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コラム

ソラチエースの特徴的な香りとは?香気成分と相互作用に化学で迫る

ソラチエースを用いたビールからは、独特のウッディな香りが感じられます。
では、ソラチエースとはどのようなホップで、個性的な香りは何に由来するのでしょうか。含まれる香気成分、さらには香気成分間の相互作用について、筆者の専門である化学の視点も交えて解説します。

ソラチエースとはどのようなホップか

まずは、ソラチエースの歴史と、香りの特徴について紹介します。

歴史

ソラチエースは、サッポロビールが育種し、1984年に品種登録されたフレーバーホップです。品種登録後、実に18年も経ってからアメリカでその個性を見いだされ、クラフトビール業界に広まりました。

1975年
サッポロビールが北海道空知郡上富良野町にて育種開始
(1975年~1984年の間)
ブルワーズゴールド(雌株)とザーツ(雄株)をかけ合わせて、70K-SH6を開発
さらに、70K-SH6(雌株)とBeikei No. 2(雄株)をかけ合わせて、ソラチエースを開発
1984年
品種登録
1994年
サッポロビールの研究員の手によりアメリカに渡る
2002年
ワシントン州でホップ農場バージル ガメシュ ファームズ(Virgil Gamache Farms)を営むダレン・ガメシュ(Darren Gamache)氏が、同州立大で試験栽培されていたソラチエースの香りに魅了され、商用栽培に乗り出す
2006年
バージル ガメシュ ファームズがソラチエースの販売を開始
2010年代〜
アメリカを中心としたクラフトビール業界に浸透

ソラチエースの香りの特徴

ソラチエースを用いることで、他のホップでは得られない、個性的な香りをビールに付与することができます。
その香りのニュアンスは、ウッディ、松、ヒノキ、ディル、シトラス、レモングラスなどと表現されます。

ソラチエースの特徴的な香りを構成する主な成分

では、ソラチエースの特徴的な香りはどのような成分に由来するのでしょうか。ソラチエースを用いたビールに含まれる個々の香気成分と、それらの相互作用について解説します。 

個々の香気成分

ソラチエースを用いたビールの独特な香りは、主に、テルペノイドと総称される以下の香気成分に由来します。
なかでもゲラン酸は、ソラチエース以外のホップを用いたビールにはほとんど含まれておらず、特徴的な成分といえます。

  • ゲラニオール(バラの香り)
  • リナロール(スズラン、ラベンダー、バラの香り)
  • β-シトロネロール(バラ、レモン、ライムの香り)
  • (S)-ペリリルアルコール(甘いフローラルな香り)
  • ファルネソール(スズランの香り)
  • ゲラン酸(ウッディな香り)
テルペノイドの構造式

ソラチエースを用いたビールに含まれる主な香気成分

嗅覚閾値に満たない濃度のゲラン酸の寄与

上記のように、ゲラン酸はソラチエースに特徴的な香気成分といえます。
しかし実は、ソラチエースでドライホッピングしたビールであっても、ゲラン酸の濃度は通常、200μg/Lに満たない程度。これは、この成分の嗅覚閾値(2,200μg/L)の10分の1未満でしかありません。すなわち、単独では香りを全く感じない濃度なのです。
サッポロホールディングスとサッポロビールがおこなった実験でも、市販のピルスナービールに399μg/Lのゲラン酸を添加しても香りはほとんど変化しないことが確かめられています(下図a)。

一方、同じピルスナーにリナロール(210μg/L)とゲラニオール(40μg/L)を添加したものと、さらにゲラン酸(399μg/L)も追加したものを比べると、香りに明らかな違いがみられます。後者には、ソラチエースの香りの特徴である、グリーン、ウッディ、シトラスといったニュアンスの香りが感じられます(下図b)。

したがって、ソラチエース特有の香りは、ゲラン酸そのものに由来するのではなく、ゲラン酸と他の香気成分との相互作用によって形成されているといえます。

香気成分の相互作用

ゲラン酸と他の香気成分との相互作用によって、新たな香りが形成される

ソラチエースを用いた代表的なビール

最後に、ソラチエースを使用したビールのうち、入手が比較的容易なものを3種類紹介します。

SORACHI 1984(サッポロビール)

SORACHI 1984は、ソラチエースの香りの特徴を前面に出した、すっきりとしたゴールデンエール(アルコール度数5.5%)です。
350mL缶はスーパーやコンビニエンスストアでも購入できるほか、業務用の10L樽もラインナップされています。
https://www.sapporobeer.jp/sorachi1984/

SORACHI 1984

SORACHI 1984は、スタイリッシュな専用グラスも特徴的

BROOKLYN SORACHI ACE(Brooklyn Brewery)

BROOKLYN SORACHI ACEは、ソラチエースをドライホッピングすることで得られた、スパイシー、トロピカルな風味が特徴のセゾン(アルコール度数7%)です。
330mLボトル、350mL缶のほか、Tap Marchéでも展開されています。
http://www.brooklynbrewery.jp/beers/brooklynsorachiace/

常陸野ネストビール ニッポニア(常陸野ネストビール)

常陸野ネストビール ニッポニアは、国産原料にこだわった、深い味わいのビールです(アルコール度数6%)。ソラチエースのほか、日本で開発された大麦「金子ゴールデン」や、酒米「山田錦」を使用しています。
330mLボトルと、業務用の15L樽をラインナップ。
https://hitachino.cc/beer/

ソラチエースの香りを体感してみよう!

日本生まれのフレーバーホップである、ソラチエース。その特徴的なウッディな香りは、微量のゲラン酸と、他の香気成分との相互作用によって形成されています。
皆さんもぜひ、ソラチエースを用いたビールを実際に飲んで、独特の香りを体感してみてください。

主な参考文献

ビアジャーナリスト

1982年大阪市生まれ。大阪府立大学大学院修了、博士(工学)。専門は有機化学。趣味は合唱。
キリンビールが2007年に実施した、歴史的ビール復元プロジェクトの「復元ビール味覚評価会」にたまたま参加。ビールの奥深さ・幅広さに圧倒され、ビール好きとしての第一歩を踏み出す。
2012年、新婚旅行で訪れたドイツ・ミュンヘンのビアガーデンで飲んだビールの爽快さに感激。以降、ビール愛にあふれた生活が始まる。
目下の悩みの種は、自宅の冷蔵庫がビールで占有されていっていること。レアなビールを開けるきっかけと勇気、そして一緒に味わってくれる仲間を募集中。

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