を受けて火照った体に染み渡ります。
ビールブースは、地元遠野の「遠野麦酒ZUMONA」「遠野醸造」「GOOD HOPS」の3社に、キリンビールとスプリングバレーブルワリー(SVB)で30種類以上のビールを提供。

遠野麦酒ZUMONAの醸造長、坪井大亮さん(左)。運営元の上閉伊酒造では夏季限定の日本酒・夏酒も販売

遠野醸造の醸造長 山下さん。遠野産ホップ「IBUKI」を使った「サマーゴールデン」と「IBUKI PALE ALE」

ノンアルコールビールやソフトドリンクのコーナーには「遠野風の丘ホップソーダ」も。

飲めない妊娠中はこの「遠野風の丘ホップソーダ」にどれだけ救われたことか

ビールだけではないドリンクの選択肢があるのも、ホップの里ならではの懐の深さ。長丁場なので適度にノンアルコールもいただきました。
フードも遠野や岩手の旬の食材を使った名物料理が並びます。

ビールは(左から)ZUMONA「IBUKI HOP IPA」とGOOD HOPSのESB「Trinity」、遠野ジンギスカンとホップフランクに遠野わさびを添えて

遠野産ホップ「IBUKI」を使ったビールが飲み比べられるのも遠野ならではの贅沢でしょう。ビールとあわせたのは遠野のホップエキスを使った「道の駅 遠野風の丘」のホップフランクと葉わさびソーセージ、「焼肉ホルモン彦政」のジンギスカン。ここで秘密兵器、東北トップクラスの生産量を誇る本わさびを投入。栽培を手掛けるのは、地域おこし協力隊として関東から遠野に移住した吉目木啓予(よしめきひろよ)さん。
遠野では清らかな水資源で育つ本わさびも名産品として知られています。

啓予さんはわさび、築(きづき)さんはホップ栽培に従事する吉目木ご夫妻

この本わさびが大正解!わさびの突き抜けるような爽やかな香りと辛みが、ジンギスカンやフランクの旨味をぐっと引き立ててくれました。

昼過ぎには完売したSVB。「東北中の在庫をかき集めてます!」というスタッフのうれしい悲鳴が盛況ぶりを物語る

一期一会の出会いも、ビールのおいしさを引き上げる

ふと会場を見渡すと、ビールサーバーを背負った屈強な売り子がいるではないですか!

昨年はお客さんとして来場したほど、ビール好きとして知られる日本製鉄釜石シーウェイブスの長田選手

釜石市を拠点とするラグビーチーム「日本製鐵釜石シーウェイブス」の長田将大選手です。屈強なラガーマンがビールサーバーを背負い、キンキンに冷えたラガービールをサーブ!「ラガーマンがラガーを注ぐ」というインパクト抜群のサービスにすかさず挙手!迫力と楽しさが詰まった“ここだけの乾杯体験”は、話題性と体験性を兼ね備えた最高のプロモーションでした。

「泡ばかりになっちゃったから…」と申し訳なさそうに後から注ぎ足してくれた長田選手の丁寧な仕事ぶりにファンになった

隣の席に座った女性2人組は、盛岡から毎年参加しているという同級生。「この日のために予約した観光列車で来るのが楽しみ」と、うれしそうに話してくれました(おつまみもご馳走になる)。初対面の知らない人も、今日この瞬間からビール仲間。これもビールの引き寄せる一期一会の魔法ですよね。

ホップ農家の西舘さんご夫妻

キュートなホップキャラのTシャツが目を引くペアはホップ農家、西舘さんご夫妻。日本産ホップ「MURAKAMI SEVEN」を栽培していると聞き、大好きな「MURAKAMI SEVEN IPA」の話で盛り上がりました。生産者と飲み手がこんなにも自然に出会えて笑い合える。これも普通のビールイベントではなかなか見られない景色。

空高くのびる生命力に圧倒的される「ホップ畑体験会」

見上げるほどのホップのカーテン。生命力に満ちた絶景が広がる

収穫祭の人気コンテンツのひとつ、「ホップ畑体験会」は、生産者のガイドつきでホップ畑を見学できるツアー。1日3便、実際にホップを栽培している圃場で会場からマイクロバスで移動し、土日2日間で6回開催していました。今回は事前予約していた15時30分の会に参加。

参加者は写真撮影やフレッシュな香りを間近で楽しめる

初めて見る人が驚くのはまずホップ棚の高さ、見渡す限り広がる緑のカーテンです。
さらに驚いたのは、高密度で成る実、鞠花の多さ。つるの太さも樹勢も立派でこれが日本一のホップ生産地の実力かと、ただただ感動するばかり。

「醸造魂」を背負うキリンビール仙台工場担当者。キリンホームタップの会員特典として、オーナーは畑で乾杯できるとか!

愛知県から地域おこし協力隊として移住してきた若手の女性ファーマーと話す機会がありました。「ホップの香りに魅了されて」と語る彼女の目は、本当にキラキラしていました。

収穫を目前に控えたIBUKIの圃場。葉の緑は濃く、勢いも旺盛

【後編】へのプロローグ:ビールの名前に思いを乗せて


会場に戻ると、ステージではドイツ民謡楽団「ALPINA」の陽気な演奏が響き渡り、オクトーバーフェストで欠かせない乾杯の歌「Ein Prosit」(アイン・プロージット)で盛り上げています。夕方になっても祝祭の熱気は冷める様子がありません。

参加者が列になって会場内を練り歩く(「Polonäse(ポロネーゼ)」)には多田市長の姿も

17時30分、ステージで開催されたのは、収穫祭実行委員長で株式会社BrewGood代表の田村淳一さんと、GOOD HOPSの醸造責任者で「ホップ博士」こと村上敦司さんのトークライブ。テーマは「日本産ホップの未来」。

GOOD HOPSを立ち上げた株式会社BrewGood代表の田村淳一さん(左)とGOOD HOPSの醸造責任者、村上敦司さん(右)

村上博士「まず会場の皆さんにちょっとお礼を言いたいのですが、いいですか?こんなにたくさんの方々が県内外から集まってくださって、うれしそうにビールを飲んでいらっしゃる。これを毎年見させていただいていますが、本当にありがたいと思っています」

まず会場に集まった人々へ頭を下げ、感謝の言葉を述べた村上博士。

村上博士「でもね、数年前からなんか変じゃない?って思い始めたんです」。

村上博士「だってここ遠野ですよ?(笑)そんな簡単に来れる場所じゃないんですよ。それなのに、今日初めての方もいらっしゃれば、3回目、4回目ですっておっしゃる人も(笑)。絶対変です!(笑)。その皆さんへのお気持ちを、なんとか形にしたくなっちゃったんです」。

喜びにあふれた言葉に、会場から温かい拍手が送られます。

村上博士「実は、GOOD HOPSで出している『フェスティバルシリーズ(収穫祭限定ビール)』は、皆さんのことを思って造りました。3種類あるんですが、飲み終わった缶を並べると、一つの”センテンス”が浮かび上がる仕組みになっているんです」。

ハッとして、テーブルに貼られているビールリストに目を落としました。

「A Summer Day,」

「falling in love with」

「Tono Hops.」

(ある夏の日、遠野のホップに恋をする。)

カンマとピリオドまで含めて、それは完璧な「一つの文章」でした。

村上博士「これ、『遠野にハマってしまいました』とおっしゃる皆さんのことです」

ホップへの愛、この地への愛、そして私たち飲み手への感謝。
その全てが詰まった仕掛けに、心を鷲掴みにされてしまいました。ホップ博士が語る革新的な技術、そして主催者が描く遠野の未来。収穫祭のためにリリースされたビールは、壮大な物語への招待状だったのかもしれません。

 


次回、【後編】常識のその先へ。ホップの里に灯る未来への挑戦譚【遠野ホップ収穫祭2025】では、この祝祭を支えるキーパーソンの言葉から、その核心に迫ります。

アバター画像
ライター|編集者

愛知県知多半島出身、大分県大分市在住。
中央大学法学部法律学科卒業後、名古屋と東京の出版社・編集プロダクションで雑誌や広告、販促物の制作に携わり、2010年からフリーとして紙・WEBを問わず数多くのコンテンツ制作を担当。「ビール(クラフトビール)」「飲食」「生活」「地域」「教育文化」の制作多数。キャリア20年にわたる取材現場経験と行動分析学に基づくアプローチで、「思い」を汲み取り、行動心理に訴える表現をご提案します。
好きなビアスタイルはジャーマンピルスナー。

【ビール関連の実績】
書籍『日本のクラフトビール巡り 全国203ブルワリー集合!ビアEXPO公式本』
クラフトビールのECサイト「ビールの縁側」ブルワリーインタビュー
フリーペーパー『静岡クラフトビアマップ県Ver.』
書籍『世界が憧れる日本酒78』(CCCメディアハウス)
雑誌『ビール王国』(ワイン王国)
グルメ情報サイト『メシ通』(リクルート)
ブルワリーのウェブサイトやPR制作等、多数

【メディア出演】
静岡朝日テレビ「とびっきり!しずおか」
静岡FMラジオ局k-mix「おひるま協同組合」
UTYテレビ山梨「UTYスペシャル ビールは山梨から始まった!?」
静岡新聞「県内地ビール 地図で配信」「こちら女性編集室(こち女)」等

この著者の他の記事