ホップを保存しよう!〜藤原ヒロユキのホップ栽培日記〜
最近、ホップを育ててみたい。という人が増えてきています。
私の住む与謝野町にも各地から視察の方がお越しになられます。
京都府与謝野町では、2015年からホップ栽培を始め、2018年からは私自身もホップ圃場を開設し本格的にホップを栽培しています。
1年間を通して、私の栽培日記が皆さんのホップ栽培のヒントになれば幸いです。
前回、ホップの「摘みかた」についてお話ししました。
詳しくはこちらをご覧ください。
6/1にアップした「ホップを守ろう」で書いたホップの害虫メイガが、今年は多く発生しています。
メイガの幼虫がホップのツルに入るとそのツルは葉も毬花も枯れてしまいます。
幼虫はツルの中にいるので簡単には見つけることができません。
だいたいはツルが枯れだして「!? どこに入ってる?」と探すと、ツルに小さな穴があり、幼虫のフンが粉のような溢れているので「ここかぁ!」とツルを裂いてみると幼虫かサナギがいます。
退治するのですが、すでに手遅れで、そのツルは枯れてしまう場合がほとんどです。悔しいです。
カビ系の病気も広がっています。大雨警報が出るほどの雨もありましたし、湿度も高かったですから……。
残念ながら、与謝野ホップの今年の収穫量は去年に比べるとかなり悪くなりそうです。
さて、ぼやいていても始まりません。
今回はホップの保存方法についてのお話です。
Contents
摘んだホップをどう使うか?
ホップの毬花は、摘んでそのまま放置するとどんどん劣化していきます。
香りが落ちていくだけならばまだしも、劣化によって「汗臭い」「焦げたタマネギやオニオン」「スカンクのような」といった表現が使われる悪臭に変わっていきます。
このような「悪臭」を出さない方法は
・すぐに使う。
・劣化しないように加工して保存する。
のどちらかです。
摘んだホップをすぐに使う方法は?
摘んだホップを【すぐに使う】と言っても「すぐ」とはどれぐらいの時間でしょうか?
一般的に「摘んだホップをすぐに使ってビールを仕込む」という表現は「摘んで24時間以内に使用する」といった感覚だと思います。
もちろんこれに法的なルールがあるわけではありませんが、摘んだホップをそのまま何も手をかけずに24時間も放置すれば、劣化によって質はかなり落ちていると考えられます。
以前、ホップの名産地のひとつであるアメリカオレゴン州で、ホップの新鮮さに関して、ホップ栽培家やブルワーに訊いたとき、彼らは「within 24hours」という言葉をよく口にしました。
やはり、24時間以内という括りはひとつの指標になっていると感じました。
そのためには、「摘んだホップをすぐに使ってビールを仕込む」には、ホップ畑と醸造所が近くなければなりません。
最近はホップ産地も多くなっているので、条件は整いつつありますし、日本では輸送のスピードもとても速くなっているので24時間以内に栽培地から醸造所に運ぶのも難しくはありません。
しかし、
・使いたい日に、使いたいだけのホップが収穫できるか?
・収穫時間と仕込み時間(ホップを使うタイミング)を合わせることができるか?
といった点はハードルになっています。
また、摘みたての毬花をそのまま使う場合、「手揉み」をしたほうが良いでしょう。手揉みとは文字通り、毬花を手で揉むことです。
そうしないと、ルプリンが詰まった中心部まで麦汁が届かないことがあり、効率が悪くなります。手揉みする時間も考慮しなければなりませんね。
摘んだホップを保存する<未乾燥:真空冷凍>
さて、【すぐに使う】のが難しい場合は、摘んだホップを【保存する】必要があります。
保存の方法は
・未乾燥《フレッシュホップ/ウェットホップ》
・乾燥《ドライドホップ》
の2種類に大別できます。
まずは、未乾燥の《フレッシュホップ 》から紹介しましょう。
香り成分は熱によって揮発するので、未乾燥のほうが香りが残ります。
しかし、乾燥させないと
・常温で空気に触れていると劣化しやすい。
・量がかさばる。
といったデメリットがあります。
そのため、与謝野ホップは摘んだその日のうちに「真空パック」にして「冷凍」しています。
午前中に摘んだホップは午前中に、午後に摘んだホップは午後6時までに真空パックして冷凍します。
最長でも6時間、基本的には3〜4時間以内に真空パックして冷凍庫に入れます。
私たちの経験では、この方法で真空冷凍したホップは数年前のものでも、開封とともに摘みたてホップと遜色のない香りを放ちます。
摘んだホップを保存する<未乾燥編:使用方法1粉砕>
真空冷凍ホップの使い方は、多くの場合【粉砕】して使われています。
前日に冷蔵庫に移すか、室温で数時間おくことで半解凍にし、フードプロセッサーで粉砕します。
(スプリングバレーブルワリー京都で行われたホップ粉砕の様子)
粉砕したホップはメッシュ袋に入れて使用することが多いと聞いています。
摘んだホップを保存する<未乾燥編:使用方法2蒸留>
粉砕以外で最近注目されているのが【蒸留】です。
まずはもっとも手軽(?)な水蒸気蒸留を紹介します。
これは、ヤッホーブルーイングで行われており、その記事は2023年6月23日にアップされているのでご覧ください。
また、減圧蒸留によりホップ水だけでなくホップオイルを抽出することも行われています。
与謝野でも蒸留業者に委託して実験的にオイルを作りました。
とても素晴らしい香りでした。
が、問題は価格です。
減圧蒸留機が高価であること、業者に発注すると1kgのホップから抽出されるホップオイルが1万円近くになります。
摘んだホップを保存する<乾燥編>
さて、今まで未乾燥ホップについて紹介してきましたが、多くの醸造所では乾燥ホップを使っています。
特に、乾燥させて粉砕して固める「ペレットホップ」と呼ばれる状態がほとんどです。
ペレットのメリットは
・保存しやすい。
・品質が均一。
などがあげられます。
デメリットに関しては
・乾燥やペレットに固める際に熱が加わり、みずみずしさや香りが落ちる。
といった点です。
乾燥の方法は様々ありますが、温風で乾燥させるのが一般的です。
乾燥の温度と時間に関しては、農山漁村文化協会が出版した「ホップ」:濱口典成著によると45℃で4〜5時間乾燥させたのち55℃に上げる方法が良いと書かれています。
なお、ホップの摘み取りから乾燥までに関しては、
TONO JAPAN HOP COUNTRYのウェブサイトや東北農政局のウェブサイトも参考になると思います。
ホップの保存法は今後も進化していくのではないかと考えられますので、注目していきたいですね。
では、また季節が変わるころに,,,
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