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コラム

採れたホップはどこに売れば良いの?

収穫したホップをどのように利用するのか?

与謝野には「ホップを育ててみたいのだがどうすれば良いのかわからないので視察したい」というお問い合わせが年に何度かあります。

もちろんウエルカムで、知っていることはなんでも答えていますが、逆に「収穫したホップをどのように利用しようと考えていますか?」ということを伺うことにしています。

 

ホップ栽培地が増えることは喜ばしいが、どのように使われるかも考えておきたい。

というのも、ホップという作物は販路が限られているからです。

他の野菜などは一般の消費者や飲食店といった販路が(無限とまでは言いませんが)かなり広いのに比べ、基本的にホップの出荷先は【ブルワリーに限られている】といっても過言ではありません。

そのため、あらかじめどこかのブルワリーに買い取ってもらい「採れたホップでビールを造りましょう」という約束があるほうが良いからです。

 

納品するブルワリーとの約束があるとありがたい。

売り先は生産者が選ぶ?

今ではそんなことを言っている与謝野ですが、栽培を始めた2015年当初は「どこへ売るか?」まで考えていなかったのです。苦笑

しかし、当時はホップを栽培している地域がまだ少なかったおかげで、「ホップを売ってほしい」という問い合わせはそこそこありました。

しかし、与謝野ホップ生産者組合では、注文を受けたブルワリーの全てに販売はしませんでした。

生意気なようですが、売るかどうかは生産者組合側が選ばせていただきました。

売り先を選んだ理由その1

その理由のひとつめは、【ホップがホームブルー(自家醸造)に使われると困る】からです。

私は自家醸造そのものには肯定的ですが、”今の日本で”自家醸造をすることには否定的です。

なぜならば(残念ながら)【日本の法律では自家醸造が禁止されている】からです。

個人で飲むためだけでも違法です。

与謝野でのホップ栽培は町のプロジェクトとして始まったという経緯もありますし、契約栽培ではないホップ産地としては日本初に近い(醸造所が自家栽培しているところはすでにありましたし、与謝野と同時期に山梨県の小林農園や福島のホップジャパンが創業しています)ことだったので、その活動が違法行為の一端を担うことになるのは避けたかったからです。

売り先を選んだ理由その2

もうひとつの理由は、与謝野ホップの【ブランド】がまだ確立していなかったからです。

例えば、大間のマグロがまだブランド力を持っていなかった時に、あなたが寿司屋で「今日のマグロは大間産です」と言われて食べたとします。

その時、その寿司屋の腕が悪く、大間のマグロが台無しな味になってしまっていても「大間のマグロって美味しくないな」という感想を持つことでしょう。

腕の悪いブルワーに与謝野のホップを台無しにされ「美味しくない」と言われる『もらい事故』は避けたかったのです。

さらに、与謝野ホップは「日本産未乾燥の生ホップ」の先駆けだったので「日本産ホップは美味しくない」「生ホップは美味しくない」と言われかねないとも思っていました。

知らないブルワリーから発注があった場合は、そこのビールを取り寄せて飲んでみて、その味で「売るべきか断るべきか」を判断しました。

その結果、何軒かのブルワリーには「申し訳ありませんが、御社には販売できません」と返事をしたことがあります。

今思えば、かなり「上から目線」で生意気な産地ですね。苦笑

なお、この10年間で与謝野ホップのブランド力も上がってきたとの判断からサイトで一般の方にも販売しています。

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※売り切れの場合がございます。ご了承ください。

苗に関してはさらに慎重に

ホップ栽培の視察にいらっしゃった方で、本格的に栽培を始めたいという場合は、苗(株)の販売も行なっています。

この件に関してはホップ販売以上に気を使っています。

というのも、売った先でさらに株分けされると限りなく増えていくからです。

私たち与謝野ホップ生産者組合はアメリカのオレゴン州のホップ苗販売会社から苗を購入しましたが、その際に現地に赴き「1世代までは株分けして販売しても良いが、その先(2世代以上先)は株分けも販売もしてはいけない」という約束をしてきました。

ホップの株は海外産の品種で種苗法の保護を受けているものもありますが、日本では種苗法自体が1998年に公布された比較的若い法律ということや、権利関係のリテラシーや道徳観の低さから、曖昧にされている部分がまだまだ多いと感じます。

種苗法の対象外の品種だとしても、苗のトレーサビリティーはしっかりと管理・把握できるようにしておかなければならない

ブルワリー以外からの注文も

ブルワリー以外で、ホップを購入してくれた業種は、製パン、チョコレート、コーヒー、石鹸、コスメティックなどがあります。

ビール以外での活用法は今後も広がっていくのだろうか?

製パンに関しては、味というよりもホップの酵母でパンを発酵させるとのことです。

ネットで調べてみると、日本にパンが伝わった明治の初頭はホップによる発酵が主流だったという内容が多数ありました。

チョコレートは、世界的に有名なショコラティエが与謝野まで来て実際にいくつかの品種の香りを確かめ、イブキを購入してくれました。

ちなみにこの時のチョコレートは一口で食べられるサイズのものが800円以上の価格になっていました。笑

コーヒーはフレーバー・コーヒーで石鹸も香りがとても良かったです。

コスメティックも柑橘の香りが芳しく、リラックス効果もあるとのことで人気があり、かなり高額な商品でしたが、すぐに完売したとのことでした。

ちなみに、これらの「ビール以外の利用」に関しては、今年は収量が足りないため、与謝野側が発注に答えられない状態になっています。

ビール以外の利用も視野に入れて

与謝野でのホップ作りは、日本産のホップで日本らしいビールを創りたいという思いからスタートしているので、やはりビールにこだわりたいですが、地域によってはビール以外での利用法も視野に入れて栽培する方が良い結果が現れることもあると考えます。

ただ、冒頭にも述べたとおり、ホップ栽培を始める際に、ホップの納品先を考えておくことは重要だと思います。

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ビール評論家・イラストレーター・ホップ生産者

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。
近著「BEER LOVER’S BOOK」(リトルモア刊)が大好評発売中。

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