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コラム

ホップの華やかな香りを形作る5種類のモノテルペンアルコール

ホップには、カスケード、シトラなどさまざまな品種があり、それぞれが個性的な香りをもっています。その香りは多種多様な香気成分によって形成されていますが、なかでも「モノテルペンアルコール」と総称される一連の化合物は、花や柑橘類のような華やかな香りをもっており、各品種の香りを特徴づける成分といえます。
この記事では、ホップ由来の主なモノテルペンアルコールを5種類紹介します。

ゲラニオール

ゲラニオールは、バラのような香りをもつモノテルペンアルコールです。種々のテルペン類(モノテルペンアルコールやステロイドなどの生理活性物質)の生合成の起点となる、重要な物質です。

構造式

ゲラニオールの構造式

生成経路

ホップには、ゲラニオールそのものが含まれるほか、ゲラニオールのエステル(酸に付加したもの)や配糖体(糖に付加したもの)も存在します。エステルや配糖体は、バイオトランスフォーメーション(酵母によるホップ成分の変換反応)によって、ゲラニオールとなります。

どんなホップを用いたビールに多く含まれるか

ゲラニオールは、アマリロ、ブラボー、モザイク、チヌークなどのホップを用いたビールに多く含まれています。

なお、ビール中のモノテルペンアルコールの含有量は、ホップの品種だけではなく、産地(テロワール)や収穫年(ヴィンテージ)、保管状態、醸造時の投入方法などによっても大きく変動します。そのため、ここで挙げているホップの品種は、あくまでも一例と考えてください(以下で紹介する4成分も同様です)。

ネロール

ネロールは、前述のゲラニオールのシス-トランス異性体(幾何異性体)であり、ゲラニオールに似た、バラのような香りをもっています。

構造式

ネロールの構造式

生成経路

ネロールは、ホップ中に元々含まれるほか、ゲラニオールのエステルや配糖体からのバイオトランスフォーメーションによって生成されます。

どんなホップを用いたビールに多く含まれるか

エクアノット、ヴィックシークレット、ブラボー、モザイクなどのホップを使用したビールに、ネロールが多く含まれます。

リナロール

リナロールは、ゲラニオールやネロールのヒドロキシ基(-OH)が転位(移動)した構造の化合物です。その香りは、スズラン、ラベンダー、バラなどと形容されます。

構造式

リナロールの構造式

生成経路

リナロールは、ホップ中に含まれるほか、ゲラニオールやそのエステル・配糖体、ネロールからのバイオトランスフォーメーションによっても生じます。

どんなホップを用いたビールに多く含まれるか

リナロールは、フラノビューティー、アマリロ、サザンクロス、ソラチエース、シトラなどのホップを用いたビールに多く存在します。

α-テルピネオール

α-テルピネオールは、ゲラニオールやネロール、リナロールが環化した構造をもちます。ライラックやスズランなどといったニュアンスの香りをもちます。

構造式

α-テルピネオールの構造式

生成経路

α-テルピネオールは、ホップ中に含まれるほか、ネロールやリナロールからのバイオトランスフォーメーションによっても生成します。

どんなホップを用いたビールに多く含まれるか

サザンクロス、リワカ、モトゥエカ、パシフィックジェイド、ソラチエースなどのホップを用いたビールに、α-テルピネオールが多く含まれます。

β-シトロネロール

β-シトロネロールは、ゲラニオールの還元で得られる化合物です。その香りは、バラ、レモン、ライムなどと表現されます。

構造式

β-シトロネロールの構造式

生成経路

ここまでに紹介した4成分とは異なり、β-シトロネロールは、ホップにはほとんど含まれていません。ゲラニオールやそのエステル・配糖体からのバイオトランスフォーメーションによって造り出されます。

どんなホップを用いたビールに多く含まれるか

β-シトロネロールは、アマリロ、ブラボー、ポラリス、エクアノット、サミットなどのホップを使用したビールに多く含まれます。

モノテルペンアルコールの種類を想像しながら飲んでみよう

ビールに含まれる香気成分「モノテルペンアルコール」の種類や濃度は、用いるホップの品種によって大きく異なり、各ホップの特徴的な香りの形成に寄与しています。
花や柑橘類のような香りが明確に感じられるビールを飲んだときには、ホップの品種だけではなく、どんなモノテルペンアルコールが含まれているかも想像してみると面白いですよ。

主な参考文献

  • Takoi, K.; Itoga, Y.; Koie, K.; Takayanagi, J.; Kaneko, T.; Watanabe, T.; Matsumoto, I.; Nomura, M. “Systematic Analysis of Behaviour of Hop-Derived Monoterpene Alcohols During Fermentation and New Classification of Geraniol-Rich Flavour Hops” BrewingScience 2017, 70(11/12), 177-186.
    https://doi.org/10.23763/BrSc17-17takoi
  • 秋久俊博、小池一男 編『資源天然物化学』(共立出版、2017年)
ビアジャーナリスト

1982年大阪市生まれ。大阪府立大学大学院修了、博士(工学)。専門は有機化学。趣味は合唱。
キリンビールが2007年に実施した、歴史的ビール復元プロジェクトの「復元ビール味覚評価会」にたまたま参加。ビールの奥深さ・幅広さに圧倒され、ビール好きとしての第一歩を踏み出す。
2012年、新婚旅行で訪れたドイツ・ミュンヘンのビアガーデンで飲んだビールの爽快さに感激。以降、ビール愛にあふれた生活が始まる。
目下の悩みの種は、自宅の冷蔵庫がビールで占有されていっていること。レアなビールを開けるきっかけと勇気、そして一緒に味わってくれる仲間を募集中。

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