【山梨】「Japanese Beer Style」の礎に。絶滅寸前の「かいこがね」を復活させた小林ホップ農園が、ついに北杜市産新種ホップの開発に成功!
八ヶ岳と南アルプスに囲まれた山梨県北杜市。
寒暖差が大きく、豊富な日照量を誇る北杜市は、ホップの一大産地として戦前には市内全域でホップ栽培が行われていました。800~900戸あまりの農家がホップ栽培に従事していた全盛期の1957年、圃場で偶然発見されたのが、鮮やかな黄緑色の葉をもつ「かいこがね(甲斐黄金)」。「信州早生」の突然変異から生まれた「かいこがね」は、1980年3月31日に品種登録され、国産ホップ第1号として知られるようになります。
ところが戦後、安い外国産品種が大量に輸入されるようになってからホップ農家は激減。1990年代にはほとんどの農家が離農し、「かいこがね」を守り続ける農家は、浅川定良氏のわずか1軒だけに。絶滅の危機に瀕していた「かいこがね」を浅川氏から継承したのが、若手ホップ農家「小林ホップ農園」の小林吉倫氏です。
2014年に北杜市内の0.4ヘクタールの圃場から試験栽培を始めた小林ホップ農園は、現在1.5ヘクタールの圃場で「かいこがね」を含む約20品種のホップを栽培。生ホールホップ、乾燥、ペレットと使いやすいように加工し、出荷まですべて自社で行っています。
信州大学農学部でバイオテクノロジーを専攻していた小林氏は、科学的アプローチに基づき徹底した生産管理を行いました。さらにデータの少ないホップの栽培ノウハウを全国の農家やビール醸造家、技術者達と共有。その尽力の甲斐あって、絶滅寸前だった「かいこがね」はここ数年で復活の兆しを見せています。
※小林ホップ農園については昨年(FHF2018)の記事もご参考に
“種を継ぐ人” 日本在来種発祥の地で未来をつむぐ【小林ホップ農園】
初めての秋ごしらえ。「かいこがね」は苦戦を強いられた
現在、小林ホップ農園で栽培されている「かいこがね」は240株。
これは農園が扱うホップ株数全体の15%程度にあたりますが、今年の生育には厳しいものがあったと小林氏はいいます。4~6月、芽が伸び始めたばかりのころは病害虫に弱く、手がかかることから、他の品種以上に注意を払っていたそうですが、今年は大半が病害虫のダメージで生育不良になってしまったとか。その理由として、小林氏は「株ごしらえ(※)」のタイミングを掲げました。
※株の不要な根や芽を取り除き、成長に備えて選芽すること
「これまでは春先に作業していましたが、今年はかいこがねを含む数品種の株ごしらえを秋に行いました。春先は忙しいので、作業効率を上げようとして秋ごしらえにして越冬させたんです。ところが土をかけすぎたのか、冬の間に土壌の病害菌に根が感染してしまったようです。病斑に気づいてから肥料や薬剤で対応しましたが、回復しませんでしたね」
なんとか事前に予約していた取引先分の収量は確保できたそうですが、他の品種に関しても、「今年はちょっと苦戦しました」と苦笑いが漏れます。生育期の初夏に曇天や雨が続いたことで日射量が足らず、成熟がいまひとつだったとか。
「花つきには問題ありませんでしたが、毬花が肥大しても中のルプリンの生成がいまひとつで、成熟を待っていたら今度は花全体が変色を始めてしまったんです」
ホップは8月上旬に3回に分けて収穫されましたが、成長に応じた収穫期の見極めの難しさも語ってくれました。ただ、総じて収量が減少したというわけではありません。
「まだ正確な収量は計算できていませんが、株あたりでいえば『信州早生』は昨年比で1.2~1.3倍、スターリングに関しては400倍もの収量になると思います。栽培3年目のスターリングは蔓高が3.5mから6mに成長して、ようやく収穫できる段階になったからですね」
同じ条件でも、品種によって生育や収穫量のバラつきが大きいのがホップ栽培の難しさ。
今年の印象としては病害虫と気候に悩まされながらも、株数全体の25%を占める主力品種「信州早生」はまずまずの様子です。
目標として、株当たりの収量を上げることと品質維持。
それに加えて、育種や品種改良を掲げていた小林氏ですが、これまでの地道な努力が実り、ついに「かいこがね」に次ぐ、国産新品種の開発が実を結びました。
念願の北杜市産ホップの新品種が誕生
「来年、ようやく新しい国産品種をリリースできそうです」
日本の栽培環境に適していて、収穫量も見込める国産品種開発。
かねてから育種に力を注いでいた小林氏は、念願だった北杜市産のオリジナル品種の開発に成功したとのこと。来年の品種登録に向けて準備を進めています。
新種の特徴として真っ先に挙げられたのは、「育てやすさ」
「病害虫に強く、成長力があります。花の大きさは小ぶりですが、葉が小さいので茂っても光が当たりやすく、花つきはとてもいいです。高さが8mほどになるので蔓下げの必要がありますが、うまく育てば収穫量に期待できる品種です」
醸造に使えるだけの安定した収穫量と、清涼感のある香りのオリジナリティ。
ビールでもその地域ならではの魅力や文化、付加価値を見出そうとする「テロワール」の概念が注目される中、日本生まれのビールに欠かせないのが日本生まれの原材料、ビールのキャラクターを決めるホップの存在です。
小林ホップ農園から生まれる新しい国産ホップには、「Japanese Beer Style」の基盤となり、国産品種のスターになりうる可能性を秘めています。
小林ホップ農園のフレッシュホップビールについて
小林ホップ農園のフレッシュホップを使ったビール(主に国産「かいこがね」と「信州早生」の提供先)は、以下のブルワリーで醸造される見通しです。リリース詳細に関してはブルワリー各社にご確認ください。
■かいこがね
8Peaks BREWING(長野)、TOKYO ALEWORKS(東京)、イサナブルーイング(東京)
■信州早生
COEDOブルワリー(埼玉)、八ヶ岳ブルワリー(山梨)
<参考>
※「COEDO BREWERY」のフレッシュホップビールについてはこちらもご参考に
コエドブルワリー ホップ農家と協力、そして日本産フレッシュホップビールを!
※「イサナブルーイング」のフレッシュホップビールについてはこちらもご参考に
東京都昭島市 イサナブルーイング フレッシュホップビターを醸造予定、ナイトロ版提供有!
※「TOKYO ALEWORKS」HP
https://tokyoaleworks.com/
また、自社でも毎年ホップを使ったオリジナルビール「北杜の華」をOEM醸造で販売しています。こちらは11月以降に農園事務所や北杜市内のスーパーで購入できる見通しです。
日本固有のホップの伝承と発展に努める小林ホップ農園。
日本のビール文化の未来へつながる国産ホップの誕生に、大きな期待が寄せられています。
圃場DATA
法人名:小林ホップ農園
所在地:山梨県北杜市高根町上黒沢字東久保1524外
管理者:小林吉倫
栽培面積:1.5ヘクタール
栽培品種:カイコガネ、カスケード、チヌーク、ハラタウ、ザーツ、センテニアル、ニューポート、信州早生、ソラチエース、スターリング、ナゲット他(約20種類)
栽培年数:6年目
農園HP:http://hokutohops.com/
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