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ホップの摘みごろは? 収穫時期を見極めよう。〜藤原ヒロユキのホップ栽培日記〜

2023年6月29日@京都与謝野 藤原ヒロユキホップ圃場の様子(ホップ品種:IBUKI)

京都府与謝野町では、2015年からホップ栽培を始め、2018年からは私自身もホップ圃場を開設し本格的にホップを栽培しています。
1年間を通して、私の栽培日記が皆さんのホップ栽培のヒントになれば幸いです。

最近、「ホップの栽培について教えて欲しいことがある」というお問い合わせを多数いただいています。

事情を伺うと、皆さん口々に「すでにホップ栽培を手がけているが上手くいかない」とのことです。

各地でホップ栽培が行われていることを新聞などで見て、「休耕田があるので活用できる」「地元に醸造所ができるのでホップを育てようと思った」という動機で始められたようです。

株をどこで入手したかを伺うと「ネットで購入した」とのことです。品種を訊くと「わからない」とおっしゃる方もいます。

そのような方々が、とりあえずホップ栽培を始めてはみたものの、上手くいかず、ネットで検索したところ「与謝野町」がヒットしたのでコツを伺いたいといった感じです。

現地の画像を見せてもらうと、棚の立て方が根本的に間違っていたりすることもあります。(棚を作りなおさず問題点を改善する方法をお伝えしました)

4/1にアップした「ホップ栽培日記」の第1回目を見ておいていただければなぁ……。と感じました。

これからも、ホップ栽培の疑問にお答えできるように「ホップ栽培日記」を続けたいと思います。

さて、今回はホップの収穫時期・その見極めに関してです。

ホップはどのように毬花になるのか?

ホップの収穫時期を見極めるためには、毬花がどのように育っていくか? をしっかりと知る必要があります。

ホップの毛花が毬花に育っていく過程は、5/15にアップ「ホップ栽培日記:毛花が咲いた」にイラストで載せてありますが、今回は写真で説明します。

この羽根ぼうきのようなものが「毛花」。

 

毛花が軸の根本から毬花になってきた。

 

毬花らしい形になってきた。

毛花の開花から何日目が摘みごろ?

毛花が咲いてから、収穫できるようになるには40〜55日間が必要だと言われています。

1950年代後半に行われた研究調査では、開花から42日目がもっとも毬花の重量が高くなったと報告されています。
が、これはあくまでも信州早生という品種が東北地方で育った場合のデータです。

成長のスピードは品種によって違いますし、気候によっても違うので、やはり自分で見極めることが大切です。

また、6/1付の「ホップ栽培日記:ホップを守ろう」で書いたように、病気や防虫の農薬をいつ撒いたか? も収穫時期に関わってきます。

農薬の種類によって「摘果**日前まで使用可能」という表示があるので、その日数が過ぎるまで摘果できません。
散布から、決められた日にちが経っていないうちに摘み取ることはご法度です。

このようなことにならないように、薬剤散布は「収穫予定日」から逆算して撒き終える必要がある。

大きさは? 色は?

毬花の大きさは品種によって違いますし、何年目のホップか? によっても変わってきます。
アメリカ原産種の場合、親指大以上になれば摘みごろです。日本原産種はそれより少し小さい場合もあります。

以下は、摘み頃の毬花の状態の写真です。

カスケード。蜂などの腹を思わせるやや縦長のシルエット。

 

チヌーク。全体的に毛先(?)が外側に跳ねていく。

 

コロンバス。丸みを帯びている。

触った感触で見極められる?

毛花の開花から40〜55日目という目安はあるものの、最終的には「感覚」で摘み取るかどうか? を決める必要があります。

手がかりは、大きさ、色、触った感触などです。

大きさは、先ほど述べたように(品種によって違いはあるものの)親指くらいの大きさが目安になります。

色も品種によって違いはありますが、淡い黄緑色のものはまだ若いと考えましょう。しっかりとした緑色になるまで待つほうが良いですね。

もっとも重要なのが感触です。

親指と人差し指でクイっと握って、ペシャっと潰れてしまうのはまだまだ若い毬花です。
摘み頃が近づくと毬花がプニュプニュとしだし、握るとグッと押し返してくるような硬さになります。毬花にしっかりとした芯を感じます。

そして、若干カサっとした手触りになります。この感じになったらすぐに摘んでください。
このカサっと感が、ガサガサやパリパリといった感じになると過熟になってしまっています。

めくってみるか? 割ってみるか?

さて、このように摘果のタイミングは「感覚的」な部分に頼らざるを得ないのですが、迷ったら「めくり」と「わり」で確認しましょう。

めくりとは、毬花の房の一部をそーっとめくってみることです。
そこに黄色いプリンがギッシリあれば、摘果です。

わりは、摘もうかどうか迷った毬花と同じ感じの毬花を摘んで割って、ルプリンの量や香り、オイルがどれぐらいあるか? を確かめることです。

黄色く香りが良く、ぬるっとした油分を感じることができれば合格です。

その茶変、大問題?

一片の曇りもない緑色の毬花は最高級品です。
しかし、残念ながら茶色くなってしまう毬花もあります。

この”茶変”には、いくつかの理由があります。

まず、過熟。摘み頃を過ぎ、枯れはじめているものです。これはダメですね。枯れ草のような臭いがします。諦めてください。

次が病気。べと病などカビ系の病気が原因で茶色くなったものです。

そして、葉こすれ。葉や他の毬花とこすれて茶色くなったものです。

さてここで問題です。
次の2枚の写真のうち、どちらの毬花に大きな問題があるでしょうか?

A。 一片だけ茶変している。

 

B。 全体的に茶変している。

多くの方が、Bの毬花に重大な問題があるとお考えではないでしょうか?

それでは、それぞれの毬花を割った写真をご覧ください。

Aの毬花を割ったところ。茶変がルプリンの部分まで進んでいる。

 

Bの毬花を割ったところ。茶変は表面だけでルプリンの部分には及んでいない。

実は、Aのほうが問題のある毬花なのです。

Aは病気によって、Bの毬花は葉擦れによって茶変しています。

Aのように中まで茶変が及んでしまった毬花は焦げたタマネギや焼いたニンニクのような香りがします。
「ほんのちょっとの茶変だから問題なく使えるでしょう」と思いがちですが、Aのほうが問題の大きい茶変なのですね。

Bの毬花は表面を削ってやる(ハサミで茶変の部分をカットする)と使うことができますが、Aの場合はリカバリーすることはできません。

Aのような毬花を見つけた場合は、病気が広がらないようにすることが大切です。
すぐに摘んで、廃棄処分にする必要があります。

では、また季節が変わるころに,,,

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ビール評論家・イラストレーター・ホップ生産者

1958年、大阪生まれ。大阪教育大学卒業後、中学教員を経てフリーのイラストレーターに。ビールを中心とした食文化に造詣が深く、一般社団法人日本ビアジャーナリスト協会代表として各種メディアで活躍中。ビールに関する各種資格を取得、国際ビアジャッジとしてワールドビアカップ、グレートアメリカンビアフェスティバル、チェコ・ターボルビアフェスなどの審査員も務める。ビアジャーナリストアカデミー学長。著書「知識ゼロからのビール入門」(幻冬舎刊)は台湾でも翻訳・出版されたベストセラー。近著「BEER HAND BOOK」(ステレオサウンド刊)、「ビールはゆっくり飲みなさい」(日経出版社)が大好評発売中。

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